牡蠣の旨さに溺れる焼きそば。/神戸『良友酒家』

牡蠣の旨さに溺れる焼きそば。/神戸『良友酒家』

曽束政昭の「一麺口福」

2023.02.15

文・撮影:曽束政昭

魚も貝類も、日本海や太平洋側産より瀬戸内産の方が、より重層的な味に感じる。中でも牡蠣は、育つ海に流れる河川の水によって、その味が大きく変わると思う。年末年始にカニやらの「ごっつぉ」感ある料理を満喫した舌と身体だが、2月の寒空に想い出すのがこの瀬戸内産の牡蠣を使った焼きそばだ。

目次

よく焼きの麺に染み入る牡蠣の汁。 店舗情報

よく焼きの麺に染み入る牡蠣の汁。

麺好きである上に貝好きである。
お好み焼きに大貝を入れる神戸の店。桑名の大ハマグリに、三重県や徳島の宍喰でかぶりついた鮑。ああ、鮑といえば中華のそれも外せないが。巻き貝ならシンプルにサザエもいいけど広島の赤ニシ貝か。酒のアテなら高知のチャンバラ貝に白浜のガンガラだっけ。
貝を思い出せば関西から全国の店や旅先を思い出す。毎年3月までに食べておきたいのが牡蠣料理だ。殻付きの生やら蒸しやら焼きの牡蠣はもちろん、粒で生地が見えないほどのお好み焼きや、洋食のカキフライもいい。

ってもう妄想が止まらんのですが、麺好きにとって外せないのが『良友酒家』のこの牡蠣の焼きそばだ。

牡蠣の焼きそばダイレクトな牡蠣のプリジュワを楽しみたいなら焼きそば。季節の青菜もたっぷりで、牡蠣の味と一緒にワシワシ食べてビールをグビリ、が正解。

家族で営む広東料理の老舗で、もともと五目焼きそばや豆豉(トウチ)を使った豚バラ、華僑の味の広東風カレーライスなどをいただいたことがあった。ある雑誌の取材時に「牡蠣のお好み焼きや麺も丼もあるよ」とお薦めしてもらったことから、牡蠣の焼きそばにたどり着いた。

牡蠣も出始めの12月初旬、粒はさほど大ぶりではなかったが身の厚みにびっくりしたのと、店主のサービス精神から10数粒ものせられていて「麺が見えませんやん」とツッコミ半分でコメントしつつ、下がった目尻がさらに上級者コースのゲレンデの角度まで下がりっぱなしだったのを覚えている。
以来、食べに行けぬ年にも「ああ、あの良友の牡蠣焼きそばが食べたい」と想いを寄せながら牡蠣のシーズンが過ぎてしまったこともあった。

そして今回の撮影も1月初旬のこと。夕刻の鯉川筋に六甲おろしが颯爽というより迅々と吹く中、店にたどり着いた。汁そばもあるので迷いどころだが、牡蠣のエキスが汁に流れ出すのが勿体無いとも思い、焼きそばにした。夜でも席があれば一人で麺丼で食事をする客もいるので気兼ねなくいただける。
出された皿にはチラリと麺が見える程度、その上に小松菜や水菜など、さらにこんもりと中ぶりの牡蠣の身が盛り付けられていた。

牡蠣には薄衣が付いていて、あんかけ風になっている。牡蠣の身が丸くプクプク張りがあるのは、新鮮で素早く火入されたことがよ~く分かる。 箸で持ち上げるとその弾力も分かるし詰まり具合も伝わってくる。一口でいくにちょうどいい口腔が満たされるサイズ。
歯が入ると途端にジュワジュワというよりドバーッと怒涛の牡蠣のエキスが溢れかえる。クセのない爽やかなまでの磯の風味、「海のミルク」と称されるが、この味はさらにそのエキスをぎゅうっと煮詰めたような濃さがある。絶妙なる火入れが生むレア感がたまらん。

牡蠣1月上旬撮影時点でまんまるとしたフォルム。この日は広島産。一粒でジュワリと溢れるエキスがスープや醤油の味と混ざり合って、その旨さに嬉しすぎて笑ってしまった。

麺麺を中華鍋でしっかりと焼くため、こんがりパリパリの部分と、スープに馴染んでしんなりするりと滑らかな部分が出来ている。

その上で、パリッと焼き目がついた細麺をすする。香ばしさもあるいわゆる固焼きそばで、店のベースのスープと醤油などで味付けしたタレに浸していると柔らかくなって食べやすくなっていく。
牡蠣の旨みの海に溺れるように食す。青菜も挟みながらの一気にすすって完食した。ああしあわせ。皿に残された旨味の汁を、こっそりすすって最後のビールを一口で完璧だ。

きっと来季も来るぞと誓いながら、鯉川筋の坂をぼちぼち歩いて帰路に着いた。

人物画像右から店主・潘国和さん、マダムの慧莉さん、長男の正良さん。正良さんはセカンドライン「チャイナモダン リャンヨウ」のオーナーを務める。

■店名
『良友酒家』
■詳細
【住所】神戸市中央区中山手通3-11-8
【電話番号】078-221-5866
【営業時間】11:15~14:30、17:00~19:45LO
【定休日】月曜
【お料理】牡蠣の汁ソバ1450円、牡蠣丼1450円、牡蠣の天ぷら2300円。
【公式サイト】http://www.ryoyu-shuke.com/

掲載号
あまから手帖2022年2月号/エビ・マニア

Writer ライター

曽束 政昭

曽束 政昭

Masaaki Sotsuka

京都府出身。関西のラーメンを中心に、うどんや蕎麦にも精通する、言わずと知れた麺ライター。「最近は食が細くなった」と話すも、「2杯ずつ連続2軒の取材なら守備範囲」。コメンテーターやレポートなどマルチに活躍中。

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