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 豊かな海の宝を 守るまち・明石

煌めく海と風が運ぶ磯の香りが心地よい。歴史ある明石の漁港は、海峡がもたらす速い潮流によって生まれた豊かな漁場で、年間を通じて100種類もの魚介が揚がる。中でも鯛やタコ、海苔は全国的に知られている。

しかし近年は、海のコンディションに変化が。タコやイカナゴの不漁、海苔の色落ちなどの事象が発生。理由は色々考えられるが、海水温の上昇や、下水処理技術の発達などで〝海が綺麗になりすぎたこと〟も原因のひとつと言われる。そこで栄養豊富で魚介が生育しやすい環境を再び! と、海の未来のため、明石市漁業組合連合会をはじめ、農業者、県や市などの行政、地域の人々が一丸となり様々な活動を開始。折しも2022年11月には兵庫県で「第41回全国豊かな海づくり大会兵庫大会~御食国(みけつくに)ひょうご~」が開催される。

一方、品質の良さを誇りとするブランド海産物ゆえの悩みもある。厳しい目利きを常に意識するため、買い手が付かないと判断した食材は、時にフードロスを生じさせてしまうことも。海の豊かさを守り、育むために試行錯誤する漁業関係者と、技術で食材の持ち味を蘇らせる料理人たちの姿を追った。


豊かな海再生プロジェクト


1. 海を未来へ繋ぐために

明石市内に5つある漁業協同組合の一つである明石浦漁協では午前11時に昼網の競りが始まる。その1時間ほど前から広い活魚水槽の中で、漁師の奥さんやお母さん達が、競りに出す魚の選別を始める。その姿をちらりと覗き、仲買人の争奪戦も密かに始まっている。
多くの料理人が扱いたいと望む明石産の鯛やタコ、鱧、鰆などは、押しも押されぬ一級品だ。その名声はただ、目の前の海の恩恵を受けただけ…ではない。
明石には熟練の技を受け継ぐ漁師がおり、漁協には魚の状態を一番に考え、鮮度や環境を整えるプロ集団が控えている。その活動は陸と連携した生態系の維持への取組みにまで及ぶ。
明石の海は一日にして成らず。多くの人々の想いによって守られているのだ。


明石の昼網

市場に嫌な魚臭さはない。明石浦漁協では、24時間、海水と空気を流した広い活魚水槽の中で、水揚げされた魚介を生かしているからだ。昼網の競りが始まると水槽から次々魚が出されるが、競り台の上にも水が流れ、魚体が水から出るのは、一瞬だ。競り後もまたすぐに水の中へ。このような流れで競りが行われる市場は珍しく、魚の状態を保つための設備が整っている。これが明石の魚がとびきりである理由の一つだ。


かいぼり

明石市内に大小107ものため池があることは、あまり知られていない。農業用水池だが、様々な生物や植物も生息。増殖草木の定期的な刈り取りや、水の入れ替えなどの管理は、農業者が行ってきた。池底の堆積土は、窒素やリンなどの栄養分を多く含んでおり、それらを川に流すことで、池を綺麗に保ち、海の栄養にもなると明石市漁連など漁業者もこの作業に参加。地元の海の未来も守る、里と海の連携だ。


海底耕耘こううん

鉄製の「耕耘桁(けた)」という器具を船にロープで結び、引っ張り、海底を耕す。貝などの堆積物をかき混ぜ、硬くなった土や泥を掘り起こし、中に溜まっている窒素やリンなどを含む「栄養塩」を海に放出し、生物が生息しやすい環境を作る。海苔の色落ちやイカナゴの新子の不漁の原因とされる海の栄養不足を改善する施策の一つ。兵庫県漁業協同組合連合会などが、2004年から瀬戸内で試験的に始め、18年にはのべ2300隻が作業に当たるなど力を注いでいる。


明石浦〆

魚は釣った後が肝要。明石浦漁協では、水槽の中で活け越し、興奮状態を落ち着かせてストレスを取る。胃の中の物を吐き出させ、身に移る臭いを防ぐのが目的だ。“明石浦〆”と呼ばれる魚の締め方も特徴。手かぎ一撃で脳死させ、魚が暴れて血が回らないようにする。その後脊髄に針金を通し、魚の脳から細胞へ死の伝達を遅らせるのだ。身の硬直を防ぎ、活きのよい状態を保つ。場内では水槽の中に入れたまま、ほんの数秒で鯛を神経締めに。熟練かつ伝統の技。



