プロ×プロ 料理を深める技

第12回「うどんの麺打ち」

教えるプロ/讃岐手打ちうどん『釜たけうどん』木田武史さん「意外と間違った認識が多いんです。」

大阪市中央区難波千日前4-20
tel.06-6645-1330

口の中でぐりんと弾ける、イキのいい極太手打ちうどんで人気を集める店の主人。讃岐への現地調査も、今なお精力的に敢行中。

教わるプロ/イタリア料理『オステリア ヴェント』山田重嗣さん「共通点が多いような少ないような…」

京都市下京区寺町通松原下ル植松町717
tel.075-352-5501

07年春のオープンながら、しっかり力強い自家製パスタで早くも評判のイタリアン・オーナーシェフ。日々、自家製麺への情熱満々。

柔らかめのうどんが讃岐の地元でも人気

似ているようで違う、違うようで似てる、のがうどんとパスタ。今回は手打ちうどんの奥義を、自家製パスタの若き名手が教わった。
しかし、手打ちうどんマニアにして日本コナモン協会うどん局のチーフである木田さんは開口一番「本当は逆の立場が良かったけどなぁ~。僕も、パスタの勉強をしたかったわ」と笑う。実は、以前うどん粉で作るパスタにトライ済み。しかし「うどんの中力粉では無理。水で締めるならOKだけど、茹で上げて使ったら、溶けてしまった」と失敗談を語る。
さらに「パスタのレシピ本には加水率とかが、全然具体的な数字で出てないし、アバウトだよね。うどんの場合は数値化するのが好きで、讃岐うどんは加水率45~50%、大阪うどんは35~40%というのが鉄則」と、話によどみがない。
加えてもう一つ、興味深い報告が木田さんから出た。「讃岐で地元の人が旨いといううどんは、そんなに硬くないんです。讃岐うどんが硬いのは、もともとは茹で上げてから時間が経っても大丈夫なように。でも、行列ができる店は回転率がよく、茹で麺の時間が経つのを気にする必要はない。だからそんなに硬くないんです。最近、大阪でもいきすぎた硬さのうどんの店は消えたでしょ。僕のうどんも、オープン当初より柔らかくしました」。山田さんが「それは知りませんでした!」と驚く。

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(左)足踏みを繰り返した後の生地は何層にも重なっている。
(右)練習に使う製麺機を山田さんも体験。

現在気に入ってるのはオーストラリア産の小麦粉

そんな背景を教わりつつ、早速、麺作りへ。まずは小麦粉と塩水を混ぜる工程。粉は木田さんが「うどん用に改良を重ね、今じゃ国産の小麦粉もかなわない!」と惚れるオーストラリア産80%に、国産20%をブレンド。国産は香りが良いが、これ以上増やすと食感が悪くなるそう。生地の温度を16℃度程度に保つため、塩水の温度も重要。高すぎるとだれた感じになるので、夏場は冷水でこねる。水と粉が均一に混じったら、生地玉を2時間休ませる。この間にグルテンが成長。生地の足踏みはその後だ。

木田さん曰く「讃岐うどんは、しっかり踏むのが旨さの秘密と思われていますが、それが実は間違い。踏み過ぎると密度が上がりすぎ、空気が抜けて食感が悪くなる。実は讃岐で評判のうどん屋さんでは、麺所で生地を踏むのは一番体重の軽いおばあちゃんだったりするんです。僕の場合も、踏むというより、馴染ませるぐらいの感じを大切にしてます」と、秘訣を明かしてくれた。さらにもう一つ、「手打ちパスタの某有名店で聞いたのですが"生地は引っ張ると口あたりが滑らかになる"のです。その店では、パスタマシンから出る生地を手で引っ張るようにしてました。実はうどんも同じで、踏むと硬く、引っ張ると滑らかになるんです」とのこと。山田さんも「店で試してみようかな」と興味津々だ。

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(左)足踏みは、踏み過ぎないことが重要。「足裏の感触で見極めています」と木田さん。
(右)複雑な手打ちうどんの工程の中で、一番難しいのは最初の“こね”。加水率と塩分濃度がピタッと決まり、ムラなく生地に水が回った写真のような状態が、最高のお手本。

