静岡『FUJI』で唸った、料理人と魚屋の関係。

静岡『FUJI』で唸った、料理人と魚屋の関係。

門上武司の「今月の一軒!」

2024.06.21

文・撮影:門上武司

国内外の料理人から支持される静岡・焼津の老舗鮮魚店『サスエ前田魚店』。ここから魚を仕入れ、静岡の海と山の幸をもてなす和食『FUJI』を訪ねました。

目次

料理業界で熱い静岡 静岡の海の幸を、コースで存分に 魚屋の仕事に驚愕 火入れは秒単位の勝負 店舗情報

料理業界で熱い静岡

ご存知の方も多いだろうが、いま、料理業界では静岡が熱い。 その中心にいるのが、焼津の『サスエ前田魚店』の五代目・前田尚毅さんである。毎朝前田さんの店に、『天ぷら成生』の店主・志村剛生(たけお)さんなど、勢いのある店の店主6名が集まり、前田さんが仕立てた魚を手に入れるために真剣勝負(ジャンケン)をするのだ。一度その現場に立ち会ったが、そこに笑顔や私語はなく、皆さんの気合いが伝わってくる。前田さんの手元に魚が届いたところから、彼らの調理は始まっているのだ。

和食『FUJI』の店主・藤岡雅貴さんも、ここに集まる料理人のひとりである。店に伺ったのは4月。3月には前田さんと一緒に伺った。その時は夜、今回は昼であった。昼と夜で驚くべきことが起こったので、それについては後述しよう。

昼は12時スタート。少し早めに店に到着した。おそらく15分ぐらい前であった。主人の藤岡さんも焼津から帰ってきたばかり。ギリギリまで魚と格闘していたのが推察できる。

静岡の海の幸を、コースで存分に

厨房の中に炭床がある。その上に数段の台、これは温度調整のためだと想像する。そんな思いを抱きながら料理が始まる。

まずは筍とメヒカリから。筍の微かな苦さとメヒカリのコクが融合する。

『FUJI』筍とメヒカリ筍とメヒカリ。料理はすべて昼のおまかせコース19800円から。

『FUJI』伊勢海老伊勢海老の醍醐味を味わう。

「気合いのジャンケンで仕入れた伊勢海老です」との説明がある。割り醤油にくぐらせた海老の豊潤な甘みと深い味わいに感銘を受ける。芹と味噌ソースで一気に味が膨れるのだ。

『FUJI』料理(左上から時計回りに)タイの白子の飯蒸しにはフキノトウのフライ。/春の賜物、豆アジの素揚げ。小さいサイズながらもハラワタのほろ苦さも十分感じ、鮮度の良さを実感する。/椀物はハナダイ。利尻昆布と真昆布のミックスから生まれるだしは上品であり、ハナダイの味が溶け込み旨さを増してくる。/アオリイカは包丁仕事も冴え渡り、甘みの極致を感じさせてくれる。

魚屋の仕事に驚愕

『FUJI』タイの刺身タイのねっとりとした食感に驚く。

そして圧巻のタイに出合った。「これは3、4時間前まで生きていたのです」との言葉と共に供されたタイの刺身。口に入れ、驚愕。熟成感はしっかりあるのにフレッシュ感もあるのだ。

前回夜に訪れた時も朝締めなのに熟成感を味わい驚いたのだ。だが、昼でそれを超えるような熟成感には脱帽であった。「前田さんが締め方と冷やし方を変えたようです」とのこと。

火入れは秒単位の勝負

『FUJI』アマダイの松笠焼きアマダイの松笠焼き。

火入れはアマダイで最大限に発揮された。綺麗に串打ちされたアマダイを、高さや向きを微妙に変えながら炭で火入れをする。まさに秒単位の仕事ぶりを目の当たりにした。
アマダイの松笠焼きはそのアラで取っただしとで深みを感じる。いかに火入れの技術が大切で、それ如何によって味わいは大きく変化することを実感した。

前田さんとの二人三脚という仕事振りをしっかり感じることができた。これは静岡という地に足を踏み入れないと経験できない味覚である。

『FUJI』外観

■店名
『FUJI』
■詳細
【住所】静岡県静岡市葵区栄町3-6
【電話番号】054-260-5166
【公式サイト】https://nihonryourifuji.com/
【Instagram】https://www.instagram.com/fuji.shizuoka/

Writer ライター

門上 武司

門上 武司

Takeshi Kadokami

あまから手帖・編集顧問。年間外食350日という生活を20年以上続け、食事と食事の合間にもおやつをボリボリ…。ゆえに食の知識の深さは言わずもがな。食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者を繋ぎ、発信すべく、日々奔走している。

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