ご当地ちぐはぐ家族を描く「あまろっく」中村監督&料理監修・広里さんインタビュー

ご当地ちぐはぐ家族を描く「あまろっく」中村監督&料理監修・広里さんインタビュー

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2024.04.30

文:椿屋 撮影:福本旭

絶賛公開中の兵庫県・尼崎を舞台にした映画「あまろっく」(ハピネットファントム・スタジオ)は、巨大な閘門“尼ロック”の存在に着想を得て生み出された家族の物語です。39歳独身無職実家暮らしの娘(江口のりこ)のもとへやってきたお父ちゃん(笑福亭鶴瓶)の再婚相手はなんと20歳! 家族団欒に強い憧れをもつ義母(中条あやみ)との共同生活が、いくつもの騒動を経て“家族”になっていくまでの、面倒くささと愛おしさを描いています。凸凹家族に常に寄り添う数々の「食」に着目して、中村和宏監督と全ての料理を手掛けたフードコーディネーターの広里貴子さんに撮影裏話をお聞きしました。

目次

家族団欒の象徴=ごはん キャラクターの感情を料理が後押し 懐深き「アマ」のポテンシャル 公開情報

家族団欒の象徴=ごはん

あまろっく🄫2024映画「あまろっく」製作委員会

大正三大洋食(カレー・とんかつ・コロッケ)をはじめ、ハンバーグ、小芋といかの炊いたん……といった日々の暮らしを如実に表現する家庭料理に加えて、ちょっと豪華なお弁当に、赤飯やばら寿司といったハレの献立。さらには、実在する讃岐うどん屋、優子(江口のりこ)の“心のオアシス”たるおでんの屋台などなど、本作には何気ない日常の食卓の風景や、ここぞ!というときに欠かせない料理が数多登場します。

「孤独な幼少期を過ごした早希(中条あやみ)が夢見ている家族団欒=一緒にごはんを食べることなんですよね。どんなにいがみ合っていようが、食卓を囲むのが家族。竜太郎(笑福亭鶴瓶)の『食うて寝たら大概のことは何とかなる』という言葉のとおりです。怪獣も出てきませんし、派手なカーチェイスもしない地味な映画ですけど(笑)、地味なだけに料理は大事にしました」と、中村監督。

「あまろっく」インタビュー「ごちそうプロデューサー」こと、広里貴子さん(左)と、監督の中村和宏さん(右)。

対して、広里さんは、「何年何月何日何時という設定で細かく時系列が表になっていたので、何よりも季節感を大切にしようと思って準備しました。関西の春らしい食材として鯛は絶対外せないですし、家庭のごちそうといえばばら寿司。20歳の早希ちゃんの料理をハイカラだと思ってほしくてクラムチャウダーを献立に入れるなど、誰が誰のためにどんな気持ちで支度するのか考えながら、パッと見て味の想像できるものをつくるようにしました」と教えてくれました。

あまろっくババロア、おでん、ばら寿司、“げんこつおにぎり”など、広里さんが劇中で手掛けた重要アイテムの数々。

キャラクターの感情を料理が後押し

台本に書かれた料理をただ用意するのではなく、常に複数を用意して提案するなど、監督曰く「広里さんは、台本をちゃんと読んで、料理で演出してくれる方」。ときに浮足立っていることが伝わる華やかなメニューを考え、ときに世代差や時代背景を感じさせる食卓を用意する、キャラクターと物語に寄り添うプロフェッショナルです。

それを如実に感じさせるのが、阪神尼崎駅前の中央公園に店を構えるおでんの屋台で出される料理。「台本を読んだ時点では想定してなかったんですが、美術さんから一品ものを出したいと相談を受けて、それなら面白いメニューを入れたいと思い、屋台として提供するのに無理のないものをと、おでんのだしを使った献立を考えました」

あまろっく🄫2024映画「あまろっく」製作委員会

考案されたメニューの中で大活躍するのが、“おでん屋のポテトサラダ”です。これは、おでんの具材としての玉子とじゃがいもにマヨネーズを加えたシンプルな一皿。それを、リストラされて再就職も思うようにいかない優子が酒を呑みながら文句を言う場面で登場させました。その際、優子役の江口のりこさんに伝えたのは、「これは潰して食べるものです」という簡単な説明のみ。

