[食な人]『喜多酒造』喜多麻優子さん

『喜多酒造』喜多麻優子さん

創業200年の蔵元の娘が
ふんわりと、日本酒の扉を開ける

蔵元同士の強力な横のつながりで人気爆発中の近江酒。そのリーダー的存在が『喜多酒造』の8代目、喜多良道さんだ。本書は、その娘さん・麻優子さんの著書。タイトルは、『蔵元の娘と楽しむ日本酒入門』。
「知る」でも「学ぶ」でもなく「楽しむ」。「〝蔵元の娘が教える〟という案も出たんですよ。でも、私もまだ日本酒に関わり始めて日が浅いし、教えるなんておこがましい。だけど一方で、日本酒って本当に面白い!と感じる時がたくさんあります。この面白さを誰かに話したい、共有したいという思いもあるので、〝飲み手〟の側に寄り添って、日本酒の扉を叩き始めた人や、開けられずに迷っているような人たちと〝一緒に楽しむ〟ことはできるんじゃないかなと思って」。

大きな瞳をキラキラと輝かせて、表情も豊かに軽快に話す麻優子さんの言葉は止まらない。「早口なんですよー!」と照れる笑顔がキュートだ。でも、「3人の子どもたちの中で、継ぐならこの子と思ってました。早くに夫を亡くして、一人で蔵を支えた義母にそっくりのしっかり者だし」とはお母様。実際、兄と妹は公務員に、麻優子さんは、中学生の頃から「この家を残したい」と心に決めていたとか。
本書は、そんな麻優子さんが、友人に話すかのようにふんわりと紡がれている。「例えば私が『カメラが欲しい』とお店に行って、その後に続く言葉が出てこないみたいに、酒屋さんや居酒屋さんで固まっちゃう人に、次の言葉のヒントになる本になれたら」と。だから、酒造りや醸造学はさておき、〝知識0からの「日本酒の飲み方」〟と題されたチャプター1は、レモンと炭酸でにごり酒を割るなんて飲み方や、食べたいものを入り口に酒を選ぶ方法などが紹介されている。

 蔵人として半年間蔵で寝食を共にしながら酒造りをしている体験も、「酒が生き物やというのが伝われば」と言い、自ら生み出したアルコールで死滅する酵母について、「酵母って素晴らしい微生物でありながら、かわいそうな生き物なんです。そのおかげで美味しいお酒ができるので、酵母には本当に感謝しないといけないですね」と、読み手をしんみりさせたり……。
幼少期から蔵に出入りし、〝神様が宿る場〟と感じていたという麻優子さんの真摯な案内で、日本酒の世界に入っていく新たなファンが増えそうだ。

撮影/竹中稔彦 文/団田芳子

蔵元の娘と楽しむ日本酒入門

蔵元の娘と楽しむ日本酒入門

スタンダーズ・プレス/1512円
カバーは『いっぽん!! しあわせの日本酒』の漫画家・松本救助氏による可愛い女子トリオのイラスト。柔らかな話し言葉で綴られた気負いなく手に取れる日本酒入門書だ。巻末の「かんたんおつまみレシピ」では試したくなるアテと、それに合う酒も紹介。


喜多麻優子(きた まゆこ)

1989年滋賀県生まれ。文政3年創業、代表銘柄「喜楽長」で知られる『喜多酒造』の9代目次期蔵元。同志社大学経済学部卒業後、『ミツカン』、東京の酒卸などの勤務を経て、2015年実家に戻り、父の下で修業中。蔵人として酒造期の約半年間は蔵に泊まり込み、杜氏の元で酒造りも学んでいる。


食な人〜foodist〜
2018年9月号から転載/掲載号の詳細はこちら