地の食材を見つめ直す

「サスティナブル・明石〜明石の食を考える」と題したトークセッションでは、弊誌・編集顧問・門上武司(写真左)がコーディネーターを務めた。

2. 海産物の持続可能な未来を考える

2021.10.13

サスティナブル・明石
明石の食を考えるセミナー

サスティナブル=持続可能・未来へ続く地域の食に目を向けようと開催されたセミナーには、明石の食に携わる多数の人が参加し、注目の高さが伺えた。

『神戸北野ホテル』山口 浩さんは、消費者も料理人も水産資源枯渇の問題認識が低いと危惧。海外には水産物の認証制度が様々あるが、日本は魚種が多く、小規模漁業のため難しい。そこで、どこの海でどのように育った魚なのか出自を明確にしていくことが大切だと。明石の鯛が育つ海や明石の漁師の技術、競りの方法などを広く伝える。産学連携し、科学的根拠も示すことでさらなるブランド化を図る。明石で先んじて確立できれば日本の他地域も追随できる。それが未来の海洋資源と漁業従事者の暮らしを守ることにも繋がると語った。

『神戸北野ホテル』総支配人・総料理長 山口浩さん/演題「SDGsと明石の特産品」

日本料理 玄斎』の上野直哉さんは、SDGsと聞いても、個人レベルでは何から初めていいのか途方に暮れるかもしれないが、関西人の持つ“もったいない精神”の中に、それはあるのでは?と提唱した。例えば急須に残った茶殻で掃除する、米のとぎ汁で棒鱈を戻すなど、先人の知恵には無駄がない。浪速料理の「始末の心」も同じく素材を大切に使い切る精神だ。塩鯖の頭と骨が主役となる「船場汁」などを例として紹介。個人個人が日常生活のなかで、知恵を絞る意識こそが、未来の食のためになると伝えた。

『日本料理 玄斎』上野直哉さん/演題「浪速割烹から識る、始末の心」

門上を交えてのセッションではフランス料理と日本料理での魚へのアプローチの違い。海と街場が近い兵庫県はフードマイレージが少ない貴重な都市であることなどが話題に。また明石の魚の質と締め方など他所に先駆けての技術はより明確に発信していくべきだと山口さん。漁師、漁協、料理人だけでなく学術研究者やメディアなども巻き込んで、今以上に人々に伝え、認知させていくことが明石の食の未来に繋がると結論付けた。


2021.10.29

サスティナブル・メニュー開発ワークショップ

フードロスについて考えてみようとお題にしたのは明石の海苔。艶やかに黒めいて、しっかりとした繊維質によるしなやかな歯ごたえ。香りもよい上級品が特産だ。しかし明石で採れた海苔のすべてがいい状態という訳ではない。色や風味が弱い物は、味に遜色がなくとも規格外として販売ルートに乗らない。それを料理人の技で美味しく調理することはできないものか。セミナーに続き『神戸北野ホテル』山口さんと日本料理『日本料理 玄斎』上野さんを講師に、フードロス対策メニューを学ぶワークショップが開催された。

海苔と海老のチュイル 甘エビのタルタル(左)/海苔と胡麻のチュイル 明石のお魚のマリネ レトロネーザルキャビア(右)/海苔バター(右上)

海老とゴマ、2種のチュイルには明石海苔がたっぷりと。磯の香りとほのかな塩味が絶妙。パンの味をぐっと引き立てる、海苔バター。

ホテルで以前から提供している海苔のバターを明石の海苔で。またサスティナブルシーフードの一例として、アルギン酸などを活用してキャビア風の、レトロネーザルキャビアの作り方などを紹介。

海苔入煮かえしを利用した贅沢麺/海老の海苔塩麹漬け(右)

規格外の海苔も焼いて香りを立たせた後に調味料と合わせ旨みを抽出するという上野さんの提案。海苔をふんだんに使ったかえしの作り方を実演。それをだしと合わせて今回は麺つゆに応用。穴子とタコの天ぷらをのせた豪華な麺に。もう一案は市販品の塩麹と焼海苔を合わせることで、酵素の働きでアミノ酸値が増え旨みが増すという海苔塩麹を。川津海老と合わせたり、鰆に塗って焼いたり、規格外の海苔も主役に。

鰆の海苔塩乳酪焼

デモンストレーションに熱心に聞き入るのは明石市市内の宿やホテルの皆さん。受講後同じ明石海苔を使ったメニューを考えていただいた。

地元宿の挑戦 ①

3. 地域の食材を大切に使い切る

ワークショップに参加した明石市内の4宿の料理人が、規格外の海苔を使用し、美味しく食べてもらうための知恵を絞った。創意工夫溢れる料理の数々に貴重な食材を廃棄せず、大切に扱う料理人ならではの食材愛が込められている。

