[食な人]俳優 辰巳琢郎さん

辰巳琢郎

生きることは食べること。
食いしん坊が綴る味の記憶

知性派俳優であり、食通としても知られる辰巳琢郎さんが、60歳の誕生日を迎えた今年8月、四季折々の身近な食材について、舌の記憶をたどりながら綴ったエッセイ集を出版した。

2014年から4年間に渡って連載した48本の原稿をまとめた本書。
「小学生の頃の夢は、実は物書きになることでした。だから連載のお話をいただいた時には、一も二もなくお引き受けしましたが、やってみるとまぁ大変。構想を練ってテーマを決め、資料を漁ったり電話取材したり。毎月、締め切りと闘いながら七転八倒」。だが、その分密度の濃い内容に仕上がり、「結果的に自分の半生をまとめたような1冊になりました」と満足そうに語る。

エッセイの中には、幼少期の思い出や両親のこと、娘や息子とのエピソードなども数多く登場する。
「〝食〟はもっとも身近なものであり、人間にとって根源的なもの。味の記憶をたどれば、自ずと自分の成長過程を思い出すことに繋がる。書く作業を通して、自分の身体はいかに食べてきたもので作られているかを再認識しました」。

題名に「歳時記」とあるように、48種類の食材は野菜や魚介、季節感のあるものを中心に選んだ。「知的好奇心をくすぐる鰤」や「不遇の夏野菜、きゅうり」などと題し、体験や考察に加え、時事ネタや読めば誰かに話したくなるようなトリビアなど、知性派らしい知識や情報もちりばめられている。

「ありがたいことに、連載時は旧知の料理人や生産者の方などから『いつも読んでますよ』とか『勉強になります』なんて声も頂戴しました。プレッシャーと同時に、励みにもなりましたね」。

数々登場する名言の中でも極めつけが〝食い意地が張っていると、歳をとらない〟という言葉。

「食い意地って生命力だと思うんです。食に対する貪欲さや好奇心を失わない限り、いつまでだって若くいられるはず。これからも安くて美味しいものを探求していきたい。それが大阪生まれの食いしん坊としての矜持ですから」。

一番好きなものは「白いご飯」。
日常的にお酒も飲めば「真夜中の炭水化物ほど美味しいものはない」と。
しかし、還暦とは思えぬ締まった身体と若々しさを維持している辰巳さん。
本書を読めば、食材にまつわる深イイ話に好奇心も刺激され、若さの源、食への意欲がモリモリと湧いてくる。

撮影/竹中稔彦 文/柴田くみ子

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やっぱり食いしん坊な歳時記

集英社/1512円
カニや大根、タラなど48種の食材を深掘りし、忘れがたい味の記憶を綴ったエッセイ集。2014年春から4年間、JCBゴールドカードの会員誌に連載された巻頭エッセイを加筆してまとめたもの。元祖クイズ王らしい名言や「箸休めクイズ」など、知的おまけつき。


辰巳琢郎(たつみ たくろう)

1958年生まれ。京都大学在学中に『劇団そとばこまち』を主宰し、プロデューサー、演出家として活躍。卒業と同時にNHK朝の連続テレビ小説『ロマンス』でデビュー。食通、ワイン通としても知られ、ワインをテーマにしたTV番組のホスト役も務める。大阪市出身。一男一女の父。


食な人〜foodist〜
2018年10月号から転載/掲載号の詳細はこちら