大阪・島之内の和食『酒菜屋 なないろ』、移転後もやっぱりほっこり

大阪・島之内の和食『酒菜屋 なないろ』、移転後もやっぱりほっこり

団田芳子の「わたホレ新章」

2022.09.21

文・撮影:団田芳子

拙著『私がホレた旨し店 大阪』、略して“わたホレ”を出版したのは2017年。あれから5年、どのお店も美味しい変化を遂げているよう。そこで、改めて私自身が飲み食べ歩きます。第2回目は、大阪・島之内の隠れ家『酒菜屋(さかなや) なないろ』へ。

目次

雰囲気はすっかり割烹に 移転後も兄弟の心根は変わらず リーズナブルに、しこたま食べたんまり呑む! 店舗情報

雰囲気はすっかり割烹に

「よくぞ見つけてくれました」と、私の顔を見ると3度に1度は兄サ・原田貴司さんが言う。けど、私からすれば、よくぞウチの近所でやっててくれました、だ。

安いが華と競い合うような下町で、上等な魚を、庄内の珍(めずら)かな野菜を揃えて、孤高を気取ることもなく、ニコニコと料理する。そんな店に出逢い小躍りしたのはこちらなのだ。

移転前の『なないろ』があったのは東成区。何かといえば通ったものだった。今は電車に乗って行く距離に阻まれて間遠(まどお)になったが、それでもたまに顔を出すと兄弟が揃って笑顔で迎えてくれる。先日は、久々に出掛けた。

まずはビールとポテサラとチャプチェ!と、定番をオーダー。すると、「スイマセン!この頃チャプチェ作ってないんです」と兄サ。土地柄なのか弟クン・雄史さん担当の韓国惣菜系があまり出ないという。

いや、土地柄というよりお店の雰囲気かも。居酒屋風情はすっかり払拭されて、立派な割烹だ。ビールと韓国惣菜より上質な造りと日本酒が似合う。両方あるのがこの店の魅力と私は思ってるけど。

大阪・島之内の和食『酒菜屋 なないろ』内観

出会いは、10年以上も前。近鉄のガード横に2005年にオープンした『なないろ』は、兄・貴司さんの目利きした上質な魚と和の一品、弟・雄史さんの韓国惣菜の両輪で、キラリと光る居酒屋の星として輝いていた。

とはいえ、最初から順風満帆とはいかず、「この辺で、そんなきれいに盛ってもウケへんで」と、客が心配するほど造りは出ず、毎日兄弟で泣きながら上等な魚を賄いにしたという。

私が初めて、外の品書きを見て、入ってみよかとガラガラ扉を開けた頃も、「サーモンちょうだい」「スイマセン、サーモン入れてないんです」なんて会話をちょいちょい耳にした。

それでも、ニーズに合わせた居酒屋メニューを増やしつつ、魚だけは質を落とさずにガンバルうちに、「天然クエ入りました」のハガキに、はせ参じる常連が付きだした。

そして2013年、兄弟はミナミ・島之内に打って出たのだ。「あまから手帖に載せてもらって、踏ん切りが付きました。ほんとによく、うちの店を見つけてくれました」。

移転の前に、兄サはそう言って挨拶してくれた。あー、やっぱ、誰にも教えたくなかった私のケの日の隠れ家、開陳(かいちん)するんやなかったか、と心で泣いて顔で笑って送りだした。

大阪・島之内の和食『酒菜屋 なないろ』兄の原田貴司さんと弟の原田雄史さん。右が兄・左がちょっと天然の入った可愛らしい弟

移転後も兄弟の心根は変わらず

新たな店は、カニ歩きせねば手洗いに行けなかった前の店とは雲泥の差。本格割烹な構え。立派になって―と母の気分で、やはり嬉しかった。兄弟のはにかむ笑顔も変わらない。押しつけがましくなく、ほんにさり気なくエエ魚とエエ野菜を、上手に料理してくれる。

大阪・島之内の和食『酒菜屋 なないろ』外観

それに、やっぱり落ち着く。お家に帰ってきたように。それは通い詰めた私だからというばかりじゃなさそうで、島之内界隈のスーツ姿のみなさんも、ほっこり和んでいる。これはもう偏(ひとえ)に兄サの人となりによるものだろう。出過ぎず威張らず、いつも謙虚で、何だかちょっと困ったような顔をして気弱に笑う兄サの。

リーズナブルに、しこたま食べたんまり呑む!

お値段も至ってリーズナブルなラインを保っている。高級化していく日本料理だけど、1万円札1枚で、しこたま美味しいもんを食べ、頃合いの食中酒もたんまり呑めるのだから、有り難い。

それにまぁ、もしかしたら数日前に予約をすれば、また超絶旨いあのチャプチェを作ってくれるに違いない。そういう人だ、原田兄弟は。BGMも相変わらずの昭和歌謡。帰りにカラオケに行きたくなるのもお約束。

うん、やっぱ私が惚れた店に間違いはないゼ!

大阪・島之内の和食『酒菜屋 なないろ』お通しとして一口のおだしを。

大阪・島之内の和食『酒菜屋 なないろ』2つめのお通しのトウモロコシの茶碗蒸し、イチヂクと素麺南瓜、鱧の子と野菜ゼリー酢。まずは一口のおだしから。そして2つめのお通しにトウモロコシの茶碗蒸し、イチヂクと素麺南瓜、鱧の子と野菜ゼリー酢。

大阪・島之内の和食『酒菜屋 なないろ』お造りと肉料理。左 / お造り、陸前高田の石影貝、ハモ、マグロ、剣先イカなど盛り込んで、ひとり1430円。右 / 肉料理、羽黒緬羊ラムグリル、山形庄内のパプリカを添えて2500円。

大阪・島之内の和食『酒菜屋 なないろ』日本酒「刈穂」、「黄金澤」など、酒のセレクトも気合いが入っている。

大阪・島之内の和食『酒菜屋 なないろ』ジャコと庄内なめこおろし、ポテトサラダ。左は、ジャコと庄内なめこおろし 700円。右は、ポテトサラダ770円。貝柱がたっぷり入って旨い!!

■店名
『酒菜屋 なないろ』
■詳細
「住所」大阪市中央区島之内1-14-15 天野ビル 1F 
「電話」06-6120-7716
「営業時間」18:00~22:00(前日までの予約で17:00~も予約可能)
「定休日」月曜
「お料理」コース8800円~、一品630円~。
https://hitosara.com/0006105236/

Writer ライター

団田 芳子

団田 芳子

Yoshiko Danda

食・酒・大阪を愛するフリーライター。旅行ペンクラブ会員。小宿の会塾長。料理人には怖れと親しみを込め“姐(ねえ)さん”と呼ばれる。講演、TV・ラジオ出演も。著書に『私がホレた旨し店 大阪』(西日本出版社)、 『ポケット版大阪名物』(新潮文庫・共著)ほか。

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