ワイン産地・上下観をゆるがす、ギリシャの自然派・島ワイン

ワイン産地・上下観をゆるがす、ギリシャの自然派・島ワイン

Mr.TERASHITAの「推しワイン!」

2022.09.27

文:寺下光彦 / 画像提供:ラシーヌ

毎月、旬の珠玉の自然派ワインをご紹介するMr.terashitaの「推しワイン!」。第2弾は、「20世紀的なワイン産地の上下観をゆるがす」ギリシャの自然派・島ワインです。

目次

”量より質”への転換で、アヒルが白鳥に 3倍の価格の、有名産地の白に迫る質 近代醸造技術を熟知した上で、排除するワイン造り ワイン選びは常に、生産者名が大切

”量より質”への転換で、アヒルが白鳥に

大地の潜在力と、ワイン造りの長い歴史を持ちつつ、”質よりも、量と効率重視”のワイン造りだったゆえ二流産地扱い、という場所は世界に数多くあります。 今月一押しのギリシャだけでなく、フランスやイタリアの辺境にも、そんな眠れる獅子状態の場所は少なくありません。

しかし。そんな地で、志高い生産者が量より質に方向転換したら……、文字通り獅子奮迅ワインが生まれる。フランスの倍近く。6000年ものワイン造りの歴史を持つギリシャで、その最・好例の一つがこの生産者、ドメーヌ・スクラヴォスです。

ギリシャのワイン生産者、ドメーヌ・スクラヴォス。ギリシャのワイン生産者、ドメーヌ・スクラヴォス。

3倍の価格の、有名産地の白に迫る質

アテネの西・約280km、イオニア海に浮かぶ小さな島、ケファロニア島。ここで、古木から徹底した低収穫と有機栽培で生まれるワインは、エネルギッシュで、躍動感あるライム、八朔、白百合、ハーブの香りと、程よく太く伸びやかな果実味が特徴。そして、まさに地中海にキラキラと輝く太陽光のような鮮烈なミネラルに心が洗われる、感動的な白ワインなのです。

ギリシャ・ケファロニア島産の白ワインの生産地、アテネの西・約280km、イオニア海に浮かぶ小さな島、ケファロニア島。

しかも価格はこの手頃さで、普通のワインショップに並ぶ3倍の値段のフランスの白よりも、飲む喜びが大きいとさえ思えるほどです。もちろん酸化防止剤の添加量も、今までのギリシャワインより格段に少なく、それゆえの、口にした瞬間にスッと液体が体細胞に溶け込むような感覚も圧巻の域。

すでに日本だけでなく、フランスやイタリアのナチュラルワイン・レストランや バー でもひっぱりだこの人気になっている、というのも大いに納得、です。

近代醸造技術を熟知した上で、排除するワイン造り

それでもまだ、いやいやワインはフランス産だけが一流品(他のヨーロッパの田舎産地は二流品)と思いますか? 確かにそうでした。1970年代末くらいまでは。 近代的醸造技術という面では、その時代くらいまではフランスは技術上の最先進国でした。フランスの大学や研究機関が長年の研究を基に開発した醸造技術の中には、当然、畏敬するべきものもあります。

しかし、そのような醸造技術は1980年代から90年代にかけて、ありがたくも民主的に、ヨーロッパだけでなくアフリカや、南米大陸最南端アルゼンチンのパタゴニア地方にさえ、広く行き渡りました。

ゆえ、 本家フランスで、 産地の知名度に安穏(あんのん)として、質よりも量と効率を重視する(暖簾にあぐら系?)生産者よりも、今回のギリシャなどの僻地で、量より質を重視する、知られざる職人肌生産者のワインに、より深い感動がある、という逆転現象が地球のあちこちで起こっているわけです。

そして今、そんな職人肌生産者の大きな潮流のひとつは、このスクラヴォスらのように、主要技術を熟知した上で、技術を排除する、という流れなのも、皆様ご存知の通りですね。

ワイン選びは常に、生産者名が大切

もちろんワイン選びは常に、産地よりも生産者名が最重要。ギリシャ産全てが良くなったと思うのは残念ながら早計で、スクラヴォスほか一部の生産者がギリシャの潜在力を大いに証明し覚醒させた、ということです。 ワイン選びは、どこの国、どこの地方でもまず生産者名が最重要。それは永遠の基本のき、なのです。

ともあれスクラヴォスのこのワイン。お飲みいただければきっと。「ワインの世界は動いている。20世紀的なワイン産地の上下観は、既に滑稽でさえある」と、お感じいただけるかもしれません。

ギリシャ・ケファロニア島産の白(葡萄品種はロディティス、ザキンティノなどの土着品種が中心)

ギリシャ、ケファロニア島産の白。葡萄品種はロディティス、ザキンティノなどの土着品種が中心。樹齢40年以上の古木葡萄やフィロキセラを免れた自根葡萄もブレンド。一部、ビオディナミ農法。既に日本でも超人気で、新ヴィンテージが日本入港後、3ヶ月ほどで毎年完売ゆえ、お求めはお早めに。

ラシーヌ【電話番号】03-6261-5125 http://racines.co.jp/

あまから手帖/2022年10月号

クチコミ、北摂

盛り上がりを見せる北摂を「ひょうご北摂」にまでアンテナをのばし、いま行きたい北摂をご紹介します。

Writer ライター

寺下 光彦

寺下 光彦

Mituhiko Terashita

ワイン&フード・ジャーナリスト:約30年間ボルドー、ブルゴーニュのトップワインを経験後、現在は自然派ワイン一筋。ワイン専門誌の取材でフランス、イタリア、ジョージアなどのワイナリー計300社以上を現地取材。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」青山校、大阪校講師。

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