中谷彰宏の「恋愛食堂」vol.5:写真をさっと撮って、すぐに食べるお客さんが、愛される。

お店の人は、「食べてもらうこと」を望んでいる。
「撮ってもらうこと」は、メインではない。
「残さず食べて下さい」という貼り紙は、悲しい。
マナーより、宣伝を優先するお店は、常連さんがいなくなる。

「レストランに行って、写真を撮る時に気をつけることは何ですか」
と聞かれました。
SNSの時代に「食べること」と「撮ること」は、セットになりました。
大事なのは、写真を撮って良いかということよりも、写真を撮る時のマナーを覚えることです。
お店側としては、写真を撮って宣伝をしてもらえるなら、仕方がない。
ここで大事なことは、「仕方がない」であって、「撮ってほしい」ではないことに、お客さんが気づかないことです。
「宣伝してあげている」という感覚で撮っていると、お店の人との温度差が生まれます。
そうなると、愛されないお客さんになってしまいます。

愛されるマナーその1・速やかに撮って、速やかに食べる。

料理を出す側は、ベストタイミングで料理を出しています。
料理が最もおいしいのは、出した瞬間です。
1秒毎に、味は劣化していきます。
以前、ピッツァの取材で、ナポリへ行きました。
撮影しているので、出していただいたピッツァを食べる時には、時間が経過していました。
シェフは、「熱いものを、作り直します」と言いました。
スタッフは、「もったいないので、作り直さなくて大丈夫です」と、冷めたピッツァを食べました。
シェフの気持ちは、一番おいしいピッツァを味わってほしかったのです。

愛されるマナーその2・編集は後回しで、撮ったらすぐ食べる。

SNSのために、食べに来ている人は、撮ったら、すぐ編集作業を始めます。
画像を編集・加工・コメントを入れる、などの作業をしているうちに、味わうことは後回しになってしまいます。
アイスクリームは、温度が1度上がるだけで、味が変わります。
お寿司は、1秒毎に、空気に触れて酸化して、味が変わります。
すべての料理は、1秒後には、別の料理になっているのです。
シェフの願いは、「宣伝してもらうこと」より「一番おいしいタイミングで味わってもらいたい」ということなのです。
編集作業は、食べ終わってからする人が、愛されます。

愛されるマナーその3・残さず、食べる。

「残さずに食べてください」という貼り紙を、よく見かけます。
昔は、食べ放題のお店で見かけた注意書きが、食べ放題ではないお店で見かけることが増えました。
食べ放題のお店で「食べ残し」をするお客さんは、マナー違反で愛されません。
「お金を払えばいいだろう」というのは、作ってくれている人へのリスペクトを失っています。
写真を撮りに来ているお客さんも、少なくありません。
「食事に来るお客さん」と「写真を撮りに来るお客さん」の2極化しています。
「食事に来るお客さん」は、写真を撮ることは、あくまでオマケです。
「写真を撮りに来るお客さん」は、食べない理由があります。
その日、何軒もお店を回るからです。
ここが、プロの料理記者とは違うところです。
僕が、料理記事を書く時は、その日、何軒回ろうが、完食します。
それが、作り手へのリスペクトだからです。
「おかわりいかがですか」と言われたら、「ぜひ」とおかわりします。
朝2食、昼2食、夜2食、と2軒ずつ飲食店を回る時もあります。
夕食だけで、フレンチのコースを3軒食べたこともあります。
先ほどのナポリピッツァの番組収録では、1日5軒、3日間で15軒、完食しました。
プロではなく、SNS用に写真を撮りに来る人は、映えるデカ盛りを、残して次の店に行きます。
嫌われることを、恐れていません。
そのお店には、2度と来ないからです。
同じお店は、2回撮りません。
「食べ物の神様」に対して、マナー違反なのです。

愛されるマナーその4・他のお客様が、映らないようにする。

撮影対象がパフェのように水平で撮りたいものは、奥に他のお客様が写り込むことがあります。
ひょっとしたら、訳ありデートをしている人がいるかもしれません。
その写真で、その人の人生を破壊してしまうことも起こり得るのです。
「絶え間なくシャッター音が鳴り響いている」というお店から、真っ当なお客さんは離れます。
これは、営業妨害になります。

愛されるマナーその5・「撮っても良いですか」のひと言を添える。

撮ってもらうことは、目くじらを立てることではありません。
ただ、「撮って当然。むしろ感謝してほしい」という姿勢になると、リスペクトがあまりにも、欠如することになります。
「撮っても良いですか」というお客さんは、さっと撮って、さっとスマホを片付けます。
他のマナーも良いのです。
「撮る」ということには、お店の側も注意をしにくいので、甘えないことが大切です。

writer

中谷 彰宏

nakataniakihiro

作家・俳優。恋愛からレストラン経営まで、著作1100冊を超える。日本中・世界中のレストランを巡りサービスについて研修。実家は、スナック・寿司店。中谷塾主宰。【公式サイト】https://an-web.com/