蟹の飯蒸し 海苔あんかけ

宿泊1人1泊2食付23100円〜(2名1室利用。要予約)の一品。凌ぎ。飯蒸しの上にはうずら卵黄の醤油漬け、蟹、蟹味噌、海苔佃煮。あんは海苔と木ノ芽の香りが鮮烈。

明石鯛 海苔ふりふり

だしの中で身をふりふりと泳がせる様から『人丸花壇』では鯛しゃぶはこう呼ぶ。海苔と柚子の香りを纏った鯛は絶品。明石産の海苔のしなやかな食感も存分に伝わる。

料理人の知恵と技術の見せ所です

1950年創業の老舗。“料亭旅館”の屋号の通り、扱う食材は吟味した一級品揃いだ。今回の海苔も普段なら使うことがないクラスの物だと総料理長の秋川 豊さん。「明石産の海苔は艶やかな黒色が特徴ですから、規格外のものは少し色と風味が弱く感じましたね」。
ふつふつと小鍋の中に沸くのは鯛しゃぶ用のだし。通常はカツオと昆布の一番だしで供するが、今回はしっかり炙って香りを引き出した海苔をたっぷり加えた。だしが温まるにつれて立ち上がる磯の風味が何とも食欲をそそる。その中で泳がせた鯛の身に絡んだ明石の海苔は、食感が殊にしなやかでしっかりしていることも伝わる。添えた柚子皮がふくよかな磯の風味に爽やかさを加え、紅葉おろしや炒りゴマを加えれば、味の変化もまた愉快。
凌ぎは、海苔と叩き木ノ芽のあんを飯蒸しに。蟹のだしを吸った濃厚な米の旨みは濃厚だが、コク深くも爽快な海苔のあんが負けてない。日本料理人ならではの技ありの品に、思わず唸る。

総料理長 秋川 豊さん

料亭旅館 人丸花壇ひとまるかだん

明石市大蔵天神町21-22
TEL:078-912-1717
営業時間:(日帰り利用の場合)11:00〜14:00、16:00〜21:00
休日:無休
交通:山陽電鉄本線人丸前駅から徒歩3分
駐車場:40台
予約:必要
カード:ほぼすべて可
席:個室18室(1〜15名)、広間(40〜150名)
けはし御前4950円、ミニ会席6600円。瓶ビール825円、日本酒1合715円〜。
自動ドア/入口スロープ対応可
www.hitomarukadan.com


潮音会席7870円の椀物。明石海苔のゴマ豆腐。だしで柔らかくふやかした海苔を、ゴマ豆腐と共に練り上げた。酒蒸しした鯛と一緒に味わう冬の椀。

季節御膳3630円。旬のものや近郊で採れる野菜などを盛り込んだ季節御膳は昼夜ともに人気の品。この時期は、鰤の山椒焼き、小蛸の磯辺揚げ、寒鰆の小鍋仕立てなど。

たっぷりの海苔はゴマの風味にも負けない

「明石の海苔は、毎年節分には恵方巻きに使いますし、予約を受けたら海苔の佃煮も作ります。佃煮は、生海苔と焼海苔を半々で作ると、食感や風味が引き立つんです」と語るのは、ホテル『日本料理 赤石』の料理長・千葉孝一さん。日頃から馴染み深い海苔だが、規格外のものは、いかに?
椀種用のゴマ豆腐を練り上げる際に、だしに漬けて柔らかくしておいた海苔をたっぷり投入。ゴマと海苔の風味が合体した海苔ゴマ豆腐はコク深い。鯛や季節の野菜と合わせて彩り良い椀に。
ホテル全体としても、近頃はフードマイレージを特に意識。魚介以外にも明石近郊の農家と直接取引を増やしているという。生産者がどういう思いで育てた食材なのか、料理する人がまずは深く知り、料理を運ぶ際にはお客に可能な限り会話する。明石の海苔のように身近な食材でも、バックストーリーを聞くと食べる側の意識も少し変わるもの。そんな語りからも地域食材への愛情が伝わってくる。

料理長 千葉孝一さん

ホテルキャッスルプラザ

明石市松の内2-2 B1
TEL:078-924-9188(直通)
営業時間:11:30〜13:30ラストオーダー、17:00〜19:30ラストオーダー
休日:月・木曜(月曜が祝日の場合は営業)
交通:JR神戸線西明石駅から徒歩6分
駐車場:70台
予約:ベター
カード:ほぼすべて可
席:7室(1〜20名)
昼/釜めし御前3000円 夜/てっちりコース1人18150円(注文は2名〜)。地酒1合1200円〜、「あかしレッド」グラス800円。
自動ドア/筆談ボード/障害者用トイレ
castlehotel.co.jp

地元宿の挑戦 ②

溶け込んだ海苔の食感も
感じて欲しいカレーです

常時4種類のカレーがお代わり自由! カレーランチ1000円より。手前右は、きっとこちらでしか味わえない、明石海苔カレー。海苔の薫りも食感もしっかり。サラダのドレッシングも明石海苔を使用。

