奈良「大倉」の快作は、蔵元曰く“ヘンタイな酒”

奈良「大倉」の快作は、蔵元曰く“ヘンタイな酒”

地酒党・中本の「今月のイッポン!」

2023.06.07

文:中本由美子 / 撮影:東谷幸一(外観・造りシーン) 

酒の味も蔵元もキャラが濃い!と愛される、奈良・香芝『大倉本家』の「大倉」から、期待を裏切らない1本がリリースされました。型破りの「麹四段仕込」。初夏にお誂え向きの、スイートでビターな柑橘系です。

目次

麹四段ってなんだ!? 自称も、他称も“ヘンタイ系” グレープフルーツな甘苦酸 店舗情報

麹四段ってなんだ!?

「大倉 山廃特別純米 麹四段仕込 無濾過生原酒 ひとごこち 2022BY 直汲み 」。
ラベルにはこれだけの文字が記されているが、ココに注目!「麹四段仕込」。

麹を4回に分けて加える、型破りな手法だ。
では、普通は何回加えるの?と言えば、3回。よく聞く「三段仕込」は、酒母に水・麹・蒸し米を3段階で加え、酵母が安全に活性化する環境を徐々に整えていく。そこから約1カ月かけてアルコール発酵させるのだが、その間にもう一度、麹を加えるのだと言う。

「教科書的には、13~14度の低アルコールでも濃い酒ができる手法やけど、それじゃ面白くないから、うちらしく17度のゴツイ酒に仕上げました」。
蔵元で、醸造責任者でもある大倉隆彦さんは、テヘヘと笑う。

「他所であんま使ってへんから」酒米は、長野で誕生したひとごこち。「なぜ、麹四段を?」と聞けば、「三段やと普通やから」。で、仕上がった酒を称して「日本酒度-23、酸度5のヘンタイな酒ですわ」。

つまり、めっちゃ甘くて、かなり酸っぱい酒。17度の生原酒なので飲みごたえもあり。直汲みのフレッシュ感も加わって…複雑怪奇。面白い! そしてドンピシャ私の好みだ。

奈良『大倉本家』蔵元杜氏・大倉隆彦さん

自称も、他称も“ヘンタイ系”

「大倉」には偏愛系ファンが多い。ごつくて、甘くて、酸が強く、でも後味がキレイな個性の中に他所にない特異性を感じ、親しみを込めて“ヘンタイ酒”と称している。
その親しみの情は、蔵元の大倉さんに向けられることも多い。だって、めっちゃキュートなお人柄なのだ。

いつお会いしても、頭にタオルを巻いている。「コレないと、パンツはいてへんくらい恥ずかしいんで」。
口癖は「僕みたいなもんが」と「なんか、すんません」。インタビューすると、1時間に10回以上言っている。恐縮が止まらない人だなぁ、と思いきや、「みんながトレンドを追わんでもいいと思うんです」と辛口の持論も展開。で、「僕みたいなもんが偉そうに…なんか、すんません」と頭をかく。

自称「中二病」なんだそう。「人と同じことはやりたくないし、流行りに乗るのも嫌。造りたいと思った酒だけ造っていたい」。まるで子供のようだけど、ピュアな感性を曇らせず、面白がって酒造りをしている。そのスタンスが「大倉」に、愛しき変態性をもたらせているのだろう。

奈良『大倉本家』蒸し米の放冷作業 蒸し米の粗熱を取る、放冷作業。機械を使わず、手作業で。

グレープフルーツな甘苦酸

奈良・五位堂駅前『大倉本家エキマエノミセ』酒のショーケース『大倉本家エキマエノミセ』では、酒の販売の他、カウンターでの一杯も。接客は大倉さんや奥様、蔵人の峰さんが日替わりで担当。「今、超音波を使って数分でエイジングする手法を模索中で、完成したらココでお出しします!」と大倉さん。

昨年2月、大倉さんは近鉄大阪線の五位堂(ごいどう)駅前に『大倉本家エキマエノミセ』をオープンした。酒の販売はもちろん、ちょっと一杯も楽しめる角打ちスタイルだ。

「イベントに参加するとめっちゃ褒められて、ウチって人気あるやんって勘違いするんやけど、地元に戻ると、まだまだ『大倉』を知らん人も多い。そのことを僕らは知っとかなアカンし、もっと地元を掘り起こさんと。それで対面販売をしようと思い立ったんです」。

けれど「頭で飲んでほしくはない」から、酒の説明は聞かれればする程度。「僕らのキャラで勝負ですわ」。楽しく飲んで好きなタイプを見つけてもらい、大倉さんはそのお客のリアクションという情報を得る。リリース前の酒も名前を伏せてグラス売りするそうで、それがいいマーケティングになるのだそう。

件の「麹四段仕込」がオンメニューしていたので注文すると、「面白い飲み比べしてみません?」と大倉さん。なんと炭酸水メーカーにセットし、炭酸ガスをボコボコッと注入するではないかっ!

炭酸ガスを注入した日本酒

甘みも酸味も、ボディ感もストロングな「麹四段仕込」は、ビターな余韻もまた魅力。大倉さんは「グレープフルーツみたいな味」と例えたが、言い得て妙だ。

そこに炭酸が加わると、一気に軽快なテイストになる。溌溂としたシュワシュワ感が、柑橘系の香りをデフォルメし、17度のアルコール度数を忘れてクイーっと飲み干してしまいそうだった。炭酸水メーカーをお持ちの方は、ご自宅でぜひお試しあれ!

奈良『大倉本家』の「大倉 山廃特別純米 麹四段仕込 ひとごこち 2022BY  直汲み 」「大蔵山廃特別純米 麹四段仕込 ひとごこち」の希少な直汲みバージョンは、5月10日リリース。もろみを搾る際、圧をかけない状態で自然に垂れてきた酒だけを瓶詰め。ガス感があり、より爽快なグレープフルーツのニュアンスが楽しめる。720㎖1485円、1.8ℓ2970円。

■店名
『大倉本家エキマエノミセ』
■詳細
【住所】奈良県香芝市五位堂3-602-1 エムエフビル101
【電話番号】0745-49-0024
【営業時間】17:00~22:00LO(土曜は14:00~19:00LO)
【定休日】水・日曜(Facebookにて要確認)
【お料理】ポテサラ・おぼろ豆腐などアテ300円~、飲み比べセット(40㎖×3種、ちょっとしたアテ付き)700円ほか。
【Facebook】https://www.facebook.com/okura.ekimae
【Instagram】https://www.instagram.com/okura.ekimae/

Writer ライター

中本 由美子

中本 由美子

Yumiko Nakamoto

和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉~WA・TO・BI」編集長。「あまから手帖」編集部に1997年に在籍し、2010年から12年間、四代目編集長を務める。お酒は何でも来いの左党だが、とりわけ関西の地酒を熱烈に偏愛。産経新聞夕刊にて「地ノ酒礼賛」連載中。

Related article 関連記事