[食な人]詩人 最果タヒさん

詩人 最果タヒさん
最果タヒ『もぐ∞(もぐのむげんだいじょう)』
もぐ

産業編集センター/1300円

食べ物への諦め、偏愛、「好き」という感情についてなどを語った、ほぼ書き下ろしの25編を収録したエッセイ集。パフェやちくわ天、オムライスなど、馴染み深いメニューを切り取る視点、言葉の伸びやかさが光る。

奔放な感性で“食べる”を問う
愛すべき25のエッセイ

若い世代を中心に注目を集める、現代詩の新旗手。昨年秋に発刊されたエッセイ集『もぐ∞(もぐのむげんだいじょう)』には、「大人は温度を食べている」、「グラタンへの愚鈍な好意」、「良いサンドイッチはミステリー」など、タイトルからして心を掴まれる、食にまつわる25編が収められている。

「単純に好きだから書きたい!っていう感覚を、そのままストレートに文章化しました。書き始めるとぐんぐん加速して、自分でも〝こんなに食べ物のこと考えてたんだ〟という発見が多かったです」と笑う。小籠包が「肉汁というものにファンタジーを感じ」させるゆえ過大評価されている歯がゆさ、製造過程を見ることの少ないアイスクリームはまるで魔法のようで、大人になった今も「私のどこかを必ず無知にしてくれる」ありがたみなど、奔放な感性が文面から溢れ出るようだ。

「全然グルメじゃないですよ」と話す一方で〝おいしい〟という極めて一般的な言葉と真摯に向き合う。〝おいしい〟は主観のようで客観、感情のようで理性なのではないか。むしろ〝おいしそう〟の方が尊いのでは…。誰もがぼんやり抱いていたであろう感覚が鮮やかに言語化され、ドキッとさせられる。

「食べ物を〝おいしそう〟と思っている状態はひとつのエンターテインメント。レシピ本を見るのも大好きで、買っただけで無敵な気分になるんです。実際に作ることはないですけど(笑)」。

ちなみに自身の一番の好物はチョコレート。それも目下、パリ発の専門店『ジャン=ポール・エヴァン』に心酔しているそう。「創意があってもチョコとしてきちんとおいしくて、駄菓子みたいなチョコしか知らない人にも伝わるのがすごい」。その偏愛ぶりは「ジャジャーン!ポールエヴァン!」という章にも(ちょっと予想外な展開で)綴られている。

最終章では、「味覚は幸せを呼ぶためだけのものでも、飢餓状態を回復するためでもなくて、世界を見るためのものかもしれない」と語られる。その真意を尋ねると、「狭いと思っていた自分の世界が、食べることを通してすごく広がってるのかもしれないなと。ただの食いしん坊ですけど(笑)。映画や音楽と違って、食べ物はみんな生まれてからずっと経験を積んで感性を育ててるから、すぐ感動できるのがいい。この本を読んだ人にとって、〝食べる〟ことがもっと多面的になったら嬉しいですね」。


最果タヒ(さいはて たひ)
1986年生まれ。2008年『グッドモーニング』で中原中也賞、2015年『死んでしまう系のぼくらに』で現代詩花椿賞を受賞、著書多数。近著に美術家・清川あさみさんとの共著・現代語訳百人一首『千年後の百人一首』、小説『星か獣になる季節』等。

食な人〜foodist〜
2018年4月号から転載/掲載号の詳細はこちら