パスタで応用できる?生地の長時間熟成

足踏みの後は"寝かし"の工程へ。木田さんの場合は約30時間が基本。朝5時に練り始めた生地を、翌日の昼前に打って出す計算だ。ちなみに山田さんが打つパスタの場合、「セモリナ粉主体なので、コシが出やすい」と約15分休ませるのみで熟成はなし。「粉の違いが麺の製法の違いなんですね~」と山田さん。「太いうどんほど上手く打つのは難しい。失敗した麺でも細麺にすれば気になりませんよ」と木田さん。最後に、完成したうどんを試食して、やはり一同驚く。取材スタッフからは"うどんなのに、エビの踊りを食べてるみたい!"との声も。山田さん曰く「極細麺でもしっかりコシ があるのが凄い。また普通の店の麺よりはるかに太い極太麺でも、滑らかでツルンとした舌ざわりと、歯を一瞬押し返すような弾力が、最高に気持ちいいですね。僕は細麺のほうも、商品化してほしいな~。あと、パスタでも生地の熟成は、再度研究してみたいです」と驚き、感嘆し、燃えてくれた。

後日、改めて山田さんと話をしたところ「パスタの熟成においても、温度や湿度はかなり重要ですね。僕の店の設備上、常温で試したらブレが激しく、困難でした。成功すると、確かにより強いコシは生まれるんですが…。パスタの製法とうどんの製法は思った以上に類似点よりも、相違点のほうが多かったです。でもまだまだこれから研究、改良の余地がありそうです」と、静かに燃えていた。

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(左)寝かせが足りないとグルテンが充分にできず、機械にかけた時に麺がバラバラになる。
(右)特別に作ってくれた細麺なら茹で時間は約7分だが、同店の太さの麺だと、23分(!)が標準。


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(左)冷水で締めると麺に一気にコシが生まれる。
(右)山田さんが一番驚いた、ぶっかけうどん。口の中で弾けるような、麺のイキイキ感。


(あまから手帖08年5月号より転載) 文/寺下光彦・撮影/平岡雅之


プロ×プロ 料理を深める技

第12回「うどんの麺打ち」

教えるプロ/讃岐手打ちうどん『釜たけうどん』木田武史さん「意外と間違った認識が多いんです。」

大阪市中央区難波千日前4-20
tel.06-6645-1330

口の中でぐりんと弾ける、イキのいい極太手打ちうどんで人気を集める店の主人。讃岐への現地調査も、今なお精力的に敢行中。

教わるプロ/イタリア料理『オステリア ヴェント』山田重嗣さん「共通点が多いような少ないような…」

京都市下京区寺町通松原下ル植松町717
tel.075-352-5501

07年春のオープンながら、しっかり力強い自家製パスタで早くも評判のイタリアン・オーナーシェフ。日々、自家製麺への情熱満々。

柔らかめのうどんが讃岐の地元でも人気

似ているようで違う、違うようで似てる、のがうどんとパスタ。今回は手打ちうどんの奥義を、自家製パスタの若き名手が教わった。
しかし、手打ちうどんマニアにして日本コナモン協会うどん局のチーフである木田さんは開口一番「本当は逆の立場が良かったけどなぁ~。僕も、パスタの勉強をしたかったわ」と笑う。実は、以前うどん粉で作るパスタにトライ済み。しかし「うどんの中力粉では無理。水で締めるならOKだけど、茹で上げて使ったら、溶けてしまった」と失敗談を語る。
さらに「パスタのレシピ本には加水率とかが、全然具体的な数字で出てないし、アバウトだよね。うどんの場合は数値化するのが好きで、讃岐うどんは加水率45~50%、大阪うどんは35~40%というのが鉄則」と、話によどみがない。
加えてもう一つ、興味深い報告が木田さんから出た。「讃岐で地元の人が旨いといううどんは、そんなに硬くないんです。讃岐うどんが硬いのは、もともとは茹で上げてから時間が経っても大丈夫なように。でも、行列ができる店は回転率がよく、茹で麺の時間が経つのを気にする必要はない。だからそんなに硬くないんです。最近、大阪でもいきすぎた硬さのうどんの店は消えたでしょ。僕のうどんも、オープン当初より柔らかくしました」。山田さんが「それは知りませんでした!」と驚く。

