プロ×プロ 料理を深める技

第15回「フランス菓子の卵黄使い」

教えるプロ/パティスリー『なかたに亭』中谷哲哉さん「卵の固め方はいろいろあるんです」

大阪市天王寺区上本町6-6-27
tel.06-6773-5240

濃密かつ洗練されたスイーツで知られる関西屈指のパティシエ。

教わるプロ/京料理『かじ』梶憲司さん「卵は和食でもデリケートな食材です」

京都市中京区丸太町通小川東入ル横鍛冶町112-19
tel.075-231-3801

長年鍛えた、細かく精緻な料亭仕事を、破格の手ごろさで供する人気京料理店の主人。

クレーム・ブリュレは甘い茶碗蒸し?

「クレーム・ブリュレって考え方によっては、卵黄だけで作る甘い茶碗蒸しといえるかもしれないですね」。そう語るのは関西を代表するパティシエの中谷さん。言われてみれば、ブリュレも茶碗蒸しも、卵が主役の滑らかな食感が特徴の料理。そしてどちらも火を入れて卵を固めるという点が、非常によく似ている。
フランス菓子の世界において、卵黄を固めるにはオーブンに入れたり、湯煎にしたりする方法がある。「今回はそのどれでもないクリームを作ってみましょう」と中谷さん。全卵ではなく卵黄のみを使うのは、脂肪分が多いため乳化と凝固がしやすいからだという。「味が濃厚かつ濃密になるというのも、大きな特徴ですね」。

一方、和食にも黄身酢や魚介の黄金焼きなど、卵黄を使う料理は多々ある。「どちらかというと、卵黄そのものを味わうより、色を"黄金"に見立てておめでたさを表現したり、他の食材と合わせてコクを出したりすることが多いですね」と梶さん。「今回は別の角度から卵の使い方を勉強できるいいチャンスだと思います」と、ベテランながら好奇心たっぷりの様子だ。

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(左)オーブンもバーナーも使わず、卵黄をこの濃度に固めるのがこのテクニックのすごさ。洋梨のクリーム・キャラメルソース(参考商品ゆえ、店頭販売はなし)
(右)パルフェ・グラッセ作りの要、生地を泡立てるプロセス。

上限83℃までに加熱を守る

最初に取りかかったのは、洋梨のクリーム。焼く(ブリュレ)工程がないので、クレーム・ブリュレとは言えないが、似た食感と舌ざわりを狙う。まずは卵黄とグラニュー糖を混ぜ、そこに温めた生クリームと洋梨のピューレを入れる。洋梨の配合に興味を持った梶さん。味見をして「素材の持ち味をとことん引き出す和食なら、もう少ししっかりとした風味を付けるけど、これが菓子職人の塩梅やね。想像以上に淡い仕上がりで驚きました」との感想。

クリームのベースを鍋に入れ、ゼラチンを加えたらゆっくりと加熱する。ポイントは大きく2つ。1つは、中~弱火で卵にしっとりとバランス良く火を入れること。もう1つは、83℃までという加熱の上限を守ること。「これ以上高すぎても低すぎてもだめ。高いと卵に火が入りすぎてもろもろになる。低いと特有の生臭さが出るんです」と中谷さん。注意深く木ベラで鍋をかき混ぜながら、こまめに温度計を確認する。マメで根気のいる仕事をつぶさに眺めながら、「和食でも、ちょっとした温度の差で微妙な食感の違いができてしまうから、卵はほんまに気を使います」と梶さんがつぶやく。
鍋の温度が83℃に達すると、今度は素材を冷やす作業に移る。ボウルを氷水に浸しながら温度を下げ、型に入れる。冷蔵庫で約5時間、静かに冷やし固めたら洋梨のクリームの完成である。

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(左)クリーム作りのポイントは、加熱時のマメな温度管理。ベストは83℃。
(右)香り付けに洋梨のブランデーを最後に数滴。「抹茶や桜など、いろんな和の素材とも相性は良さそう」と梶さん。

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型に流して冷やし固めたら完成。

京料理にも応用できるパティシエの技

次にかかったのはウイスキーのパルフェ・グラッセ。「こちらは、とにかくしっかり卵黄を泡立てるのがポイントです」と中谷さん。
まず、卵黄に少量の水を加えて固めに泡立てる。別鍋で高温で煮詰めたシロップを作り、ゆっくり、少しずつ卵黄に加えながらかき混ぜていく。この、シロップの持つ熱が、卵黄を固めるエネルギーというのがユニークだ。そして、この生地を人肌程度に冷めるまで、製菓用ミキサーでしっかり泡立てる。鮮やかな黄色が、空気を含むにつれて白くもったりと変化していく姿を見て、「マヨネーズ作りみたいやね」と梶さん。「手作業でここまで泡立てるのはちょっと無理だけど、ハンドミキサーなら家庭にもあるだろうし、充分可能でしょ」と中谷さんが微笑む。生地が冷めたら、泡立てた生クリームとウイスキーを加えて型に流し込み、冷やし固めて完成である。

2種類のデザートを試食した梶さんは、「どちらも濃厚な素材を使っているのに仕上がりは軽い」と驚きを隠さない。普通は、焼いたり蒸したりして仕上げるプリンを、冷やして固める技術も面白いと感想を語ってくれた。なかでも、梶さんが特に注目したのが、卵黄を泡立てるテクニック。
「和食では滅多に使わないこの技は本当に興味深い。このフワッと軽い食感は、ぜひ取り入れたいですよ」と早速新たなメニューが浮かび上がってきた様子。「シロップの代わりに葛引きしたカニ味噌入りのだしを加えてムースを作り、カニの甲羅に流し込んでオーブン焼きにしても面白いはず。具は、カニや百合根、銀杏、松茸がいいね。この技術は、京料理にも応用しないとだめですね!」。
『かじ』にて展開される、新たな卵黄使いの料理が待ち遠しい。

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(左)とろみと粘りが出るまで、しっかりと泡立てる。「これは、和食にも応用できる!」と梶さん。
(右)泡立て完了の目安は、ボウルの余熱が取れるぐらいまで。

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ウイスキーのパルフェ・グラッセ完成。こちらも参考商品だが「ウイスキーの代わりに焼酎か泡盛でもいけそう」という梶さんバージョンは、いつか『かじ』で登場するかも。


(あまから手帖08年11月号より転載) 文/寺下光彦 撮影/岡森大輔

プロの料理人が自分のテクニックを別の料理に人に教えるとどうなるか?
過去(07年2月号~08年12月号)に本誌で連載され、好評を得た企画「プロ×プロ 1日料理塾」をホームページ用にアレンジしました。
ぜひとも続けてお読み下さい。

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