プロ×プロ 料理を深める技

第2回「中華の蒸し技」

教えるプロ/中国料理『中国華膳 彩菜』大宜味剛さん「多彩で面白い調理法ですよ。」

豊中市本町6-1-3 195ストリートビル1F
tel.06-6852-2338

週末は1週間以上前から予約が埋まる本格中国料理店オーナー厨師。料理は四川、香港の最先端の技を活用。

教わるプロ/イタリア料理『ジョヴァノット』村上 和世さん「イタリアンにはない技なんです。」

大阪市中央区博労町4-2-7
tel.06-6243-5558

本町『マーブル・トレ』を人気店にした後、満を持して06年末に独立し同店を開店。シンプルに素材を生かした料理が持ち味。

イタリアンやフレンチには「蒸す」という技はない?

意外かもしれないが、イタリア料理やフランス料理には、「蒸す」という調理法はないに等しいほど。それぞれ蒸し煮というバプール、ブレゼという類似の方法があるが、肝心かなめの「蒸し器」という叡智が西洋料理にはなく、フライパンで代用しているところがより不完全。かつて某有名随筆家は「フランス料理の調理法で、中国料理にないものはないが、中国料理の調理法でフランス料理にないものは山とある。その代表が蒸し物だ」というような趣旨の文さえ書いていた。今回のお題は、その東洋の叡智、「中華の蒸し技」である。

「新しい店に、スチーム・オーブンを入れたんです。その使い方をぜひ極めたいと思いまして。きっかけはラビオリを蒸し器で作ったことです。形が崩れずふっくら。普通イタリアンだと茹でますが、蒸せば旨みも逃げません」。というのが上村シェフの志願理由だ。 一方、キッチンにある巨大な蒸し器を前に大宜味さんは「蒸し物の原理は、大きな蒸し器でも、家庭用の小さなものでも同じ。だからご家庭でも、基礎的なところはトライできます」と笑う。

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「下味は蒸し物料理の醍醐味」と大宜味さんは語る。今回は、自家製の豆板醤を豚バラに揉み込む。豚肉の下に野菜など、素材の旨みを吸収するものを敷くことは家庭でも応用できるポイント。

最重要点は、火を入れすぎないこと

この日はまず、鯛の蒸し物から。シンプルに、塩で下味をした鯛とニンニク油をかけた2種類を蒸し器に入れて約8分で取り出す。
「火力は常に全開が基本。家庭でもこれは同じ。一番注意すべき、最重要ポイントは火を入れすぎないこと。8割程度、火が入ったらOK。それ以上入れると、蒸し物の要であるふっくら感がなくなって、硬くなるのでアウトです」と大宜味さん。「中が見えない蒸し器で、魚か肉かの個体差や、素材の大小、さらには鯛なら背中側の身か腹側の身かで、全部火の入り方と最適な蒸し時間が違うのを、感覚的に掴んではるところが凄いですね。これは、単純そうに見えて難しい技だ」と上村さん。

最後に香り油と魚汁ソースで、仕上げた鯛の蒸し物を試食。「どちらも身がふくらんでる! 火入れもフライパンより短時間やし。つまり、風味、栄養がこわれてないってこと。普通のオーブンと違って、水分が逃げないから身がパサパサせずしっとり。やはり、蒸す技術は偉大です。イタリアンのバプールでは、ここまでしっとりとしませんよ」と唸った。

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(左)完成した豚バラの豆ち蒸し。「素材の香りもふくよかでいいですね」と上村シェフの顔がほころぶ。
(右)鯛の蒸し物に塩打ち。「意外に少量の塩で、ヘルシーですね」と上村シェフ。

醍醐味は、味付けのバリエーション

次はさらにアカデミックに、同じ素材を「蒸し」と「焼き」の2種類の調理法での味わいの比較。この日は豚バラ肉。蒸し物は、皿にキャベツを敷き、その上にたっぷりの豆鼓(トウチー)ペーストを揉み込んだ豚肉をのせ、そのまま蒸し器へ。約10分で完成した豚バラ は、同時に完成した煎(ソテーした)豚と比較すると、「かなり身が厚いのに、柔らかい。もっちり、しっとりした独特の食感が面白い。甘みも上品。豚の脂を吸った、キャベツがまた最高ですね!」と上村さんの目が輝く。

大宜味さんは「蒸し物の醍醐味は、味付けのバリエーションが簡単に、無限にできること。今回は豆鼓風味ですが、これをXO醤でも酒粕でも、豆板醤でも柚子ゴショウでも、何でもトライできるわけです」。さらに水だけで蒸す代わりに、紹興酒、白酒、 ウーロン茶を加えて蒸すこともでき、ハスの葉で包んで蒸して香りを移すこともあるという。「あと、素材を軽く炒めて、香ばしさを出してから蒸すという方法もいい。本当にバリエーションは無限でしょ。ここが蒸し物の面白さなんですよ」と熱く語る。

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(左)少量の紹興酒と共に蒸し、さらに香り高く。
(右)蒸し物は常に強火・火力全開が基本。

蒸し物の心は、アラン・パッサールに通ず

するとすかさず上村さん、「面白いですね。僕ならたっぷりのハーブと野菜の上に、ラビオリとかチキンとかのせて蒸したい。菜の花、ルッコラ、セロリの葉の上で鯛を蒸して、香りを移したり。絶対面白そう」とイメージが膨らんだ。「中国料理って強火だけじゃないんですね。デリケートな火入れで素材をいじめないという点では、スローな火入れを徹底的に重視するパリのアラン・パッサールの哲学と同じじゃないかな。パッサールに先駆けること3000年という、中国料理の蒸し技。イタリアンでももっと活用したいです」と上村さん。しかも上村さんがキッチンに導入したスチーム・オーブンは、蒸気の温度を270℃までコントロールできるという最新鋭機器。氏のキッチンから近い将来、画期的なスチーム・イタリアンが、必ずや誕生してくれることだろう。

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鮮魚の蒸し物・香港スタイルのでき上がり。この日の素材は鯛。季節により、クエ、アコウ、牡蛎などに応用できるという。


(あまから手帖07年3月号より転載) 文/寺下光彦・撮影/太田恭史

プロの料理人が自分のテクニックを別の料理に人に教えるとどうなるか?
過去(07年2月号~08年12月号)に本誌で連載され、好評を得た企画「プロ×プロ 1日料理塾」をホームページ用にアレンジしました。
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