映画を腹から支える人の物語 「映画の朝ごはん」志子田監督 インタビュー

映画を腹から支える人の物語 「映画の朝ごはん」志子田監督 インタビュー

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2023.12.28

文:椿屋 撮影:福本旭

関西での公開を目前に控える「映画の朝ごはん」は、食と映画の交わりを描く“ひと味違った”ドキュメンタリー映画。企画・撮影・編集の全てを担ったのは神戸在住の志子田勇監督です。2020年の緊急事態宣言下、自宅でぼんやりニュースを見ながらふと、「自分同様、『ポパイ』も仕事が止まっているのでは……」と心を馳せたのが、作中登場する映画業界で絶大な支持を得ている東京都練馬区にある伝説のお弁当屋さんでした。『ポパイ』で働く人たちと映画をつくる人たちを追った、“味わい深い”映画を手掛けた監督の言葉をお届けします。

目次

制作現場に活力をもたらす食に注目 映画の神様が味方してくれた出会い 描き続けたい「他者」という現実 公開情報

制作現場に活力をもたらす食に注目

2個のおにぎりに、おかず(唐揚げかゆで卵)と沢庵。そのシンプル極まるお弁当が、ロケ撮影における朝ごはんの定番として熱狂的に愛されています。それは「ポパイを食べる=映画を作ること」と、志子田監督は語ります。

「一年前(2022年)の12月中旬、撮影初日を迎えました。到着した現場ではライブ感満載のお弁当づくりが繰り広げられていて、その光景を見ながら自然と『(この映画は)大丈夫だぞ』という気持ちが湧いてきたのを覚えています。
その日は世の中がワールドカップの日本対クロアチア戦に注目していたこともあって、道中は僕ひとりがぽつんとそこにいるような……人気のない街中を緊張しながら車を走らせていたときの、うっすら社会が動いている感じが映画を飛び越えたような不思議な感覚で、とても印象的でした」

そこから何度となく撮影に向かう中で「もういいでしょって社員さんたちに呆れられました(笑)。言われてからが勝負!とばかりに、何もしない時間を意識しながら関係性を築いていきました」

「映画の朝ごはん」志子田監督早朝のロケバスまで配達するため、『ポパイ』の“本当の営業時間”は深夜0時から始まります。従業員が時間と戦いながら目まぐるしく働く現場に、できるだけコンパクトなカメラを持って日参したそう。

映画の朝ごはんシーン

ポパイの皆さん『ポパイ』の皆さんと、志子田監督。©︎nishinaga tomonari

映画の神様が味方してくれた出会い

本作の主人公は、その食を提供する『ポパイ』ですが、そのポパイと対をなすように描かれる「制作部」(※)の若手・竹山俊太朗さんと彼を見守るベテラン・守田健二さんもまた、映画づくりの最前線を語る上で欠かせない存在です。

※制作部…弁当の手配から予算管理まで映画制作における現場進行を担う。「制作進行=生活進行」と言われるほど、映画づくりに欠かせない部署

「脚本家になりたいという夢を抱く竹山くんは、現状に迷っていたり、この先どうやっていこうかと悩んだり……。彼は、過去の自分でもあります。竹山くんと守田さんに偶然出会えたことで、改めて、映画の神様はいるんだなと実感しました」

本作に見る映画制作の裏方や食に携わる名もなき人たちによる日々の営みは、誰もがあずかり知らぬところで交互に支え合っているという当たり前のことに、気づかせてくれます。

また、スタッフのひとりが口にした「(食べている間は)人間に戻れる時間」というインパクトあるひと言は、食べるという行為がいかに映画づくりそのものを支えているか、観る者に訴えかけてきます。

映画の朝ごはんシーン

描き続けたい「他者」という現実

本作を撮り終えて、他者の重要性を痛感したと志子田監督は言います。「大切なのは、一対一で関係性を築いてこそ得られるやりとりから人間を描くこと。なるべくミニマムに、自分の手が届く範囲で、互いに理解し合える距離感が心地好いんです。隣近所の人を喜ばせるくらいのスケールが、自分には合ってるのかもしれません」と語ってくれました。

沖田修一監督、黒沢清監督、瀬々敬久監督など、作中、『ポパイ』への愛や映画制作現場の歴史を証言する錚々たる面々の出演は、これまでの仕事を通して紡がれたご縁あってこそ。
「僕の生きてきた蓄積。お世話になってきた人たちへの感謝しかありません」

作品を観た『ポパイ』のスタッフから思いがけない感想をもらい、「号泣しましたよ」と目尻を下げた志子田監督が体感した「人と人を繋ぎ直すドキュメンタリーの素晴らしさ」を、ぜひスクリーンで感受してください。

「映画の朝ごはん」志子田監督インタビュー230種類以上から選べるポパイのおにぎりの具。監督の究極の組み合わせは「鮭と筋子」。ちなみに、ナレーションを担当した「小泉今日子さんは、唐揚げと梅干だそうです」とこっそり教えてくれました。


志子田勇さん

映像ディレクター・映画監督。1981年生まれ、神戸出身。大阪芸術大学映像学科卒。『革命前夜』が、京都国際学生映画祭2006入選、PFF(ぴあフィルムフェスティバル)2007入選。2008年、映画制作会社マッチポイントに入社。独立後は、数多くの映画のメイキング作品を手掛ける。ミニマムなドキュメンタリー制作に特化した事業のための「MOM&DAVID」を設立。2024年、視覚や聴覚などに、障がいによって異なる身体や身体感覚を持つメンバーで構成されたダンスカンパニー「Mi-Mi-Bi」を描いたドキュメンタリー映画『旅する身体』が全国順次上映予定。


■映画名
映画の朝ごはん
■詳細
【関西の上映館】
大阪・十三『第七藝術劇場』1月2日~
神戸 ・元町『元町映画館』1月27日〜2月2日
京都・烏丸御池『京都 アップリンク』 2月2日~
【公式サイト】https://eiganoasagohan.com/
【公式X】https://twitter.com/eiganoasagohan

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