大阪・北浜『伏見町栫山』の“攻める”日本料理

大阪・北浜『伏見町栫山』の“攻める”日本料理

門上武司の「今月の一軒!」

2023.08.01

文・撮影:門上武司

神戸や大阪の日本料理店で修業した栫山(かこいやま)一希さんが2021年に開店した『伏見町 栫山』。通う門上は、「どんどん、進化していっている」と太鼓判を押します。近日に訪れた際の模様をお届けします!

目次

料理の鋭さが光る、幕開け 器や調味料との取合せも見事! 締めまで手綱を緩めないのが、『栫山』流 店舗情報

料理の鋭さが光る、幕開け

『伏見町 栫山』は門構えからもてなしが始まる。

玄関ではスタッフが出迎え、入ると北浜というビジネス街であることを忘れてしまう空気感。右手にチラリと個室が見える。だが、こちらの真骨頂はカウンターだと思う。設計は杉原 明さん(『草喰 なかひがし』などを手掛けられた方)。主人の栫山一希さんの想いを受け止め、精密な図面を描き、材料を選び抜き、つくり上げた割烹という印象だ。

最初に登場したのが青梅と青梅のかき氷。甘酸っぱい氷が青梅の味わいをより強調する。そしてこの一品で店の世界感に吸い寄せられるのだ。次に鳩麦(はとむぎ)のお茶。甘みを切ると同時に、料理に向かう心構えが生まれる。
続く料理は冬瓜。ショウガのべっこう煮がのる。だしの味を含んだ冬瓜に、細かな角切りにされたショウガ。食感と甘みと辛味で、冬瓜が階段を数段上がったような味わいとなる。

『伏見町 栫山』の青梅のかき氷と冬瓜のショウガべっこう煮のせ左は、一品目に登場した青梅と青梅のかき氷。右は、冬瓜のショウガべっこう煮のせ。

器や調味料との取合せも見事!

「器は料理の着物」と言ったのは北大路魯山人(きたおおじろさんじん)である。味や香りまで引き立てるというのだ。何も高級な器を使えばいいというものではない。

冷やしとろろと叩きオクラにのせたノドグロの西京焼は、器の色味との取合せが見事。コチの薄造りは、涼しげな景色に。食事をしていて魯山人の言葉を思い出すと共に、器の偉大さを感じたのである。

『伏見町 栫山』のノドグロ料理とコチの造り左は冷やしとろろとオクラ、ノドグロの西京焼。ミョウガの千切りをのせて。右はコチの薄造り。

まさに料理と器が一体となり、一幅の絵画のような世界を構築する。加えてコチの料理ではワサビをつけずニラ酢と醤油で勝負をした。ワサビは風味が強く、コチの香りが負けてしまうとのこと。この勇気ある選択には拍手を送りたいと思った。

続く鱧の落としはワサビと発酵タマネギを添えるなど、食材の本質を見抜き、従前の考えを検証することから料理を組み立てるのだなと感じたのであった。

その後のジュンサイも同様であった。箸休めのようなポジションだが、なんと栫山さんはシャンパンと山椒の香りをプラスした。シャンパンはソルベ。軽やかな酸味と山椒の刺激が程良く、次の料理に移る素敵なシグナルである。

『伏見町 栫山』の箸休め料理ジュンサイ。シャンパンと山椒を加え、刺激的な箸休めに。

締めまで手綱を緩めないのが、『栫山』流

7月の大阪は天神祭。八寸には祭を想起させる、船渡御(ふなとぎょ)をイメージする器に料理を盛る。この辺りは大阪で料理をすることの意味をしっかり考えての演出である。そこに入った鮎のせごしは、苦味、風味が素晴らしい。

『伏見町 栫山』の八寸八寸は、季節感溢れる盛り込みで提供。

締めのご飯は、まず煮えばなが出る。お茶の世界では一般的な煮えばなだが、中に山うに(豆腐)を忍ばせている。そして最後の抹茶、発酵アイスと薬膳ゼリーまで栫山さんは攻め続けるのだ。

実は設え的にも興味深い仕掛けがあるのだが、それを明かしてしまうと現地での驚きを損なうので、あえてここでは説明しない。訪れて、カウンターで食べる醍醐味を実感していただきたい。

■店名
『伏見町 栫山』
■詳細
【住所】大阪市中央区伏見町2-4-12
【電話番号】06-6228-3007
【営業時間】12:00一斉スタート(土・日曜のみ)、18:00・20:30(不定期で営業)一斉スタート
【定休日】不定休
【お料理】昼/コース15000円、夜/コース25000円~。※季節・食材により変動あり。サービス料10%別。
【公式HP】https://kakoiyama.jp/
【Instagram】https://instagram.com/nanonakiryouriya?igshid=MzRlODBiNWFlZA==

Writer ライター

門上 武司

門上 武司

Takeshi Kadokami

あまから手帖・編集顧問。年間外食350日という生活を20年以上続け、食事と食事の合間にもおやつをボリボリ…。ゆえに食の知識の深さは言わずもがな。食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者を繋ぎ、発信すべく、日々奔走している。

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