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(左)足踏みを繰り返した後の生地は何層にも重なっている。
(右)練習に使う製麺機を山田さんも体験。

現在気に入ってるのはオーストラリア産の小麦粉

そんな背景を教わりつつ、早速、麺作りへ。まずは小麦粉と塩水を混ぜる工程。粉は木田さんが「うどん用に改良を重ね、今じゃ国産の小麦粉もかなわない!」と惚れるオーストラリア産80%に、国産20%をブレンド。国産は香りが良いが、これ以上増やすと食感が悪くなるそう。生地の温度を16℃度程度に保つため、塩水の温度も重要。高すぎるとだれた感じになるので、夏場は冷水でこねる。水と粉が均一に混じったら、生地玉を2時間休ませる。この間にグルテンが成長。生地の足踏みはその後だ。

木田さん曰く「讃岐うどんは、しっかり踏むのが旨さの秘密と思われていますが、それが実は間違い。踏み過ぎると密度が上がりすぎ、空気が抜けて食感が悪くなる。実は讃岐で評判のうどん屋さんでは、麺所で生地を踏むのは一番体重の軽いおばあちゃんだったりするんです。僕の場合も、踏むというより、馴染ませるぐらいの感じを大切にしてます」と、秘訣を明かしてくれた。さらにもう一つ、「手打ちパスタの某有名店で聞いたのですが"生地は引っ張ると口あたりが滑らかになる"のです。その店では、パスタマシンから出る生地を手で引っ張るようにしてました。実はうどんも同じで、踏むと硬く、引っ張ると滑らかになるんです」とのこと。山田さんも「店で試してみようかな」と興味津々だ。

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(左)足踏みは、踏み過ぎないことが重要。「足裏の感触で見極めています」と木田さん。
(右)複雑な手打ちうどんの工程の中で、一番難しいのは最初の“こね”。加水率と塩分濃度がピタッと決まり、ムラなく生地に水が回った写真のような状態が、最高のお手本。

パスタで応用できる?生地の長時間熟成

足踏みの後は"寝かし"の工程へ。木田さんの場合は約30時間が基本。朝5時に練り始めた生地を、翌日の昼前に打って出す計算だ。ちなみに山田さんが打つパスタの場合、「セモリナ粉主体なので、コシが出やすい」と約15分休ませるのみで熟成はなし。「粉の違いが麺の製法の違いなんですね~」と山田さん。「太いうどんほど上手く打つのは難しい。失敗した麺でも細麺にすれば気になりませんよ」と木田さん。最後に、完成したうどんを試食して、やはり一同驚く。取材スタッフからは"うどんなのに、エビの踊りを食べてるみたい!"との声も。山田さん曰く「極細麺でもしっかりコシ があるのが凄い。また普通の店の麺よりはるかに太い極太麺でも、滑らかでツルンとした舌ざわりと、歯を一瞬押し返すような弾力が、最高に気持ちいいですね。僕は細麺のほうも、商品化してほしいな~。あと、パスタでも生地の熟成は、再度研究してみたいです」と驚き、感嘆し、燃えてくれた。

後日、改めて山田さんと話をしたところ「パスタの熟成においても、温度や湿度はかなり重要ですね。僕の店の設備上、常温で試したらブレが激しく、困難でした。成功すると、確かにより強いコシは生まれるんですが…。パスタの製法とうどんの製法は思った以上に類似点よりも、相違点のほうが多かったです。でもまだまだこれから研究、改良の余地がありそうです」と、静かに燃えていた。

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(左)寝かせが足りないとグルテンが充分にできず、機械にかけた時に麺がバラバラになる。
(右)特別に作ってくれた細麺なら茹で時間は約7分だが、同店の太さの麺だと、23分(!)が標準。


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(左)冷水で締めると麺に一気にコシが生まれる。
(右)山田さんが一番驚いた、ぶっかけうどん。口の中で弾けるような、麺のイキイキ感。


(あまから手帖08年5月号より転載) 文/寺下光彦・撮影/平岡雅之