プロ×プロ 料理を深める技

第14回「フランス料理の軽さの技術」

教えるプロ/フランス料理『神戸北野ホテル』総支配人・総料理長 山口浩さん「プロとして、油脂に頼らない美味しさを追求しています」

神戸市中央区山本通3-3-20
tel.078-271-3711

関西、東京に計17軒のレストラン、カフェを展開するなど精力的。07年秋に『フランス料理 軽さのテクニック』(柴田書店)を上梓。

教わるプロ/日本料理『植むら』植村良輔さん「和食のすり流しより、さらに応用範囲が広そうです」

神戸市中央区中山手通1-24-14 ペンシルビル4F
tel.078-221-0631

07年、神戸に開店し急速にファンを増やす、気骨溢れる本格懐石店の店主。

野菜のピュレで、カロリーを1/3に

ピュレとは素材をペースト状にしたもの。例えば、フランス料理の定番の付合せ、ジャガイモのピュレは、100gのジャガイモに、同量100g(!)のバターをた~っぷり混ぜるのが定石…。そんなフランス料理に”バターをほぼ使わない、水のソース”で衝撃をもたらしたのが三ツ星、『ラ・コート・ドール』の故ベルナール・ロワゾー氏。そして今回の講師、山口さんこそ、そのロワゾー氏の元で長年修業した、ロワゾー哲学の生え抜きの伝承者の一人だ。今回の聴講者、植村さんも「和食のすり流しもピュレの一種ですが、技の多彩さが全然違いますよね」と興味津々である。

今回、ご披露いただいた“軽さのテクニック”は3つ。まず1つめはフランス料理史に輝く金字塔、野菜のピュレである。今回はジャガイモのピュレを、舌平目のムニエルに合わせる。伝統的な焦がしバターソースの代わりに、ジャガイモのピュレをソースにすることにより、一皿のカロリーをなんと1/3に抑えることができるという画期的な発明だ。

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(左)トマトの帽子をかぶった貝類と小野菜のガトー仕立て・キャロットソース。
(右)ピュレのバリエーションは、シャンピ二オン、ウスイエンドウ、ネギ、アスパラガスなど多彩な素材で応用できる。

ジャガイモのピュレはフレンチの万能ソース

といっても、技術的にはむしろシンプル。ジャガイモを岩塩の上で約40分、コンベクションオーブンで加熱した後、裏ごしする。山口さんの場合、日本の男爵イモの舌ざわりをよりフランス品種に近づけるため、約1/4ほど海老芋のピュレをブレンドするという手間をかける。その後にピュレを牛乳、ごく少量のバター、レモン汁、オリーブ油、塩、コショウでのばして完成である。
植村さんは「このピュレでいただくと、舌平目のムニエル自体は軽くても、しっかり食べたという印象があるのがすごいですね。そして、掛け値なしに旨いです!」と興奮気味。山口さんは「このソースはマスタードやコショウなどで無限のバリエーションができる、いわばフレンチの万能ソースのひとつです」と余裕の表情だ。

2つめは、野菜のピュレの応用編。今回はドレッシングに、ニンジンのピュレを使うことで、伝統的なドレッシングよりぐっと油の量を減らしつつ、満足度を高めることができる。野菜のピュレは濃度を補うという利点に加え、野菜をたっぷり摂取できるメリットもある。ニンジンは一皿あたり約30gほどを蒸気で蒸し焼きにし、ミキサーにかけてピュレに。さらに、別にオレンジジュース約500ccをじっくり時間をかけて50ccまで煮詰め、味わいを凝縮させる。その後、オレンジジュース、レモンジュース、煮詰めた貝柱のジュ、オリーブ油とともにミキサーにかけて完成である。伝統的なドレッシングでは油:その他のジュの総量が3:1だが、この方法では逆の1:3で完成。「爽やかなのに、しっかり旨みがあります」と植村さん、再度興奮する。

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(左)海老芋のピュレを足すことで、味と食感に独自性を出している。
(右)ドーバー平目のムニエル、ポテトのドレッシングソース。

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(左)「しっかり煮出して、しっかり煮詰めるのがフランス料理の基本」と山口さん。貝柱のジュは約1/4までじっくり煮詰める。
(右)「オレンジジュースも、煮詰めるとこんなに味が複雑になるとは!」と驚く植村さん。

サクッとした食感で、軽さを演出する技も

最後は軽さの演出のパターンとしては全く別のもの。クロッカンと呼ばれる、薄いチップス状のものを穀物で作り、そのサクサクした食感で、軽さを出すというもの。このテクニックは山口さんが自ら開発し、現在フランスの『ルレ・ベルナール・ロワゾー』(元ラ・コート・ドール)にも逆輸出された、栄えある技である。  今回は、オマールエビ風味の米のクロッカンを、カニのミルフィーユと合わせる。まずはブルターニュ産オマールのガラを炒め、ジュをとる。このオマールのジュをしっかり煮詰め、コンベクションオーブンで1時間加熱した米とともにミキサーにかけピュレに。これを極薄くのばし、170℃のオーブンで約8分焼いて、パリッと完成である。「こんなに薄いチップスでも、力強いオマールの風味がありますね! これも、和食には全くない技術です」と植村さん、脱帽の様子。さらに「今日の技術は、例えばジャガイモのピュレだと和食の肉料理や醤油味にも合いそう。その他の野菜のピュレもゼラチンや寒天で固めたり、豆腐に活用するのも面白いはずです!」と和への応用もイメージが膨らんだ。

山口さんは「バターや脂で美味しいと思わせるのは、いわば人間が元々持っている古い本能に訴える料理。僕たちが目指すのは、プロとして油脂の旨みに頼らず、コクや美味しさを出すことなんです」と信念はゆるぎない。ちなみにフランスの慣用句で、アシェット オ ブール(バターの料理)といえば"もうけすぎ"の意味になる。山口さんの現在の快進撃の要因も、きっと最小限のバターにとどめることが原動力なのだろう。

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(左)パリッと焼き上がったクロッカン。そのサクサクした食感で、軽さを演出。
(右)厚さ1mm以下に焼くのもクロッカンのポイント。


(あまから手帖08年7月号より転載) 文/寺下光彦 撮影/東谷幸一

プロの料理人が自分のテクニックを別の料理に人に教えるとどうなるか?
過去(07年2月号~08年12月号)に本誌で連載され、好評を得た企画「プロ×プロ 1日料理塾」をホームページ用にアレンジしました。
ぜひとも続けてお読み下さい。

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