ただ今 “古典”を創作中?!日本料理『西天満 桜会(さくらえ)』

ただ今 “古典”を創作中?!日本料理『西天満 桜会(さくらえ)』

団田芳子の「わたホレ新章」

2023.09.20

文・撮影:団田芳子

拙著『私がホレた旨し店』の新章としてお届けしてきましたこの連載。最終回は2号店が出来て元気なこちら『西天満 桜会(さくらえ)』をご紹介。店主の満田健児さんの“新日本料理”に、毎度ビックリ仰天です。

目次

2020年、西天満店が始動 苦手なハモも新技法で、あら美味しい 店舗情報

2020年、西天満店が始動

大阪・豊中の名店として知られる『桜会(さくらえ)』が、大阪市内に2号店を出した――という報は、大歓迎された。
1998年に開店した『豊中 桜会』は、コースだけでなく、出汁巻き卵などの一品にも気軽に応じる。個室が大小あり、お子様OKで、家族連れも多い。「宮参りやお食い初めは、鯛の姿焼きなど古い仕事をスタッフも覚えることができる良い機会になるんですよ」と店主の満田健児さん。
対して、2020年10月にオープンした『西天満 桜会』は、カウンターとテーブル席で構成。北新地も近く、接待利用などが見込まれるのでコースに特化している。

『西天満 桜会』店内、カウンター白漆喰風の天井や格子が落ち着いた雰囲気の店内。

苦手なハモも新技法で、あら美味しい

私にとっても西天満は生活圏に近くて有り難い。先日も晩夏の懐石をいただいた。
まず先付けは、蒸し穴子と夏野菜。土佐酢ゼリー掛け。彩り美しく、まだまだ暑い中、火照った身体をすうっと癒してくれる。

椀は、湯葉の真丈(しんじょ)とイサキを焼いて椀種(わんだね)に。松茸も添えられて、芳醇な香りを楽しませる。ここに本日の満田マジックその1。だしに、マグロ節ではなく鶏節を使っているとのこと。
「鶏節とカツオ節の相性がいいんですよ。焼き魚を入れるときは鶏節のだしが特によく合う。香りは強くない分、松茸が生きてくるんです」

『西天満 桜会』椀豪華に松茸入りの椀物。

造りはハモ。夏場どこへ行っても出てくるハモだが、私はどうも美味しいと思うことがあまりない。水っぽかったりスカスカだったり。折角のハモの旨みが抜けてしまっていると思うことが多い。ところが、あら、これは美味しい。と思ったら、満田マジックその2、「“油ちり”です」と。100℃で油通ししたものだと言う。
「落としにするより、水分が抜けないし、外から水分が入らないんですよ」

なんで “油ちり”などという方法を思いつくの?と尋ねたら、元々野菜でやっていたという。ああ、そういえば!
10年ほど前の本誌「あまから手帖」の取材のとき。
有機でとても美味しい大根が手に入った。共汁で炊けばいいけど、実は大根本体よりだしが美味しくなる。大根に申し訳ない気がして…大根の甘さをそのまま味わってもらえる調理法を試行錯誤し、100℃近くの油の中で90分蒸すという手法をあみ出した――って話を聞いたっけ。

「油の中で蒸すと、空気に触れずに火が通るので、大根の味を閉じ込められる。これからは有機野菜限定の仕込み方法も必要だと思ってるんです」。そんな満田さんの言葉が、当時の取材メモに残っていた。
「そうです。それを魚でやってみようと色々試したけど、魚の身はボロボロになっちゃう。でもね、ハモはイケたんです」
油通しされたハモは、しっとりとして旨みが生きている。満田流 “油ちり”、いいやん。

『西天満 桜会』造りハモに合わせるのは梅肉ではなく、昆布だしと酢と砂糖を加えた「大葉酢」を小付けに。スポイトにはワサビオイルが入っている。

名物の八寸は、美しい越前塗の特注六角木箱にて。桜と紅葉の意匠が美しい蓋をワクワクと開ける。見ているだけで酒が進みそうな料理が詰まっている。
中でも、黒オリーブが私好み。塩漬けの黒オリーブをだし、味醂、濃口醬油で炊いたのだそう。「醬油の倍量の味醂を入れるんです。ギョッとするでしょ。でも味はちょうどよくなるんですよ」。粉カツオをまぶしてあるので、日本酒にもワインにも合う。さすが酒豪のアイデア。

『西天満 桜会』八寸八寸。焼き鯖の棒寿司、スモークサーモン、酒粕を使ったヴィシソワーズ、上下200℃に熱した鉄板で挟んで焼くという焼き枝豆。そして100℃で90分茹でる落花生などなど。

『西天満 桜会』鮎鮎は夏のスペシャリテ。102℃の油でじっくり5時間煮てコンフィに。引き上げてから炭火で炙り、カリッと香ばしく。長良川の天然鮎は、骨まで食べられるサイズじゃないのにおかげで頭ごとイケる。添えたのはバジルを混ぜ込んだ酢飯。「蓼酢(たでず)はあんまり合わないと思ってて」と、これまたユニーク。

『西天満 桜会』混ぜ天丼人気のごはん、通称「混ぜ天丼」。衣をカリッとさせたイカとトウモロコシのかき揚げがたっぷり。

満田さんの料理には、毎度驚かされる。
創作という単語には手垢が付いてしまったけれど、彼の“新日本料理”は、思いつきとか目先の新しさとは次元が違う。「ボクは今 “古典”を創ってるつもりなんです」と10年前の満田さんの台詞もメモにある。大層な設備がなくても、誰でもできる技法を考えていると。ハモの “油ちり”が100年後、“古典”として継承されていたら面白いな。
営業は変則的。事前にお問い合わせを。

『西天満 桜会』店主・満田さん店主・満田さん。閃きと科学的アプローチで、どんどん新しい料理法を考え出すアイデアマン。

■店名
『西天満 桜会』
■詳細
【住所】大阪市北区西天満4-10-5 H.C.S西天満ビル1階
【電話番号】06-4397-3987
【Instagram】https://www.instagram.com/nishitenma_sakurae/

Writer ライター

団田 芳子

団田 芳子

Yoshiko Danda

食・酒・大阪を愛するフリーライター。旅行ペンクラブ会員。小宿の会塾長。料理人には怖れと親しみを込め“姐(ねえ)さん”と呼ばれる。講演、TV・ラジオ出演も。著書に『私がホレた旨し店 大阪』(西日本出版社)、 『ポケット版大阪名物』(新潮文庫・共著)ほか。

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