京都に、本と深煎り珈琲が楽しめる『鈍考』『喫茶 芳』誕生

京都に、本と深煎り珈琲が楽しめる『鈍考』『喫茶 芳』誕生

門上武司の「今月の一軒!」

2023.07.03

文・撮影:門上武司

ブックディレクター・幅 允孝(はば よしたか)さんがオープンさせた、『鈍考donkou』『喫茶 芳Kissa Fang』。本と深煎り珈琲を愛する門上武司にとっては、またとない報せ。さっそく出かけてきました。

目次

静謐な空気が流れる“本の空間” 読む場所は、気の赴くままに 深煎りの珈琲を片手に過ごす 店舗情報

静謐な空気が流れる“本の空間”

京都修学院近くに5月に誕生した私設図書室『鈍考donkou』と『喫茶 芳Kissa Fang』。 『鈍考』はブックディレクター幅 允孝さんが主宰する「BACH」(本社:東京都渋谷区)の京都分室という位置付けである。

本を読むことは、別の人生を生きるような楽しみがあると思うことがしばしばある。 同時に本を読む環境がすごく大事だと思うことも多い。

そんな願いというか悩みを見事に解決してくれたのが『鈍考』。扉を開けて室内に入る。左手の壁一面が本棚であり、ジャンル別にさまざまな書物が並んでいる。まずはそこから好みの本を数冊選ぶ。その時間がとてつもなく素敵だ。

かつて読んだことがある本。タイトルは知っていたが、手に取ったことがなかった一冊。タイトルも知らないが背表紙が僕を呼んでいるなと感じる一冊。などなど選ぶ動機はなんだっていい。

『鈍考』の本棚

読む場所は、気の赴くままに

窓の外に広がる緑。そこから発される空気が窓越しに伝わってくるように感じる。時間の流れが緩やかである。ソファのような椅子に座り、リラックスしてページをめくるのもいいだろう。スツールに腰を下ろし、読み始めると気持ちがゆったりする。

つい気持ちが緩み、横たわるのもアリだと強く思ってしまった。そんな環境で本を読み始めると、物理的な時間の流れと感覚的な時間の流れが違うことを改めて実感するのである。

ゆったりと時が流れているのを感じると、文字を追う速度までゆっくりとなってゆく。そして、ページに記された文字がスッと頭の中に入り込む。内容の理解が明瞭なのと、自らの考えを整理しながら読んでいることに気づくのだ。

京都『鈍考』の外観と店内

幅さんは「日々の流れが加速する中、社会のシステムやテクノロジーが求める速度から、あえて鈍くあること」を求め、この私設図書室を造った。

まさにその想いをしっかり受け止め、時間を過ごすことができた。

深煎りの珈琲を片手に過ごす

京都『喫茶 芳』のカウンターとコーヒーを淹れるスタッフ

一画に『喫茶 芳』がある。

探し求めていた料理書があった。その一冊を携え、カウンターに落ち着く。中ではファンさんが、手回しの焙煎機で深煎りにした豆をネルドリップでゆっくり落としてゆく。いわゆる点滴抽出である。

ファンさんは、かつて表参道にあった『大坊珈琲店』(彼女は閉店してからその存在を知る)の大坊珈琲モデルの手回し焙煎機を購入し、指導を受け、その後は独学で深煎りコーヒーを淹れるようになった。

深煎り好きの僕にはぴったりの珈琲である。飲むと一瞬苦味が口中を覆うが、その向こうから少しずつ甘みが現れてくる。ここでこのような深煎りコーヒーに出合うとは思っていなかっただけに、感激もより大きく迫ってきた。

好きな本を素敵な空間で、好みの珈琲を飲みながらページを繰る。こんな楽しみが修学院近くにあるとはなんと幸運なことか。できることならスマートフォンもロッカーに預けたほうがいい、と思ったのである。

■店名
『鈍考 donkou』/『喫茶 芳』
■詳細
【住所】京都市左京区上高野掃部林町4-9
【電話番号】なし
【営業時間】11:00~12:30(第1部)、13:00~14:30(第2部)、15:00~16:30(第3部)※WEB予約制。1枠(90分)定員6名。
【定休日】日~火曜
【料金】施設使用料+珈琲1杯2200円。
【公式HP】https://donkou.jp/
【Instagram】https://www.instagram.com/kissa_fang/

Writer ライター

門上 武司

門上 武司

Takeshi Kadokami

あまから手帖・編集顧問。年間外食350日という生活を20年以上続け、食事と食事の合間にもおやつをボリボリ…。ゆえに食の知識の深さは言わずもがな。食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者を繋ぎ、発信すべく、日々奔走している。

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