“ニクヤキスト”が惚れ込む、ソウルミュージックという魂の叫び

“ニクヤキスト”が惚れ込む、ソウルミュージックという魂の叫び

カオリンの「シェフのBGM」

2022.12.22

文・撮影:船井香緒里

“揚げ焼き”ステーキが味わえるビストロ『Le14e(ル・キャトーズィエム)』の店内に響くのは、鉄製フライパンで分厚い肉をアロゼする油の音、そしてソウルミュージックの圧倒的な声…。笑顔が絶えない店主の熱い語りを聞いてみましょう。

目次

テクノからソウルミュージックへ ステーキは独特のオーダー方法で 店舗情報

テクノからソウルミュージックへ

「若い頃、テクノがめちゃ好きでした」

『Le 14e(ル・キャトーズィエム)』の店主・茂野眞さんは、六本木のワインバー『祥瑞』でシェフを務めていた当時を振り返る。ナチュラルワインと料理、音楽が心地よく共鳴する、独特の空気感をもつ『祥瑞』を作り上げたのは、オーナーの故・勝山晋作さん。

「勝山さんの膨大なレコードコレクションを漁っていると、意外なことに気づいたんです」

ドイツ出身のDJデヴィッド・ムーファングや、イギリス出身のDJミスター・スクラフなど、孤高のテクノDJが創り上げる音のルーツは、意外にもブラックミュージックが多かった。それから大好きなアーティストの音楽遍歴を紐解くうち、アメリカのソウル・コーラスグループ「テンプテーションズ」や、ソウル・トリオの「オージェイズ」など60年代から活躍するアーティストに傾倒していく。

京都・神宮丸太町『Le 14e(ル・キャトーズィエム)』店主・茂野眞さん店主・茂野さん。大学卒業後、ホテルに就職。東京のフレンチレストランでの修業を経て、99年に渡仏。ブルゴーニュ『ムーラン・ド・マルトネイ』で経験を積み一時帰国。再びフランスへ渡りパリ『ラ・メゾン・クルティーヌ』、『ル・セヴェロ』で働き、休日は肉職人ユーゴ・デノワイエさんの店で働く。2009年に帰国し、銀座『ラデュレ』を経て、『祥瑞』のシェフに。2013年2月独立。趣味はボルダリング。

2013年に『Le14e』を開いてからというのも、BGMはほぼブラックミュージックだ。アフリカ系アメリカ人の感性を洗練されたサウンドで表現する「ソウルミュージック」を軸にしながら、そのルーツである「ゴスペル」、かつてワークソングであった「ブルース」などを流すこともある。

「何が好きってエネルギー漲る声の力ですよ。“よっしゃ今日もいったるで!”って僕自身が奮い立つんです」

段ボールにびっしり詰め込まれたCDの中から「その日の気分で」好みのアルバムを調理の合間に選ぶ。「ソウル一辺倒だと、アルバイトの若い子に申し訳なくって。たまに人気の邦楽を流すこともありますよ(笑)」と、スタッフへの気遣いが茂野さんらしい。とはいえ「こんな場所でサム・クックを聴けるとは」と歓喜する年配客も多い。

ダンボール箱に入ったCD「LPレコードをかけたかったんですが、店は小さいし、ステーキを焼く時の煙や油も気になるから」と、流すのはCD。棚の隙間、そしてダンボール箱にびっしり入るほとんどが往年のソウルミュージック。

なかでも、思い入れのある一枚が『SOUL STIRRERS featuring Sam Cooke(ソウル・スターラーズ feat. サム・クック)』だという。

「ソウル界のレジェンドといえばサム・クック。彼がソロに転向する前に在籍していたゴスペル・グループ『ソウル・スターラーズ』とタッグを組んだ名盤です。もうね、ボーカル同士の掛け合いがヤバいです。ド迫力のゴスペル・サウンドに圧倒されっぱなしですよ」と目を輝かせる茂野さん。ミュージシャンの身体の奥底から溢れ出るエネルギーを、茂野さん自身が取り入れるからこそ、かの唯一無二のステーキが生み出されるのかもしれない。

ステーキは独特のオーダー方法で

『Le14e』でのステーキのオーダー方法はこうだ。まずは目の前に、ホイルに包まれ、部位とグラム数が記された厚みのある塊肉がドンと鎮座する。

ステーキ用の塊肉

「今日のステーキ肉は、山形の経産牛のリブロースと、福岡の赤崎牛という交雑牛のシンタマを、グラム違いで用意しています」。サービス・スタッフによる丁寧な説明を聞き、好みの塊肉を選ぶ。

選んだ塊肉はフライパンで“揚げ焼き”される。パリにある熟成肉専門ビストロの名門『ル・セヴェロ』仕込みの技をもって、高温に熱したサラダ油をスプーンで回しかけながら、秒単位で肉を返し続けること約3分で完成だ。

少数精鋭の前菜メニューから好みの皿も頼んでおきたい。「サラミとパテの盛合せ」や「ブラータとフレッシュトマト」など素材感漲る料理を、まずはのナチュラルワインと一緒に堪能し…待ってましたの“肉時間”である。

ステーキ:赤崎牛(交雑牛)シンタマ、100gあたり2800円〜。今回選んだのは赤崎牛(交雑牛)シンタマ(100gあたり2800円〜)。

焼き上がったステーキの表面は、黒々しくてザクっと香ばしい。噛むほどに広がるのは赤身肉の味の濃さ!本能が赴くままに肉を頬張り、ジューシーでちょっぴり濃いめのガメイのワインを流し込む。その繰り返し。「赤身の色濃い小豆色、深い味わいは、しっかりと飼い込まれた(肥育時間を設けた)証」と茂野さん。艶やかな断面が、ねっとりと舌に絡む。そして赤身肉の深い旨みが弾けた。

ふと我に返ると、ソウルミュージックの濃厚なサウンドが流れている。“魂の叫び”ともとれるBGMと、本能に訴えかけるステーキ、時々ナチュラルワイン。ここでしか体感できない見事なハーモナイズを、ぜひ堪能してほしい。

■店名
『Le 14e』
■詳細
【住所】京都市上京区伊勢屋町393-3 ポガンビル2F
【電話番号】075-231-7009
【営業時間】18:00~21:30LO(土曜・祝日17:00〜)
【定休日】水・日曜
【お料理】サラミとパテの盛合せ2000円、ブラータとフレッシュトマト2500円。ステーキ:山形県経産牛フィレ100gあたり3000円、福岡県赤崎牛(内モモ・シンタマ)100gあたり2800円〜。Gワイン900円〜、Bワイン5400円〜。
【Instagram】https://www.instagram.com/le_14e/

あまから手帖/2022年12月号
バツグン酒場
ご時世的に今行きたい、少人数でしっとり酔える上等居酒屋、日本酒、焼鳥、肴コース…をご案内。こちらは「Amakara Topics」内の「おいしい音楽」にて掲載。

Writer ライター

船井 香緒里

船井 香緒里

Kaori Funai

「Kaorin@フードライターのヘベレケ日記」でお馴染み。酒と酒場と音楽をこよなく愛し、「Led Zeppelin」、「The Who」はじめ60〜70年代の洋楽ロック好き。愛用するスピーカーは「Tannoy ⅢLZ」66年製。アウトドア好きでもあり、ジョギングとロードバイクにて健康維持。https://kaorin15.exblog.jp/

Related article 関連記事