「クラブ・デュ・タスキドール」料理人11名によるチャリティービュフェ・レポート
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去る6月24日。「令和6年能登半島地震」の一日も早い復興を願い、「クラブ・デュ・タスキドール」主催のチャリティービュフェが開かれました。会場は、大阪中之島美術館1Fにある『ミュゼカラト』。腕を振るったのは「クラブ・デュ・タスキドール」に属する11名のフレンチシェフたち。「震災を風化させてはならない」というシェフたちの思いと、「美味しく食べて飲んで、被災地を応援したい」という150人近くのお客様の思いが繋がり、広がる一夜になりました。
「クラブ・デュ・タスキドール」とは
タスキは日本語、ドールはフランス語で「金」を意味する。名者会長のアラン・デュカス氏、会長の上柿元 勝氏、副会長の三國清三氏が中心になり2019年に発足。フランス料理の伝統と技術の継承や人材育成はもちろん、食の大切さを次世代に伝承すること。さらには日仏の農水産業の発展に貢献することを目的とし、活発に活動を行っている。つまり、フランス料理を通して日本とフランスを“金のタスキ”で繋ぐ会なのだ。
4月26日に開かれた「令和6年能登半島地震 チャリティービュッフェ」について、「クラブ・デュ・タスキドール」上柿元会長はこう話してくれた。
「震災直後は、被災地での炊き出しも考えたのですが。道路が寸断された地域などもあり、迷惑をおかけすることも危惧されました。そこで、私たち「クラブ・デュ・タスキドール」では、シェフたちができる範囲で、できることをと考え、被災地支援イベントを実施することに。今回のチャリティービュッフェでは、売上の25%を、能登半島地震の被災地へ寄付します。また、ご参加いただくお客様には食べて飲んで、笑顔になり、能登を応援していただきたい。美味しさが能登の活力に繋がるよう、タスキを繋げたいのです」。
「クラブ・デュ・タスキドール」会長 上柿元 勝氏(カミーユ代表)
左手前から、『プレスキル』佐々木 康二氏、『リーガロイヤルホテル』太田昌利氏、『アトリエ・ド・コンマ』小峰敏宏氏、『カミーユ』上柿元 勝氏、『リュミエールグループ』唐渡 泰氏、『ナベノイズム』渡辺 雄一郎氏。左奥から、『真白』小霜浩之氏、『シナエ』大東和彦氏、『ラ ビオグラフィ』滝本将博氏、『ル ポンドシェル』小楠修氏、『フォションホテル京都』林 啓一郎氏。(撮影/藤原琴弓)
ビュッフェの域を超えた、名シェフ渾身の逸品揃い
『ミュゼカラト』には、146人のお客様が来場。驚いたことに、イベント告知の2日後には定員に達し、キャンセル待ちの状況が続いたという。いかに、このチャリティービュフェが注目されていたのかが見て取れる。
何しろ、上柿元会長をはじめ、国内外で名を馳せるフレンチシェフ11人の豪華な饗宴なのだから!「オーナーやシェフだけではないんです。彼らは店を半休したり臨時休業するなどして、それぞれの店のサービススタッフたちも一緒に連れてきたのです」と、上柿元氏。
石川県産の食材を使う料理人もいれば、大阪や京都で生産されている知る人ぞ知る食材を用いる料理人の姿も。さすが、タスキドール会員のシェフたちだけあり、フランス料理の伝統に敬意を払いながら、個々の独創性を感じさせる、ハイクオリティの皿が続々。ビュッフェという域を超えた、完全にコースの中の一品一品といったメニューが揃った。
たとえば、唐渡氏による「石川県産牛ロース肉のロティ」は、石川県内で肥育された交雑牛のロース肉を使用。「サシが美しくて、質がいいんです」。コンベクションオープンで加熱し、休ませ、また加熱して…を幾度となく繰り返したロース肉の断面は、見惚れるくらい艶やか。添えるのは、フランス料理の伝統的なステーキソースであるベアルネーズソースの現代風。バターを使わない代わりに、グレープシードオイルを用い、玉ネギのピュレでコクをプラス。「野菜の大遊園地」と題した、それぞれ加熱方法の異なる季節野菜と共に。「野菜の美食」を提唱する唐渡氏ならではのクリエーションが光る。
11人のシェフたち渾身の料理を紹介
ブッフェとはいえ、そのスタイルは特異である。11人のシェフたちが、それぞれのブースで料理を盛り付け、お客様に手渡しする。その際、石川の食材について、あるいは調理法についての丁寧な説明も。非日常のひとときを楽しむレストランでの食事とはまた違う、温かみのある親近感を楽しめるのもこのイベントならでは。
