高須光聖×TeaRoom岩本涼が探る 「抹茶の未来と可能性」第一回
1300年以上のあいだ日本で親しまれるとともに、抹茶や茶道などの形で日本独自の文化へと発展してきた「お茶」。
いまやフレーバーとしての抹茶は世界で人気となっているものの、その裏にある精神性は、日本国内においても浸透しているとは言えないのが現状だ。
放送作家でありながら地方創生のブランディングにも携わる高須光聖氏と、裏千家茶道家にして文化と産業を架橋に挑む事業を行うTeaRoom代表 岩本涼氏に、茶道を志す若者たちも加え、お茶や抹茶の持つ真の魅力を世界に伝える手法を探っていきます。
抹茶の魅力を世界に伝えるには
- 高須さん(以下、高須):
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放送作家の高須光聖と申します、今日はよろしくお願いします。
実は僕、これまでは抹茶に興味がなかったんです。お茶自体も、これまでの人生であまり飲んだことがなかった。そんな僕が島根県に行ったことで、お茶に興味を持ったんです。出雲大社に、自分の山の木を提供されている田部さんという方がいらっしゃって。「出雲大社遷宮の杜」という名前のもと、僕はブランディングを手伝っているんですね。
その活動を通じて、島根にはお茶文化があるんだ、島根では茶碗を回さないで飲むんだ、ということを知ったりして。抹茶ってすごく面白いなと思ったんです。歴史もあり、芸術性もある、日本の深い精神性を感じられる文化だな、と。
いわゆる縦の深さじゃなく、横の幅をもっと広げる方法はないかな、と勝手に考えたんです。それで色々と調べているうちに、岩本くんの記事を見て。すごく若いのに、いろんなことをされているなと思って、お会いして。彼の話を聞いて、できることは本当にたくさんあるな、と改めて思ったんです。
今回は、ここに集まってくれた学生の方々とともに、抹茶の良さや魅力を世界中に広めつつ、いろんな人と繋がるためのアイデアを考えていきたいな、と思っています。
若き茶人は「型重視」より「思想重視」
- 高須:
- 改めて岩本くんにお聞きしたいんですが、お茶を取り巻く状況って、昔と今で違ってきていると思いますか。
- 岩本さん(以下、岩本):
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お茶の歴史が大きく変わったのは、明治初期と戦後です。その時に、お茶に対する考え方が変わっていったと思うんです。もともとは思想優位だったものが、点前優位、つまり型重視になっていった。
それが最近、学生さんをはじめ、若年層でお茶を始める方々に伺うと、お茶文化に思想優位で興味を持っている方が多いように感じています。つまり、マナーを知りたいというよりは、お茶が果たしている役割を必要だと思ってたしなんでいるわけです。その動きについては特に、加速して欲しいなと思います。お茶を出す価値を多様に評価する方々が増えれば、さらに多様な人たちがお茶に興味を持ってくれるはずなので。そうやって、お茶の文化が広がっていけばいいなと思っています。
- 高須:
- お茶の現場には、いろんな人が参入してきている感じなのでしょうか?
- 岩本:
- 実際のところ、それはほとんどないですね。長い歴史がありますし、日本社会の中では、安易に扱ってはいけない商材っていう風に認知されているようにもうかがえます。
- 高須:
- 長い伝統をもつ良さもあるけど、外の人が入る隙間があんまりない、という感じなんですね。でも、抹茶となると、色々変わってきますよね。
- 岩本:
- そうですね。キットカットにも、ハーゲンダッツにも抹茶味がありますし。それがいわゆる抹茶と本当に言えるかどうかはまた別の話かと思いますが、ひとつのコンテンツとしての形ではあると思います。
お茶で感じる「解き放たれた」感覚
- 高須:
- 僕はそこに可能性があると思っています。型というのは崩せないものもあるし、歴史もある。それは僕らが手を触れてはいけないものだと思っているので。なので、抹茶を借景にした何かができないか、と思っているんです。抹茶の魅力って、なんだと思いますか?
- 岩本:
- お茶を介して向かい合っている人との空間や、香りの余韻などですね。
- 高須:
- あの独特な緊張感のある空間は、僕も好きですね。学生の皆さんが思う、抹茶の魅力もお聞きしたいですね。
- 学生:
- 僕はお茶碗に魅力を感じます。お茶を飲んだ後、じんわり温かみを感じられるところに、すごく安心感を覚えるんです。お茶を点てて飲み終わった後、お茶碗を眺める「拝見」と呼ばれる時間が、すごく素敵だな、って。
- 学生:
- 緊張感を持ちながら、畳の部屋で静かにお茶を飲むことで、心が落ち着いて、これからも頑張ろうという気持ちになります。その非日常的な空間がすごく好きなんです。
- 学生:
- 私はお点前が好きです。もともとは「茶道って、かっちりしていて苦しいな」っていうイメージだったんですが。中学の時に出会った先生が、お点前の意味を丁寧に教えてくださる先生で。一つ一つの動きにちゃんと意味があって、それが合理的な一連の流れとしてあるというのがすごく美しくて好きです。その動きを流れるようにするためには、目の前のことに全ての注意を向けなければいけない。思考を全てそこに集中させる瞬間が好きだな、と思います。
- 学生:
- お茶をやっている時は本当に静かなんです。その静寂な空間で、お湯を注いだり、お茶を点てたりする音が、かすかに聞こえる。そこも魅力ですね。
- 高須:
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いろんな方にお茶の魅力を尋ねて僕が思ったのは「解き放たれてるな」ということ。そこに難しいことはない。少なからず解き放たれた感覚を皆さん持っているんだな、いうことが、すごく不思議に思って。
その感覚を、どう新しいものに掛け算していけるかな、ということを考えていきたい。現在では抹茶も世界に広まっていると思うのですが、どのような形で捉えられているのでしょうか?
世界では、お茶も青汁も同じ扱い!?
- 岩本:
- 世界において、抹茶は「緑のものを摂取して健康になりましょう」という「グリーンムーブメント」の中の一つとして捉えられていると思います。なので、抹茶も青汁も変わらない感覚のようです。つまり単純にサラダの一種として市場では考えられている、ということで、非常にもったいないことです。
- 高須:
- 青汁と同じ感覚なんですね。なんか残念
- 岩本:
- その反面、海外のカフェのメニューに抹茶ラテがあるのは非常にうれしく思います。抹茶という存在が、広く人々に受け入れられているのは事実。とはいえ、日本が海外に抹茶や緑茶を輸出している額は290億円程度なので、まだまだ伸び代はあると思います。
- 高須:
- 日本人より海外の人の方が抹茶好きなんじゃないか、と思うこともありますね。
- 岩本:
- 日本人は抹茶よりもコーヒーの方が好きですよね。カフェでも、抹茶ラテはありますけど、苦味のある本格的な抹茶が飲めるところはほとんどない。ここ日本でそのような状況なのは、とても残念ですね。
profile
放送作家
高須光聖
約300のテレビ番組を企画「ガキの使いやあらへんで」「ロンドンハーツ」「水曜日のダウンタウン」等、現在も十数本のレギュラー番組を担当。その仕事は多岐にわたる。
(株)TeaRoom
岩本涼
茶道裏千家にて岩本宗涼(準教授)を拝命。(株)TeaRoom代表取締役、(一社)文化資本研究所代表理事、(株)中川政七商店社外取締役など。