スーシェフ独立を機にホレ直した『レストラン ヴァリエ』

スーシェフ独立を機にホレ直した『レストラン ヴァリエ』

団田芳子の「わたホレ新章」

2023.02.17

文:団田芳子 / 撮影:香西ジュン(メインカット、内観画像)、団田芳子

拙著『私がホレた旨し店 大阪』、略して“わたホレ”。掲載50店は、タイトル通り、美味しいのはもちろん、シェフの人柄にホレこんだ店ばかり。第6回目は、スーシェフ独立劇でホレ直した『レストラン ヴァリエ』のイイ話。

目次

同級生の活躍が嬉しくて 元スーシェフの店へ、師匠降臨! 店舗情報

同級生の活躍が嬉しくて

ここには、ハレの日の思い出がいっぱいだ。大切な人のお誕生日やお祝いに、何度もこのシャンデリアの下のテーブルをリザーブしてきた。

オーナーシェフの高井実さんとは同い年なので、ついタメ口をきいてしまう私だが、心の中では、いつもスゴイなと思っている。何度食べても感動がある料理はもちろん、大阪では稀少なグラン・メゾンと呼べるゴージャスなしつらえ、親しみのあるサービスも、高井シェフのディレクションの賜物なのだから。

『ホテル・プラザ』から南仏の『ロワジス』と、フランス料理の王道を歩いてきた高井シェフは、独立してからもブレることなくレストラン・スタイルを貫いてきた。

2009年、新しくできた中之島ダイビルに移転して、華麗なレストランに生まれ変わったときは、同い年の偉業がとっても誇らしかった。

内観さすがグラン・メゾンと言いたいエレガントな雰囲気の店内。

マリネ前菜の1つ、スコットランドサーモンマリネ 綾誉 メロゴールド レーズン エシャロットの香り。ワクワクさせるスターター。

昨年、そんな同級生を、さらに見直して、ホレ直した出来事があった。

「梅谷くん、覚えてる?」と高井シェフ。数年前に「僕の右腕」と紹介されたスーシェフのことだ。「彼が独立してね」とショップカードを渡された。
ん?これめっちゃ近所やないですか。カジュアルな店?「うちと同じラインのレストラン」と、こともなげに高井シェフ。師匠に挑戦状を叩きつけてる?とビックリする私に、「いっぺん一緒に行きましょ」と高井シェフはニコニコと誘ってくれた。

元スーシェフの店へ、師匠降臨!

日を改めて、梅谷宜伸シェフの店『ル・プログレ』を、高井シェフと共に訪問。
『レストラン ヴァリエ』のある中之島ダイビルの川を挟んだ斜め向かい。ほんとにご近所。『レストラン ヴァリエ』に比べて、規模はコンパクトで、ちょっと尖ったグレージュのモダンな世界。

師匠を迎えて緊張気味の梅谷シェフは言葉少な。その分、サービスの磯口武さんが多弁でバランスはとれているらしい。
「磯口君もうちにおったんよ」と高井シェフ。伊勢丹の『ビストロ・ヴァリエ』で2年ほど働いていて、梅谷シェフと知り合ったのだという。

果たして、梅谷シェフの料理は素晴らしかった。若さ溢れる自分のワールドをちゃんと表現していて、滅法洒落ている。そして、さすが『レストラン ヴァリエ』仕込み、ちゃんと美味しい!

前菜元スーシェフ・梅谷シェフの店『ル・プログレ』のお料理。前菜、間八・大根・オリーブ。オシャレなカルパッチョ風。

メイン料理『ル・プログレ』のある日のメイン料理、篠山の鹿。素晴らしい火入れでしっとりジューシー。

梅谷シェフは、ホテルや人気フレンチなど、いくつかの現場を経たのち、某ホテルでやりたい仕事ができず鬱々としていた時期があったらしい。そんなとき、「うちへ来るか」と手を差し伸べたのが高井シェフだった。

『レストラン ヴァリエ』に入って、学び直した梅谷シェフ。「何となくやれてると思っていたことを全部覆された。何も見えていなかったことが分かりました」と当時を振り返る。
そして、8年の間に、「高井シェフには、生きていく術を教わった」とも。

30才を超えた梅谷シェフは、「1度きりの人生、やりたいことをしたい。飲食業界の底上げができる料理人になりたい。そのためには、自分の店を持たなければ」との想いを募らせて独立を決意。
最初こそ右腕と頼んだ梅谷シェフを慰留した高井シェフだったが、決意が固いと見るや、応援に回った。
店探しに難航していると知って、不動産会社や設計事務所を紹介したのも高井シェフだったという。「大阪市内一円で探したけれど、結局、中之島へ。縁があったんでしょうね」と梅谷シェフ。

2022年8月『ル・プログレ』オープン。師匠の店と近い分、『レストラン ヴァリエ』の仲間が仕事終わりに来てくれたり、師匠とも話す機会が増えて、「つくづくこの場所で良かったな」と感じていると梅谷シェフは言う。

梅谷シェフ『レストラン ヴァリエ』から独立開店した『ル・プログレ』(【住所】北区堂島浜2-1-13 日宝堂島ビル1階、【電話番号】06-6136-5253)前で梅谷シェフ。

そんな師弟の物語を聞きながらの食事は至福の時だった。

「どうでしたか」。おずおずとテーブルに挨拶に来た梅谷シェフに、「いいやん、美味しいわ。さっきのあれはどうやって作ってんの?メインのソースはこうした方がええんちゃう?」とざっくばらんに話す高井シェフ。
エエ人やなぁ。スゴイシェフやなぁとホレ直した私であった。

■店名
『レストラン ヴァリエ』
■詳細
【住所】大阪市北区中之島3-3-23 中之島ダイビル2階
【電話番号】06-4803-0999
【営業時間】11:30~15:30(13:30LO)、18:00~23:00(19:30LO)
【定休日】月曜(祝日の場合は営業)、その他月に2回の不定休
【お料理】昼/コース3872・5445・8107・13310・19360円、夜/13310・19360円。※税込み。
【公式サイト】https://www.restaurant-varier.com/
【Instagram】https://www.instagram.com/restaurant_varier/

Writer ライター

団田 芳子

団田 芳子

Yoshiko Danda

食・酒・大阪を愛するフリーライター。旅行ペンクラブ会員。小宿の会塾長。料理人には怖れと親しみを込め“姐(ねえ)さん”と呼ばれる。講演、TV・ラジオ出演も。著書に『私がホレた旨し店 大阪』(西日本出版社)、 『ポケット版大阪名物』(新潮文庫・共著)ほか。

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