プロ×プロ 料理を深める技

第6回「フレンチの肉焼き」

教えるプロ/フランス料理『トゥールモンド』高山龍浩さん「ロゼに仕上げるのが、塊肉を焼く最大のポイント。」

大阪市西区土佐堀1-4-2 西田ビル1F
tel.06-6444-8819

連日満席続きという人気は、この2年間不変。その大きな原動力は、入魂の火技による、卓抜した肉料理のジューシーさにあり!?

教わるプロ/日本料理『伊万邑』今村規宏さん「和食で肉を焼く技術は余りないですね。」

(現在は閉店)
日本料理の古典を徹底咀嚼し、独自の解釈を展開する次世代和食の新星。料理はおまかせのみ。店は阿波座の目立たない立地で、遠方からの常連も多い。

肉を焼くのは、ソース作りより難しい!?

「努力によって、シェフにはなることができる。しかしロティスール(肉焼き師)になれるかは、生まれつきの才で決まる」。これはフランス史に輝く美食家、ブリア・サヴァランの言葉だ。彼が活躍した19世紀初頭、すでに"肉を焼く"という極シンプルな技に、実は非常に高レベルの技術が要求されるということが、パリの美食家に認識されていたということは、興味深い。
今回の講師、高山シェフは「僕がメインディッシュで最も熱心に追究しているのは"焼き"の技です。ソースや盛付けに凝るのではなく、いかにジューシーに肉を焼くかという繊細な技術を極めることを、常に研究しています」と明言する。その高山シェフが今回披露してくれたのがロティとブレゼ(蒸し焼き)の2種の焼き技である。

まずはロティ。鴨肉をココット鍋(厚手の鉄鍋)で焼くのだが、鴨を鍋に入れる前に注意点がある。それは肉を冷蔵庫の温度のままではなく、必ず室温に戻すこと。高山シェフはこのプロセスにオーブンの種火を活用する。約45℃で約20分。これは「すべての肉焼きで重要になるポイントなんです」とシェフ。室温の肉を指で触った今村さんは「生き物が実際、運動している時の温度って感じですね」という鋭いコメント。高山シェフも大きくうなずいた。

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(左)ビュルゴー鴨のロティ。
(右)焼け具合のチェックは、肉に通した金串を下唇にあてて。串にひんやり冷たい部分があると、まだ火が回りきってない証拠。

強火は無用。ソフトな中・弱火が基本

次に鴨を火にかける。まずは脂の多い皮側を下にして、中火で。中火の目安は、鍋に鴨を入れた時、「ジュジュッとか、ジュワッとか派手な音がしたら、火が強すぎてダメというサイン。フツフツッと控えめな音がする程度がベスト」と高山シェフ。ポイントは強火ではなく、あくまで中火の優しい火入れなのだ。この火力で、皮から出た脂を捨てながら焼き、皮の脂が1/3ほどになった時点で、鴨肉をひっくり返し、赤身側にも焼き目をつけ始める。その後、バター約30gを投入し、溶けたバターをまめにスプーンですくって鴨にかけ、乾燥を防ぎながら焼く。「素材の乾燥を避けるのは、和食でジャコを炊く時の要領と似てますね」と今村さん。根気強く繰り返しバターを鴨にかけ続けること約10分弱。最後に金串を胸肉に10秒ほど刺してから抜き、それを下唇に当てて温度を確認。胸肉の芯が温まっていれば火から外し、さらに約15分、余熱と肉汁を肉全体に回すために休ませて完成である。

もう1品、豚のブレゼはロティ以上に水分を肉に残し、ふっくら仕上げる技。中温のココットで表面に焼き目をつける要領はロティと同じ。その後キャベツの乱切り1/4個を鍋底に敷き、その上に豚をのせて、大さじ3杯の香味野菜スープを加えた後、フタをしてオーブンへ。必ずキャベツの上に豚肉をのせるのは、「豚肉が過剰な熱で硬く縮まないように、キャベツと、それから出る水分を熱のクッションにしてるんです」と高山シェフ。オーブンの温度は180℃の中温。肉汁を肉内部で回すため、5分ごとに豚肉の上下をひっくり返し、計約15分でオーブンから出す。さらに肉をアルミホイルで包んで、余熱で約15分休ませて完成である。

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(左)鍋底に溶けたバターをスプーンで肉にかける。仏語でアロゼという、この作業をこまめにすることで、肉の表面を乾燥から防ぐ。
(右)脂の多い皮側を下にする。ポイントは強火ではなく、中火で焼くこと。

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(左)焼き上がった肉を火から外し、余熱を回す。これも重要作業。
(右)塊肉なので、塩は強めが基本。

焼くことによって肉が“生きる”仕上がり

できあがった料理を味わった今村さんは「まさに、肉が生きている感じ。肉の味がリアルですね。特に鴨は、皮まで旨くて、見た目より軽い味。豚はジューシーで、噛んだ時、弾力があるけど柔らかい心地よさがすごい。この焼き方は角煮や鴨ロース煮とか、和食にも活用できそうです。意外だったのは、オーブンが主役じゃないこと。フレンチってもっとオーブンを使うんだと思っていました」と驚いた。高山さんは「実はフレンチのシェフが、オーブンをあまり使わなくなったのは最近の大きな潮流 ですよ」。
それはフライパンでの低温・長時間加熱を熱心に主張したパリの三ツ星シェフ、アラン・パッサールなどの影響が強いという。肉の乾燥と収縮を避け、ソフトにジューシーに仕上げるための低温・長時間加熱というのが彼の哲学。

高山シェフは「まだまだ、今のやり方で“完成だ”とは思ってません。今以上に時間をかけるなど、もっと旨く焼く技がきっとあるはずだし、試行錯誤を重ねてます。肉を焼くことはそれほど気合いの入れ甲斐がある、頂上の遠い仕事だと思いますよ」と意気込む。
おそらくまだプロさえ誰も見ていない、肉焼き技の頂上。そこへ向かって、シェフたちは今日も世界中で、奮闘を続けている。

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(左)切った瞬間に、肉の断面がぐぐーっと膨らむのに驚く。まさに今村さんの名言どおり「肉が生きている」火入れを実感。当然、肉汁のジューシーさ、甘さも別格。
(右)ビュルゴー鴨のロティ。「火入れが浅すぎると、この鴨ならではの力強い旨みは出ない。ソフトに、でも中までしっかり火を入れる加減が大事です」と言う高山シェフ。

(あまから手帖07年8月号より転載) 文/寺下光彦・撮影/東谷幸一

プロの料理人が自分のテクニックを別の料理に人に教えるとどうなるか?
過去(07年2月号~08年12月号)に本誌で連載され、好評を得た企画「プロ×プロ 1日料理塾」をホームページ用にアレンジしました。
ぜひとも続けてお読み下さい。

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