プロ×プロ 料理を深める技

第3回「スパイス遣い」

教えるプロ/イタリア料理『アルファロ』小出哲也さん「スパイスには無限大の可能性があります。」

大阪市中央区高麗橋4-2-7 ホテルユニゾ大阪淀屋橋2F
tel.06-6231-1107

『ポンテベッキオ』本店で修業。世界のスパイスを長年精力的に集め、イタリアンへの活用を積極的に試みる。

教わるプロ/日本料理『太庵』高畑均さん「和食にはない、新分野ですね。」

大阪市中央区島之内1-21-2
tel.06-6120-0790

島之内の割烹店主。和食の伝統を踏まえながら、コースのメインに炭火を使った料理を出すなど、新しいチャレンジで、評判が高い。

「スパイスは素材の味のターボチャージャー」

上の言葉は、フランスに数ある三ツ星レストランの中でも格別の評価を受けるブルターニュ『メゾン・ド・ブリクール』シェフ、オリヴィエ・ロランジェ氏の金言。彼に三ツ星をもたらした原動力が、オマールエビにたっぷりとバニラビーンズやカカオなどをあしらった大胆なスパイス(定義には諸説あるが、今回は料理、加工品に使うものすべてをスパイスと分類する)遣いである。そして、大阪・北浜にも、豪快なスパイス遣いでイタリアンの新地平を開拓するシェフがいる。それが今回のマエストロ、小出シェフだ。信条は「スパイスによって、料理の幅は無限に広がる。目的は辛くするためでも、臭みを消すためでもない。新たな風味を付けて、素材の持ち味をより引き出し、拡げることです」と胸を張る。今回、イタリアンのスパイス遣いを教わることになった高畑さんは「和食の山椒や柚子も、意味としてはスパイスですよね。でも日本料理には外国のスパイスを活用する文化がなかったので、非常に研究する価値がある分野だと思います」と目を輝かせる。

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(左)強烈な辛みが特徴のロングペッパー。
(右)爽快なスパイスの風味に「複雑だけど、統一感がある」と高畑さん。

和食の「ヅケ」に近いスパイス活用方も

南米・ベネズエラ産、心地よい甘い香りのトンカ豆。コートジボワール産で、すっきりと爽やかな柑橘系風味のマニゲットなどなど。見た目も香りも斬新な未知のスパイスが専用ケースにずらり。そんな『アルファロ』のキッチンで、この日仕上げるのは、馬肉とヒラメ、2種のカルパッチョ。いずれも、スパイスを活用したカルパッチョという点では同じだが、レシピはまるで異なる。 馬肉はまず、たてがみの脂身を12種のスパイスをブレンドした岩塩で塩釜状にくるみ、約6時間寝かせて自家製馬肉のラルドを作る。このスパイス塩は、ロングペッパー、ジュニパーベリーなど辛みと香りが主役の配合。並行して塩漬けにした馬肉のモモを、スパイスを入れて煮詰めた赤ワインにひと晩漬け込んでおく。このマリネ液はトンカ豆、マニゲット、シナモン、クローブなど、甘い香りのスパイスが中心だ。 「保存のためではなく、馬肉の風味を際立たせるためのマリネなので、長時間漬け込まず、軽めに仕上げるのが大事です」と小出さん。すかさず高畑さんが「最近の和食の〆鯖なんかと同じ考えですね。あっさり〆て素材の味を活かす」と鋭い分析。すると小出さんは「この料理、和食でいうと、ヅケですね。ヅケダレの中にいろんなスパイスを入れて、素材を浸してるようなもの」と踏み込む。高畑さんは「じゃあまず、キハダマグロぐらいから試してみましょうか~(笑)」。

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(左)馬のモモ肉は一度岩塩を当て、スパイスとともに半量まで煮詰めた赤ワインに漬ける。一晩乾燥させるだけで、見ためは干肉のように。
(中・右)馬肉の脂の甘みと、甘い香り主体のスパイスが見事に手を取り合った、馬肉の自家製ブレザオラ(生ハムの一種)とラルドのコンビネーション2000円。

イマジネーション次第でレシピは無限に

もう一品のヒラメ。こちらは昆布〆にするだけでスパイスはなし。しかしヒラメに重ねて出す鯨の脂身を、スパイスを漬け込んだ白ワインでマリネするという凝ったもの。スパイスは馬肉の場合とまるで異なり、コリアンダー、クミン、カルダモンなど「さっぱり感を強調するためのブレンドです」と小出さん。できあがった2品を試食した高畑さんは「素材の味のふくらみ方がすごいですね。スパイシーというイメージとは全然違いました。むしろ、より素材の味が上品になっているのに驚きです。今回教わったトンカ豆の上品な甘みは、ブリの照り焼きや黒豆を炊くのにいいかもしれない。外国のものだけでなく、山椒や唐辛子もまだまだ新しい、面白い使い方があると思うので研究していきたいですね」とイメージが膨らんだ。 「スパイス遣いの面白さと難しさは、全く同じなんです。それは配合のレシピがまるでないこと。今回のブレンドも、すべて僕のオリジナルです」と小出さん。素材の味に対して何を加えて何を抑えるか。完全に自由なイメージの世界。そこが楽しいのだという。もちろんジビエには、香りの強いクローブやネズの実、魚介には、生臭さを消すフェンネルといった原則もある。また禁じ手としてはレバーなど内臓系にシナモンなど甘い香りのもの、魚介にクローブなど刺激の強いものは避けるべきという一般論もあるが「そんな従来の常識を超えるブレンドを生みたい」と小出さんは燃える。 高畑さんは「30年後、50年後の日本料理には、きっと今よりさらに色々なスパイスが活用されるようになるでしょうね」と断言。スパイスの力で「味にターボチャージャーが付いた」未来の日本料理も、いつの日か、ぜひとも見届けねばならない。

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(左)ヒラメに添える鯨脂のためのマリネ液。白ワインにコリアンダー、クミンなどを入れ、プロセッサーでミックス。独特の香りが立つ。(右上)「自分のイマジネーションと試行錯誤で得る配合だけがスパイス遣いの勝負所です」と小出さん。(右下)昆布〆ヒラメと鯨の脂のスパイス漬けの重ねカルパッチョ1800円。


(あまから手帖07年4月号より転載) 文/寺下光彦・撮影/太田恭史

プロの料理人が自分のテクニックを別の料理に人に教えるとどうなるか?
過去(07年2月号~08年12月号)に本誌で連載され、好評を得た企画「プロ×プロ 1日料理塾」をホームページ用にアレンジしました。
ぜひとも続けてお読み下さい。

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