同じ米から生まれる5蔵5様、兵庫「五蔵一田」秋バージョン

同じ米から生まれる5蔵5様、兵庫「五蔵一田」秋バージョン

地酒党・中本の「今月のイッポン!」

2022.10.31

文:中本由美子 / 撮影:東谷幸一 / 画像提供:酒のてらむら、HYO5KURA

兵庫の5つの蔵が、関西の酒販店とタッグを組んだプロジェクト「HYO5KURA」は2021年に始動しました。第4弾は、5蔵の造り手が育てた山田錦を使って、各蔵で醸した純米吟醸の火入れ。5蔵5様のキャラが際立ってます!

目次

兵庫5蔵×酒販店のプロジェクト 5蔵で育てた山田錦を醸し分ける 第4弾は純米吟醸の火入れ

「盛典」杜氏・岡田洋一さん、「播州一献」蔵元・壺阪雄一さん、「仙介」杜氏・和氣卓司さん、「来楽」蔵元杜氏・茨木幹人さん、「純青」蔵元・稲岡敬之さん。左から、「盛典」を醸す加古川『岡田本家』蔵元杜氏・岡田洋一さん、「播州一献」の『山陽盃酒造』蔵元・壺阪雄一さん、「仙介」で知られる『泉酒造』杜氏・和氣卓司さん、「来楽」の明石『茨木酒造』蔵元杜氏・茨木幹人さん。そして、今回の呼びかけ人、「純青」蔵元『冨久錦』の稲岡敬之さん

兵庫5蔵×酒販店のプロジェクト

「打合せせなアカンのに酒造りのマニアックな話ばっかしてて、最初は何も決まらんかった(笑)」。 「造りの真っ最中にZOOMでやったから、ちょっと麹室見てきますわ、と抜けたりしてね」。

5人集まると、話が弾んで仕方ない。仲がいいなぁと、聞いてるこちらはほっこりしてしまう。平均年齢45歳、年の差は9歳。蔵元もいれば、杜氏もいるが、全員が蔵に入り、酒造りを行っている。彼らが、関西の酒販店と「HYO5KURA」というプロジェクトを立ち上げたのは、2021年のことだった。

呼びかけ人は、加西市の『富久錦』蔵元・稲岡敬之さん。コロナ禍で日本酒の消費が停滞し続ける中、「何かせなアカン」と声をかけ、集まったのがこのメンバーだった。

飲食店が営業停止や時間短縮を強いられたことにより、酒蔵にも、酒販店にも在庫があふれていた。「家飲みがもっと増えたら」と願って絞り出したアイデアが、5蔵の酒のセット販売。どの蔵にとっても、初の試みだった。

「自宅でおいしい地酒を! 兵庫の地酒の灯りを消すな!」と心を一つにして、原料米は兵庫県産米に限定し、この企画限定のオリジナル酒をそれぞれが醸した。300㎖瓶5本を1箱に収めた「五蔵一心」は、2021年春、「HYO5KURA」の酒販店に並んだ。

「HYO5KURA」誕生の物語は、和食専門ウェブ・マガジン「WA・TO・BI~和食の扉」でもご紹介。

5蔵で育てた山田錦を醸し分ける

同年7月には、夏酒バージョンも発売。意欲作5本の飲み比べがとてもエキサイティングだったのを覚えている。

明石の「来楽」は、キリリとした超辛口にチャレンジ。灘の「仙介」はオンザロックを提案。加古川の「盛典」と「播州一献」は2種の酒をブレンドし、「純青」はガス感のある生酛(きもと)純米で。 “夏の表現”も5蔵5様で、各蔵の意気込みが感じられた。

次の販売はいつかな~と、ふとFacebookを覗いてみたのは、夏酒発売直後のこと。なんと、造り手の5人が田んぼの前でハイッポーズな画像がアップされているではないか。加西市の『西脇農園』で、5人が山田錦を育てるという投稿だった。

9月の投稿には青々とした稲穂の画像。お~順調!と嬉しくなって動向を見守っていたら、 10月半ば、見事に色づいた田んぼでの稲刈りの様子が公開された。

「五蔵一田」稲刈り

2022年版、つまりBY3(平成3年度醸造)の「HYO5KURA」プロジェクト第3弾は、その名を「五蔵一心」から「五蔵一田」に改め、一緒に育てた山田錦を各蔵で醸すという試み。セット売りではなく、4合瓶と一升瓶の販売で。各蔵の個性を楽しんでもらうというスタンスになった。

稲岡さん曰く「より米の味を出せる」と、『サタケ』が開発した真吟精米という扁平精米法を新たに採用。神戸市の『全農パールライス』で60%まで磨いて、純米吟醸に。まずは3月に生酒がリリースされた。

第4弾は純米吟醸の火入れ

今回、ご紹介するのは、9月発売の火入れバージョンだ。 飲み比べは生酒の方が、個性が際立って面白い!?…と思いきや。いやいや、どうして。

「来楽」は持ち前の優美な香りと軽快さが心地よく、「仙介」はボリュームある旨みがインパクト大。「盛典」は味わいに起伏があってチャーミングだし、「播州一献」は切れが良く、シャープさが際立っている。「純青」は生酛らしいふくよかさがあって、余韻が長い。

300㎖瓶なら家でも飲み比べができるのに…と言うなかれ。チーム「HYO5KURA」が一心に願うのは、飲食店が日常を取り戻すこと。プロの作る美味しいアテと、楽しい会話があればこそ、もう一杯、あと一杯が飲みたくなるもの。日本酒業界は、いつだって飲食店に支えられてきたのだ。

ということは重々承知なのだが、私が5本を飲み比べたのは編集部の片隅。できれば、飲食店で5本を並べて、旨いアテと愉しみたい。在庫も残り少なくなってきたと稲岡さんに聞いているので、「5本揃ってます」という飲食店があれば、読者の皆さま、ぜひご一報を!

HYO5KURA 五蔵一田 2022年秋バージョンHYO5KURA 五蔵一田 純米吟醸火入れ。 各蔵共に、720㎖1870円、1.8ℓ3410円。 5蔵の代表が田植えを行い、加西市の『西脇農園』で育てた山田錦を、それぞれの蔵で醸す「五蔵一田」シリーズ。扁平に削る革新的な「真吟精米」を採用し、60%精米に。米の旨みがより際立った純米吟醸は、火入れが今秋発売された。販売は「HYO5KURA」の酒販店のみ。詳細は公式Facebookにて。

あまから手帖/2022年11月号
これからの旅は、ローカルへ

ローカルガストロノミーを特集した本号。後半連載「今月の飲み頃」では「五蔵一田」の「盛典ver.」をご紹介。

Writer ライター

中本 由美子

中本 由美子

Yumiko Nakamoto

和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉~WA・TO・BI」編集長。「あまから手帖」編集部に1997年に在籍し、2010年から12年間、四代目編集長を務める。お酒は何でも来いの左党だが、とりわけ関西の地酒を熱烈に偏愛。産経新聞夕刊にて「地ノ酒礼賛」連載中。

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