被災地の復興を願い腕を振るう11人のシェフたち渾身の料理はこちら。
冷前菜。左/『真白』小霜氏「京都 舞コーンのプリンとフォアグラのかき氷」。右/『プレスキル』佐々木氏「パテドカンパーニュと鴨のフォアグラコンフィ デュカの香り」
冷前菜・スープ。左/『ラ ビオグラフィ』滝本氏「冷製青豆のクレーム ジャガイモヴルーテ ロイヤルキャビア」。右/『ナベノイズム』渡辺氏「プロヴァンス風ガスパチョ カフェフランセ風 フリーズドライフランボワーズとサフラネしたライスパフ、能登いしりでマリネした炙りアオリイカを浮かべて」。
魚料理。左/『シナエ』大東氏「サクラマスを詰めた花ズッキーニ」。右/『ル ポンドシェル』小楠氏「ヒラマサの薪火焼き スパイス香る人参のクーリー」
魚料理。『フォションホテル京都』林氏「能登スズキのアンクルート 柚子の香る海藻バターソース」。本格的なフランス料理の技術を駆使した料理が揃うのも、「クラブ・デュ・タスキドール」ならでは。右の写真は、カット前のもの。
肉料理。左/『カミーユ』上柿元氏「牛肉の赤ワイン煮込み ポンムピュレ添え」。右/『アトリエ・ド・コンマ』小峰氏「大阪産“兎龍月夜”と初夏の野菜レモン風味」
肉料理。左/『リーガロイヤルホテル(大阪)』太田氏「石川県阿岸の七面鳥とドライフルーツのバロティーヌ トリュフのビネグレット」。右/『リュミエールグループ』唐渡氏「石川県産牛ロース肉のロティ バターを使わない現代風ベアルネーズソース 野菜の大遊園地とご一緒に」
デザートは、帝塚山「ポアール」辻井良樹氏より。左の皿は、ガナッシュショコラやモンブランをはじめとする「ポアール」オリジナルデセール。右は、石川県の日本酒「観音下」の風味をしっかり効かせた、日本酒サヴァランや酒粕マカロンをはじめとする「日本酒のデセール」。
参加者に感想を聞いた。「ビュッフェスタイルで提供する料理のクオリティが、いい意味で明らかにおかしいですよ(笑)」とは、この日参加していた大阪在住の女性。「普段、なかなか行くことができないフレンチレストランの料理を、一堂に味わえるなんて夢のようです。美味しくいただいて、能登に少しでも貢献できるのも嬉しい」と、神戸から来ていたご夫婦は二人して笑顔をみせた。
大切なのは“継続”させること。
最後に上柿元氏は、被災地の復興を願う「クラブ・デュ・タスキドール」の使命についてこう話してくれた。「一発の打ち上げ花火ではだめなんです。大切なのは“継続”させること。そして互いに助け合うことです」。
タスキドールと石川県の生産者の方々とは、震災前から繋がっていたそう。そんな背景もあり、震災後のアクションは素早いものがあった。
例えば、今年4月には、リーガロイヤルホテル(大阪)で能登半島震災支援チャリティーディナー「石川県の美食を味わう、一夜限りの晩餐会」を開催。「クラブ・デュ・タスキドール」の7人のシェフと、「九谷焼 四代 德田八十吉」の見目麗しい料理と器のコラボレーションが実現。
そして今回のチャリティービュッフェの開催に至った。さらに、6/29には『大阪ガスクッキングスクール』100周年を記念し、上柿元氏が講師として登場。石川 ・能登産食材をふんだんに使用した100人限定の料理教室が開かれた。曰く「能登島にある『NOTO高農園』の高夫婦が育てる有機野菜は本当に美味しくって。高農園の季節綾菜をふんだんに用いた“元気スープ”を参加者の皆様と一緒に作りましたよ」。
7月8日には、「能登・石川復興応援チャリティーディナー」と題し、「クラブ・デュ・タスキドール」メンバーの6人のシェフたちによる美食の饗宴を、東京「京王プラザホテル」で実施。以降も、日本各地で、能登や石川の食材を用いた講習会やイベントを開く予定だという。
「震災から半年が経てば、被災地へ向ける世の中の関心がぐんと減ってしまう。そんな今だからこそ、私たちタスキドールの踏ん張りどころです。タスキとは“心の絆”。ですから、タスキを途絶えさせたらダメ。これからも、「クラブ・デュ・タスキドール」メンバーのシェフたちが一丸となり、できることをできる範囲で進めていきたいです」と、上柿元氏は満遍の笑みを浮かべた。
Writer ライター
船井 香緒里
Kaori Funai