フグ専門店、大阪・難波の『法善寺 浅草』でスッポンを食す

フグ専門店、大阪・難波の『法善寺 浅草』でスッポンを食す

団田芳子の「わたホレ新章」

2023.09.19

文・撮影:団田芳子

大阪・難波にある『法善寺横丁 浅草』は、フグ専門店として名高いが、実はスッポン料理も人気。2人前でスッポン1匹半分をふんだんに使ったコースは、夏バテ解消にも最高です。今回は、フグ屋のスッポンをご紹介しましょう。

目次

創業80有余年のちょっとリニューアル コラーゲンの塊・スッポンコース 店舗情報

創業80有余年のちょっとリニューアル

拙著『わたホレ』に、私がどれほどフグを愛しているかは、さんざん書いた。大阪の冬の風物詩で、全国のフグ消費の6割を大阪人が担っていると言われる。専門店・名店は数多く、大阪人ならご贔屓の店を1つ2つ持っているはずだ。私の推しは、その名の通りミナミは法善寺横丁(正確には参道)にある『法善寺 浅草』。
昭和12年、新世界に料亭として創業し、10年後、法善寺前に移転した。そして76年を経た2023年、4月から3ヶ月も休業してリニューアル。先日、新しくなった店を訪れた。

入り口は2カ所ある。私はいつも水掛不動さんにお参りし、くるりと振り返った正面から入る。塗り直された壁は、変わらず周囲に馴染むクリーム色。木製の格子戸の周囲にあったタイルがなくなってスッキリしたようだ。

『法善寺 浅草』外観ミナミのど真ん中に、奇跡のようにあるしっとりと落ち着いた法善寺界隈。水掛不動さんの正面に『法善寺 浅草』が。

ガラガラと扉を開けて入ると、当主の辻宏弥さんがにこやかに迎えてくれる。元銀行員らしい謹直なお人柄で、この人が居る限り100周年まで安泰と、私は絶対の信頼を置いている。

『法善寺 浅草』店主・4代目の辻宏弥さん4代目・辻宏弥さん。『神戸たん熊』で修業して実家に戻り、2015年より料理長。持続可能な食を目指す『RelationFish株式会社』を料理人仲間と立ち上げた取締役でもある。

それにしても、1階は明るくなったけど、2階への階段はそんなに変わってなさそうな。
「はい。エレベータとか結局付けられなくて。古い建物なので、水道管とかガス管、電気周りなど見えないところに手を入れないといけなくて」と辻さん。
「でも2階はちょっと変わったんです」と見せてもらうと、靴を脱がずにそのまま4人用6人用の個室に入れるようになっている。窓から水掛不動さんに手向けられた線香の香りが届き来るのは変わらない。

『法善寺 浅草』個室2階の個室は靴のまま入れるようにリニューアル。

コラーゲンの塊・スッポンコース

フグ専門店として名高いが、実は2枚看板にスッポン料理がある。ことに夏場にクーラーの効いた部屋でスッポン鍋をいただけば夏バテなど吹っ飛ぶ。
昭和30年代に、夏場に自慢のポン酢に合う料理は何かないかとスッポンを出すようになったとか。昔は「滋養強壮に」と男性に喜ばれたのが、この頃は、「コラーゲンが美容にいい」と女性客に人気らしい。

スッポンコースも、フグ同様、きれいな和の先付けから。大阪料理会に入会して研鑽を積んで、辻さんはどんどん腕を上げている。

『法善寺 浅草』先付夏の先付け。いちじくのごまソース掛け、ハモ棒寿司、ハモの子卵とじ、鴨ロース、プチトマト蜜煮など、彩りも良く。

続いて、お約束のスッポン生き血。ここのは、日本酒で割ってクセもなく飲みやすい。お造りは、マグロ、スズキの洗い、ハモの焼き霜と夏らしく。
そして、スッポンまんじゅう。スッポンを炊いたスープに身を加え、葛で練って茶巾に絞って揚げ出し豆腐風に仕上げてある。他の店が真似てみてもなかなかこのプニプニした食感は出ないらしい。それは圧倒的なスッポンの量に由来する。
そもそもコースでは2人に1匹半分が供されるのだ。
鍋の前に、スッポンの足の竜田揚げと、エンペラ入りのライスコロッケも出る。フグの唐揚げとはまた異なる美味しさだ。

『法善寺 浅草』スッポンまんじゅうスッポンまんじゅう。当代考案の新しい名物。

そしてメインの鍋。まず重い錫の鍋にコラーゲンの塊がたんまり入って登場。5匹から10匹のスッポンを血合いやアクをとり、昆布だしにお酒と水を同量加えて1時間半ほど炊いて取ったもの。火に掛けるとすうっと溶けて、とろりとしただしになる。
この日のスッポンは長崎・島原産。1~1.2㎏サイズを使用。「天然より食べやすいとご好評いただいてます」と辻さん。コラーゲンのみならず、不足しがちな鉄分や亜鉛も豊富な健康食品。

『法善寺 浅草』スッポン鍋錫の鍋にコラーゲンの塊が浮いている。

『法善寺 浅草』スッポン鍋セットお鍋セット。スッポンはたんまり。

スタッフさんが丁寧に肝や身、野菜を入れて、ひとりずつ小皿に取り分けてくださる。
とろとろ、クニクニの身がスープをまとってたまらなく旨い。たまには自慢の柚香(ゆこう)を手搾りした自家製ポン酢で味変。
食べたことのない方をお連れしても、この店のスッポンは、きれいな味わいで、「あら、案外クセもないし、鶏肉と魚の間みたいな感じで美味しい」と喜ばれる。
最後はもちろん雑炊で、コラーゲンたっぷりのスープを余すところなくいただく。翌日のお肌は手に吸い付くよう。まぁ、1日限りではあるけど。また食べに行こう!

『法善寺 浅草』てっさ寒くなったら、やっぱりフグ!花のように美しいてっさ1人前。最後の晩餐には、ここのてっさを食べたい。

■店名
『法善寺 浅草』
■詳細
【住所】大阪府大阪市中央区難波1丁目1−12
【電話番号】06-6211-1649
【サイト】https://houzenjiasakusa.gorp.jp/

Writer ライター

団田 芳子

団田 芳子

Yoshiko Danda

食・酒・大阪を愛するフリーライター。旅行ペンクラブ会員。小宿の会塾長。料理人には怖れと親しみを込め“姐(ねえ)さん”と呼ばれる。講演、TV・ラジオ出演も。著書に『私がホレた旨し店 大阪』(西日本出版社)、 『ポケット版大阪名物』(新潮文庫・共著)ほか。

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