プロ×プロ 料理を深める技

第5回「炭火の極意」

教えるプロ/炭火焼鳥『あやむ屋』水沼巧さん「炭火をうまく扱うコツは、積み方にあり!」

大阪市福島区福島5-17-39
tel.06-6455-7270

鶏、炭、塩、さらにワイン、焼酎、日本酒にまでアカデミックに造詣が深いオーナーの店。予約難の有名店ゆえ、電話は早めに。

教わるプロ/イタリア料理『ラ・ルッチョラ』鈴木浩治さん「炭火は難しい。もう、諦めてました。」

大阪市福島区福島6-9-17
tel.06-6458-0199

大阪市中央卸売市場の卸『文亀』の魚介と、滋賀産の野菜や肉を駆使する気骨のトラットリア。独創的なレシピの数々も人気の要因。

炭火遣いのポイントは、“空気の寸止め”にあり

「あまりに衝撃的でした。肉のジューシーさが全然違って。僕も炭火で料理をしてるのに、なんでこんなに違うんやろと思いました」。トラットリア『ラ・ルッチョラ』の鈴木シェフが、以前『あやむ屋』を訪れた時の驚きは、文字通りショッキングだったとか。これまですでに10年近く炭火焼きイタリアンを手がけてきた鈴木シェフが、もう一度改めて炭火の扱い方を学ぼうと、今回、その巨匠『あやむ屋』の永沼さんの元を訪れたのだった。

講義はいきなり核心から入った。しかも最重要ポイントが、二人のすぐ目の前に、はっきりと目に見える形で存在した。永沼さん曰く、「炭火の扱いは、炭床の中の炭の積み方が一番大切。炭同士の隙間が開きすぎないように、しっかり整然と並べること。こんな感じでね」と、指さした深さ約20cmの炭床には、紀州備長炭が、まるでレンガを組み上げるように整列。美しく積み上げられていた。

「ちゃんとこの形に炭が並ぶように、昼間に金槌で炭の形を整形しているよ」と言うほど、炭の整列にこだわるのは、何も永沼さんが超A型気質…だからではなく、炭床に供給される空気の量を均一にし、かつ最小限に抑えるため。炭と炭の間隔にばらつきが大きいと、炭の火の回り方がばらばらになって火力が安定しない。また、炭の間隔をとり過ぎないことによって、最小限の酸素で炭を燃焼させることが、この“整然たる炭積み”の狙いである。
「ま、いわば“空気の寸止め”。そのための炭積みやね。ぎりぎりの量の空気で燃やす、穏やかな熱質、でも圧倒的な熱量。これが肉をジューシーに焼くための秘訣なんだろうね。炭が真っ赤っかにいこってしまうと、ダメなのよ」と永沼さんは静かに、しかし深い確信とともに語った。

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火をつけてから、閉店まで火力は落ちない。最小限の酸素で燃焼させているので、通常より長持ちで、炭の節約にもなるという。


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永沼さんが使用するのは1箱12000円の備長炭。叩くとキーンと澄んだ音がする。

炭火の赤外線効果。威力のポイントは?

永沼さんの解説によると、炭火の火力は遠赤外線に加え、それより波長の短い中~近赤外線を多量に放射するらしい。赤外線の分類法には諸説あるが、中~近赤外線は熱が空気に遮られることなく、高温を保ったまま直接素材にあたり、また素材の内側にある水分や脂分まで加熱できるという点にある。この特徴が、炭が【特別な火力】たる由縁である。 また、よくカジュアルな焼肉店などで出る、中心にチクワのような穴が開いた炭は、おが屑を固めた成形炭で、温度も低いので、今回の炭談義の対象ではないことをお断りしておく。

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圧倒的な熱量を体感した鈴木シェフ「この熱さなら、夏は地獄ですね」。

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見事なミディアムレア状態だが、中は温かい。これぞ永沼流炭火遣いの極意。

脂が落ちても炎が上がらない不思議

約20分かけて炭を積み上げた焼き台で、手際よく鶏肉を焼き始めた永沼さん。それを間近で見た鈴木シェフは、まず「脂が落ちても炎が全く上がらないのは、ほとんど異常な世界。僕は炎を消すため霧吹きをよく使ってました。あれって水分が素材に飛ぶから、炭火を使う意味がないってのは分かってたんですけどね…」と驚く。

炎が上がらないのは、備長炭の圧倒的な火力と空気が入り込まないようにしているため。炎がつく前に、脂が蒸発してしまうのだという。「炎を上げて焼くと、変な焦げと香りが付いてしまうから、あれもよくないね」と永沼さん。 素早く焼き上がった胸肉をほおばる鈴木シェフは「これがほんとのミディアムレア! 見た目、中心部はタタキ状態の生でも、肉は熱々。肉汁の甘みも強烈で、生でもここまでズバッと火が入ってるのは、炭火を完璧に使いこなした時の威力ですね」とエキサイト。

次は、より素材の芯まで火を入れたせせり。「このジューシーさは異次元の世界ですね! 僕らがこれをやろうとすると、中心に火が入るころには表面は真っ黒焦げなんですけど……」と鈴木シェフ。
「それは紀州備長炭の力も大きいね。紀州備長炭は、ぎりぎりまで素材に焦げ目がつかないのが最大の魅力。同じ備長炭でも、ほかのはこうはいかない。紀州のは熱量が強力なんだけど、その熱質は穏やかだから、素材の中まで熱が入っても表面が焦げないんだと思うよ」と永沼さん。 「昔は羊や鳩まるごとの炭焼きにも挑戦してたのですが、いろいろ大変で半ば挫折してました。炭に火をつきやすくするために、200℃のオーブンの中で炭を保管したり、頑張ってはいたんですが。でももう1回、挑戦します」と鈴木シェフの表情は、さらに綻ぶ。
  炭火のパワーはやはり、名うての料理人さえかくも燃えさせるもの。鈴木シェフがこれから生み出すであろう、新たな炭火料理が今から待ち遠しい。

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「1日焼いていても、火が上がることは、ほとんどないよ」と断言する永沼さん。“整然たる炭積み”の威力という。

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脂が多いせせりを焼いても、落ちる脂はジュッと瞬時に蒸発。ちょっとの煙が立ち上るだけだ。驚愕。

(あまから手帖07年6月号より転載) 文/寺下光彦・撮影/東谷幸一

プロの料理人が自分のテクニックを別の料理に人に教えるとどうなるか?
過去(07年2月号~08年12月号)に本誌で連載され、好評を得た企画「プロ×プロ 1日料理塾」をホームページ用にアレンジしました。
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