海苔のだしを使って
明石の磯の香りを表現しました

瀬戸内の味覚コース8000円(3日前までに要予約)から。手前鯛のしゃぶしゃぶは、カツオと昆布のだしに、明石産海苔を加えて漉したもの。刺身醤油も実は海苔風味。醤油で海苔を煮込んで漉し、冷ましたもの。

明石公園の堀を望むレストラン『シャトーメール』には、和洋の料理人が在籍している。ということでこちらでは、和と洋それぞれの料理長に海苔を使ったメニューを考案いただいた。
和食の藤原浩二さんは「醤油や麹と合わせると、この海苔の風味が生き返る」と考えた。しゃぶしゃぶ用だしに、炙った海苔を加えて軽く煮てから漉す。醤油は海苔の佃煮の要領でくつくつ煮た後にやはり漉し、コクと香りだけを醤油に残す。穴子や子芋の上に掛けた“海苔酢”は土佐酢をヒントに、海苔を水に漬けて抽出しただしを酢に合わせたもの。海苔の姿形はないが、風味や味は確かに生きている。調味料や隠し味としての可能性を感じる。
一方、洋食の浅田幸治さんは何とカレーに海苔を。毎日4種類提供するカレー。バリエーションを探すうちに、海苔を使って明石らしさが表現できないかと考えた。スパイスと合わせても、負けずに海苔の風味を生かすには? と、配合量や合わせる調味料を工夫。オイスターソースや味噌などを加えた磯の風味満載のカレーだ。

左/洋食料理長 浅田幸治さん  右/和食料理長 藤原浩二さん

グリーンヒルホテル明石

明石市大明石町2-1-1
TEL:078-912-2111
営業時間:7:00〜9:30ラストオーダー、11:30〜14:00ラストオーダー
休日:無休
交通:JR神戸線明石駅から徒歩4分
駐車場:15台
予約:必要
カード:ほぼすべて可
席:カウンター12席、テーブル20席、個室1室(1〜10名)
朝/朝食1500円、昼/ロコモコディッシュ1000円、和洋折衷会席8800円〜。生ビール中750円、グラスワイン600円。※個室利用料金5000円別。
筆談ボード/障害者用トイレ
gh-hotel.co.jp/akashi


めで鯛幸せの鯛しゃぶセット

写真はいずれも通販用の料理から。皮付きと皮なし、分厚く切った2種の鯛。海苔の佃煮はもちろん、だしや野菜などもセットに。写真は2〜3人前10800円(桐箱入+1375円)。

鯛のかぶと煮明石海苔仕立て

名物のかぶと煮に、海苔の佃煮をたっぷり掛けた特別バージョン。2個セット2980円〜(いずれも送料込。ただし北海道・沖縄県は追加料金が必要)。

名物料理を全国の人にお届けしたい!

 「私自身が元々物を大事にしたい性分で。昨年のワークショップを受講して、地元の食材に対してもより大切に使いたいと思うようになりましたね」と微笑む、女将の山田 梢さん。
ホテルに隣接する和食店も含め、宴会も多かった。明石の宴席には、鯛の造りは欠かせない。その頭が多く出ることから、かぶと煮が名物料理に。定番の味に今回、海苔を佃煮にして加えた。煮汁に磯の香りと海苔の旨みが広がってコク深い味わいに仕上がった。
またコロナ禍、明石に来られなかった馴染み客から「あのかぶと煮が食べたい」という声が届いたことから、オンラインショップ『明石めで鯛や』もオープンさせた。海苔仕立てのかぶと煮も真空パックで各地のファンの元へ。他にも、鯛の身をだしにくぐらせた後、梅肉を付けて食べることを勧めていたしゃぶしゃぶも、今回から海苔の佃煮を付けて販売した。アイデア満載の女将が切盛りする宿の味は、明石を飛び出し、各地へと。

専務・女将 山田梢さん

西明石ホテル

明石市和坂12-7
TEL:078-928-0246
営業時間:11:30〜14:00、17:00〜21:00ラストオーダー
休日:月・火曜、水・木・金曜の昼
交通:JR神戸線西明石駅から徒歩3分
駐車場:要問合せ
予約:必要
カード:ほぼすべて可
席:1F/個室5室(1〜20名) 2F/個室7室(2〜100名)
昼/松花堂1600円〜、夜/コース3500円〜。日本酒1合600円〜、飲み放題(6名以上利用の場合、2時間)1500円〜。
自動ドア/筆談ボード/障害者用トイレ
nishiakashi-hotel.jp
medetaiya.jp(オンラインショップ)


[問合せ]明石観光協会 TEL:078-918-5080
撮影/太田恭史、福本 旭、林 景沢、山田絵理 構成・文/八木風子