[食な人]小説家 松村栄子さん

小説家 松村栄子さん

花のお江戸で粗茶一服
花のお江戸で粗茶一服
ポプラ社/1800円
東京に道場を構える武家茶道の弱小「坂東巴流」の家元ジュニア・友衛遊馬は二十歳。家出先の京都から帰還し、くせ者揃いの茶人・武人にもまれつつ、自らの将来に少しずつ向き合ってゆく青春小説。人気シリーズ第3弾。

悩める“武家茶道”の若者を
繊細なタッチで瑞々しく描く

京都在住の小説家・松村栄子さんが2017年10月に上梓した『花のお江戸で粗茶一服』は、東京の武家茶道「坂東巴流」に生まれ育った青年・友衛遊馬が、自らが進むべき道を模索する物語。前作として『雨にもまけず粗茶一服』、『風にもまけず粗茶一服』の2作が著されており、家業に反発した遊馬が京都へ出奔、そこで個性的な茶人たちと交流し、次第に成長していく――という経緯がある。本作は、東京へ帰還した遊馬の〝その後〟を描いた完結編だ。

20年余り前に京都へ移り住んだ松村さん。「この土地らしい嗜みを」と習い始めた茶道を通し、京都の暮らしについても学びつつ、小説のモデルとなる人物を含め、多くの出会いを得る。稽古の日々は、そのまま取材の日々に繋がった。結婚するまで本籍地が東京・浅草だったこともあり、自らのアイデンティティーは〝東の人〟。「前2作の舞台が〝まったり〟した京都だったので、そろそろ江戸の〝チャキチャキ〟した世界も書いてみたいと思いました」と微笑む。

貧乏流派ゆえ、茶・弓・剣の三道のかたわら、アルバイトをしながら手探りの毎日を過ごす主人公・遊馬。江戸ことばが小気味よく飛び交い、「動」の印象が強い全編を通して、随所で心を奪われるのが、茶事にまつわる静謐な描写だ。炭を継ぐ様子、軸の書、時には窓の外の雪を「白い花」に見立てる趣向などが緻密に描かれる。といって決して堅苦しくならないのは、前髪を青く染めた遊馬の弾けるような若さゆえだろう。

「茶道は実に様々な流派が存在していて、作法も千差万別。こちらの流派では左足から部屋に入り、あちらでは右足から…そんな違いを素直に〝なぜ?〟と思えるような感性を、遊馬というキャラクターに込めました」。
そして、茶道といえば茶菓子も付き物。松村さん自身、「自前のお菓子屋さんマップを作りたかった」というほどの和菓子ファンだ。「東京では和菓子はちょっと特別な存在ですが、京都では不思議と気負わずに買い求めています。お金よりも文化的教養を、忙しさよりもゆとりを重んじる、京都の価値観と関係している気がしますね。〝遊ぶ〟ことにあまり罪悪感を覚えないのも、この街らしいところでしょうか(笑)」。

生粋の江戸っ子である遊馬が、かつて単身で乗り込み〝武者修行〟した古都。その情景を重ね合わせて読めば、本作がいっそう味わい深くなりそうだ。


松村栄子(まつむら えいこ)/
1961年静岡県生まれ。出版社勤務などを経て小説家に転身。1990年『僕はかぐや姫』で海燕新人文学賞、1992年『至高聖所(アバトーン)』で芥川賞を受賞。エッセイも多数。

撮影/岡森大輔 文/本庄 彩
撮影協力/『粟餅所・澤屋』

食な人〜foodist〜
2018年2月号から転載/掲載号の詳細はこちら