「これが、見事にハマって、じゃがいもを潰している優子のイライラ具合がよく伝わるシーンになりました」と、監督。「江口さんやったら巧く使ってくださるかな」という広里さんの期待以上の成果をもたらしたのでした。

広里貴子さん

あまろっく台本の巻末で登場人物たちの生い立ちからのプロフィールを共有するのが中村流。キャストの役づくりのために役立つのはもちろん、衣装部や装飾部にとっての参考資料でもあり、監督自身が撮影中に原点に立ち返る際にも必要なもので、「みんなの指標になるように」との想いで詳細に綴られています。

懐深き「アマ」のポテンシャル

広里さんにすっかり胃袋を摑まれていた監督は、撮影用料理のおこぼれにあずかることもしばしば。特にハンバーグがお気に入りだったようで、食事に重きを置く姿勢は早希にも負けません。前述の竜太郎の「食うて寝たら大概のことは何とかなる」同様、鍵となっているセリフは、「デザートは心のごちそう」という早希のひと言。その“心のごちそう”として重要な役割を果たすババロアは、「オシャレに見えないよう、昔ながらの型を使ってノスタルジックに」仕上げられ、母直伝という冠に相応しい逸品として物語に彩りを添えます。プリンでもなく、クッキーでもなく、ババロア――どこか懐かしくて、ほんのちょっぴり特別感のある手づくりデザート。その絶妙な匙加減こそ、監督の感性であり本作の最大の魅力です。

ええ塩梅(あんばい)は、笑いはもちろん人間関係や風景描写など、全編にわたって散りばめられています。中でも、舞台となったアマ(尼崎)の見せ方には驚きを隠せません。関西人の多くが口にする「アマ」のイメージが大きく覆ることは間違いないでしょう。

中村和宏監督

「アマの魅力は、街が気取ってないこと。CGでいらんものを消したり、空を美しく見せたりせず、気取らんように、そのままを撮りました。あちこち整備されて、尼崎城が建てられて、僕が小学6年生まで住んでた頃からしたら見違えるほどきれいになったけど、暮らす人々の大らかさは昔と変わりません。何でも受け入れてくれるかんじが、作品にも出てたらいいなと思っています」

監督の狙いどおり、何でもアリな気質や何とかなるやろ精神など関西ならではの“ええとこ”がギュッと集まり、旨味が存分に詰め込まれた煮凝りの如き本作。登場する料理の数々に注目しながら観れば、終わって席を立つ頃には、きっと大切な誰かと一緒にごはんを食べたくなっているはずです。

あまろっく🄫2024映画「あまろっく」製作委員会


中村和宏さん

映画監督。1973年生まれ、尼崎市出身。2017年、よしもと新喜劇映画「女子高生探偵あいちゃん」(KATSU-do)で監督デビュー。大人気コミックエッセイの映画化「酔うと化け物になる父がつらい」(2000年/ファントム・フィルム)では、チーフプロデューサーを務めた。

広里貴子さん

なにわのごちそうプロデューサー。辻調グループの日本料理技術講師を務めた後、2006年に『kicho(有限会社貴重)』を設立。2013年放送のNHK連続テレビ小説「ごちそうさん」以降、NHK大阪放送局制作の朝ドラで料理指導を担当し続けている。


■映画名
あまろっく
■詳細
【関西の上映館】
尼崎:『MOVIXあまがさき』『塚口サンサン劇場』
京都:『イオンシネマ京都桂川』『T・ジョイ京都』『MOVIX京都』
大阪:『あべのアポロシネマ』『大阪ステーションシネマ』『なんばパークスシネマ』ほか
神戸:『109シネマズHAT神戸』『OSシネマズ神戸ハーバーランド』『OSシネマズミント神戸』ほか
【公式サイト】https://happinet-phantom.com/amalock/
【X】https://twitter.com/amalock_movie
【instagram】https://www.instagram.com/amalock_movie/

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