[食な人]作家 原田ひ香さん

作家・原田ひ香さん
原田ひ香「三人屋」
三人屋
実業之日本社文庫/620円
朝昼晩で業態がガラリと変わる、通称『三人屋』。仲は悪いが料理上手の美人三姉妹がそれぞれの時間帯を営むが、ある日、長女が失踪して─。商店街の常連も巻き込んで、三姉妹が再び心を通わせる人情ドラマを“美味しそう”に描いた一冊。

長女は塩むすび、次女はうどん、
三女はトーストの“三毛作”物語

「うどんの角が鋭い。すぱりと日本刀で切られたかのように」。その一杯は「美しい。とにかく、清らかに美しい」。

三姉妹が朝昼晩とそれぞれ営む一軒の店。通称『三人屋』。昼に次女のまひるが供す讃岐うどんを描いたのが、冒頭の一文だ。読者は自分史上最高の一杯を思い浮かべながら、物語に引き込まれていく。

そこそこ常識的で、頭がよく、冷静。原田ひ香さんの小説は、ご自身が分析するに、そんな女性が主人公だ。この小説でも三様ながら、姉妹はいずれもその女性像に当てはまる。しかし、長女はスナック、三女は喫茶店、なぜ次女はうどん?

「実はこの小説を書いている時、大阪に住んでたんです。大阪人ってうどん好きでしょ? その影響もあるかな。それに、蕎麦やラーメンは作り手の主張が強いのに比べて、うどん職人は〝自分ができるのはコレだけ、よければ食べてってください〟って感じで。その欲のなさが、まひるのキャラクターと重なったんです」。

三姉妹ともに料理上手。三女の朝日はパンやジャムを自家製し、長女の夜月は塩むすびとキャベツの糠漬けで夜な夜な男たちの胃袋を掴む。物語の前半では、そんな彼女たちの手製の味を通して、姉妹のキャラクターが紹介されていく。

「朝日の店のモデルは、築地の場内にある喫茶店。常連の顔を見ただけでトーストの焼き具合を変えるような。キャベツの糠漬けは、珍しいでしょ? 自由が丘の定食屋で食べたのが、すごく美味しくて。今は自分でも漬けてるんですよ」。

30代半ばに〝書く〟ことを生業とするまで、原田さんは料理に関する仕事をしたいと思っていたそうだ。「料理教室に通っていた時、飛田和緒先生の塩むすびを食べて断念しました(笑)。塩加減とかもう絶妙で。プロは違うなと思ったんです」。その塩むすびが、わだかまりのあった三姉妹の心を通わせる切っ掛けを作るのだが…続きは本書をお読みいただくとして。

意外にも食をテーマに小説を書くのは初めてと言う原田さんだが、本書には食いしん坊垂涎の描写がちりばめられている。例えば、夜月の白飯を食べた客が陶然となるシーン。「噛んでいくと自分の中もどんどん透明になって(中略)自分自身がニュートラルになるような。そんな味」。一体、どんな白飯なのだろう。夜月は、玄米を毎日精米し、浸水なしで炊くだけよ、と言うのだが…。「ご飯の炊き方も飛田先生から教わったものなんですよ」。本書には、そんな原田さんのたくさんの食の経験が詰まっている。


原田ひ香(はらだひか)
1970年神奈川県生まれ。シナリオライターから小説家に転向し、NHK創作ラジオドラマ脚本懸賞公募にて最優秀作受賞。2007年『はじまらないティータイム』ですばる文学賞受賞。近著に『ラジオ・ガガガ』(双葉社)、『ランチ酒』(祥伝社)。

撮影/喜多剛士 文/編・中本由美子
撮影協力/東京・中目黒『CAFÉ FAÇON』

食な人〜foodist〜
2018年6月号から転載/掲載号の詳細はこちら