『おおさか料理 淺井東迎』 変わらぬカウンター割烹の愉しみ

『おおさか料理 淺井東迎』 変わらぬカウンター割烹の愉しみ

団田芳子の「わたホレ新章」

2022.11.30

文・撮影:団田芳子 / 画像提供:『おおさか料理 淺井東迎』(個室画像)

拙著『私がホレた旨し店 大阪』、略して“わたホレ”。発刊5年後の今、改めて飲み食べ歩き、あの店の続きの物語をお届けしていきます。第3回目は、大阪・ミナミの名割烹『おおさか料理 淺井東迎(あさいとうげい)』へ。

目次

しびれます!粋な男塾 迷うのも楽しい!巻物のような品書き ルール無用!好きな物を好きなように 店舗情報

しびれます!粋な男塾

他所からの客人を、おもてなしするのに私がよく利用するのが、『おおさか料理 淺井東迎』。法善寺横丁にある『浪速割烹 㐂川(きがわ)』の流れを汲む1軒だ。

「和食は京都で食べてきたから、大阪では串カツかお好み焼きを」―なんてヌルいことを言う相手も、問答無用。大阪料理、なにわ割烹は、京料理とはまたひと味もふた味もちゃいますねん!と、こちらへ強制連行、いえいえ、丁重にご案内。

心斎橋の一等地の自動扉を抜ければ、カウンターの向こうから、「いらっしゃませーっ!」と威勢のいい声たちに迎えられる。ズラリと10数人、清々しいまでの男塾だ。まず、この光景に客人が度肝を抜かれるのがお約束。全員和帽子に襟付き白衣という凛とした出で立ちが、何とも粋だ。

『おおさか料理 淺井東迎』店内、店主・東迎高清さんとスタッフ全員。店主の東迎高清さんはちょうど真ん中あたり。素朴な語り口と柔和な笑顔に癒される。

束ねる店主は、東迎高清さん。カウンターの中の穏やかな笑顔に、私はすっかり寛ぎモードに。けど、客人は初めての店でカウンターに座るのはちょっと緊張している模様。

迷うのも楽しい!巻物のような品書き

そんな客人の目の前に、長い長~い品書きをバラリンと広げる。ズラズラーッと150品もの本日の自慢の料理名が並んでいるのだから、そりゃあ圧巻だ。誰もが目を丸くする。

『おおさか料理 淺井東迎』品書き造り、旬のもの、揚げ、酢のものと、品書きはカテゴリーに分けられているので、選びやすい。

「ご主人の東迎さんが、ご自分で毎日1時間も掛けて手書きしてはるねんよ」と私は自分が書いたように自慢する。

クセのある達筆で、ぎっしりと書き込まれて、隣の料理名と引っ付いてるところもあり、解読には慣れが必要だが、ご安心を。「ん?これ何て書いてあるのかな。ハモと…」と呟けば、「『ハモとジーマーミー豆腐味噌焼き』です。落花生(らっかせい)の豆腐ですね」と、東迎さん。「あ、沖縄で食べたことある! もちもちっとした面白い食感の」「はい、そうです。私は与那国(よなぐに)の出身でして」。

ふわりとした語り口の東迎さんと一言二言交わせば、客人の緊張も解けていく。「それ食べたいです!」「はい、ハモ、ジーマーミー」。東迎さんの声で、男塾生たちがきびきびと反応する。

会話とライブ感が、カウンター割烹の醍醐味だ。

ルール無用!好きな物を好きなように

地元・大阪の人でも、カウンター割烹では、何から注文していいか分からなくて、ちょっと行きにくいなどと仰る向きもあるが、ホンマに食べたいもんから食べればいい。ルールなんてない。味の濃いもんばっかり注文したら、「あっさりしたアテもありますよ」と、さり気なくサジェスチョンもしてもらえる。

私は、取りあえずビール派なので、最初はビールに合いそうな、和風コロッケや変わり餃子などを摘み、一息ついた後、日本酒に変えて、お造りや煮炊き物を選ぶ。

『おおさか料理 淺井東迎』造り盛合せ、和風コロッケ美しく調えられたお造り盛合せと、鮑(アワビ)の殻にベシャメルソースと魚の身や野菜が入った名物・和風コロッケ。サクサクトロリ。

絶対に外せないのは、サエズリと青菜のスープ煮。鯨(クジラ)の舌って、なんでこんなに旨いのかと、毎度しみじみと両手で頬を包んでゆっくり味わう。

好きなものを好きなだけ、たっぷり食べて吞んで、お会計はひとり13000円ほど。値打ちありマス。

『おおさか料理 淺井東迎』のサエズリと青菜のスープ煮と、パイ豚塩漬 肝ソース掛け飲み込むのがもったいないほど旨いサエズリと青菜のスープ煮と、パイナップルを食べて育ったアグー豚=パイ豚をスーチカー(塩漬け)にして炙り、豚の肝のソースでいただく、パイ豚塩漬 肝ソース掛け。嚙むほどに旨みあふれる。

『おおさか料理 淺井東迎』のパイ豚の米煮。こちらはパイ豚の米煮。皮目を炙って香ばしさもプラス。

この度のコロナ禍で、この大好きなカウンターがなくなりでもしたら大変だと心配した。何せ大所帯だ。人件費に加え、ミナミの一等地で3階建ての一棟借りだから家賃も相当なはず。「家賃補助が受けられたので何とか」と、東迎さんはやっぱり穏やかに話していたが、酒を出せなかったり、ミナミは営業時間の短縮要請もあったし、ほんと厳しかったはずだ。

そんな中、「従業員もみんなで考えて」、自家製ポン酢や山椒じゃこなどのギフト商品を開発したり、手軽なランチ膳を作ったりと奮闘しておられた。娘の明奈さんがチラシを作り、従業員がみんなで近所にポスティングに行ったりと、オヤッサンを主軸に一丸となって立ち向かっていて、今更ながら東迎さんは、男塾生たちに心底慕われているんだなと感じ入ったものだった。

今、世の中が少し落ち着いて、カウンターに活気が戻っている。
ああ、嬉しいなぁ。
大阪カウンター割烹の楽しみよ、永遠に!
飲み過ぎて和みすぎて、ふんにゃりした頭で、壮大なことを願う私であった。

『おおさか料理 淺井東迎』個室1階はカウンター、2~3階には、テーブル席や小上がりなど、大小個室も。

『おおさか料理 淺井東迎』店主・東迎高清さん店主・東迎さん。多弁ではないけれど、笑顔から、もてなしの心がひしひしと伝わってくる。

■店名
『おおさか料理 淺井東迎』
■詳細
【住所】大阪市中央区心斎橋筋2-2-30 境ビル1~3階
【電話番号】06-6213-2331
【営業時間】11:30~14:30、17:00~23:00
【定休日】日曜
【お料理】昼/コース3500・5000・7000円、夜/8000円~。※税別。

Writer ライター

団田 芳子

団田 芳子

Yoshiko Danda

食・酒・大阪を愛するフリーライター。旅行ペンクラブ会員。小宿の会塾長。料理人には怖れと親しみを込め“姐(ねえ)さん”と呼ばれる。講演、TV・ラジオ出演も。著書に『私がホレた旨し店 大阪』(西日本出版社)、 『ポケット版大阪名物』(新潮文庫・共著)ほか。

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