釣り魚と尾崎牛のイタリアン。大阪・北新地『ラ ローザネーラ』

釣り魚と尾崎牛のイタリアン。大阪・北新地『ラ ローザネーラ』

団田芳子の「わたホレ新章」

2023.09.13

文・撮影:団田芳子(一部画像:太田恭史)

大阪の靱公園横から御堂筋側本町へ、そして北新地へ。移転や業態転換など折に触れ、「あまから手帖」本誌で描いてきた『ラ ローザネーラ』(イタリア語で黒い薔薇の意味)。拙著『わたホレ』時代ともまるで異なる“今”の「黒い薔薇」をご紹介します。

目次

自ら釣って料理するシェフ “今”の「黒い薔薇」 店舗情報

自ら釣って料理するシェフ

あれは数年前の秋。淡路島は由良の浜で、私は夜明けを見ていた。明け始めていくオレンジの陽に照らされる海がきれいだ…けど――寒い! 完全な夜型でインドア派の私が、早朝に海で眠い目をこすって待っているのは、『ラ ローザネーラ』オーナーシェフ・有藤寛海さん。
靱本町の創業から15年目となる2020年11月。北新地へと移転したこの店では、有藤シェフがほれ込んで長年使い続けてきた「尾崎牛」とともに、自ら釣り上げた魚をメインにしている。この日は、そんなシェフの海の仕入れに密着取材することになっていた。

シェフは、北新地で営業後、片付けて帰宅、23時に就寝し、翌4時起床。大阪の自宅から2時間弱でこの浜に到着するという。とてつもないハードスケジュールだが、午前6時、シェフは爽やかに登場。洒落た釣り人スタイルがすっかり板についている。お供には、息子の快(かい)君(当時小学5年生)が、パパと一緒に早起きして参戦。親子は慣れた足取りで小さな漁船に乗り込む。そのあとを、おっかなびっくり我々「あまから手帖」取材班も乗船。さぁ海釣りへ出航だ。

この日の狙いは鯛。口火を切ったのは快くんだ。負けじとシェフもどんどん釣る。私はといえば、ポイントを狙って小刻みに方向転換を繰り返す揺れに参って船酔いしてヘロヘロ。親子のタフさに舌を巻くばかりだった。

『ラ ローザネーラ』シェフ・有藤寛海さん有藤シェフ。「鯛獲ったどー」(画像:太田恭史)

有藤シェフは、島根県生まれの北九州育ちで、釣り好きの父に連れられ小学低学年の頃から海釣りを始め、高学年の頃はブラックバス釣りにハマッたという筋金入り。五島列島でクエを釣り上げたこともあるという太公望だ。
釣り好きシェフは結構多いが、本気で週に2度も仕入れのために海に通うシェフはそうはいない。そもそも自分で釣ってきた魚ならタダかといえば、とんでもないのだ。淡路島由良へ、和歌山や福井の海までのガソリン代に高速代、釣船の乗船料は毎回必要だし、釣り具、クーラーボックス、帽子や手袋、ウェア、長靴なども減価償却すべきものだ。
「実は購入するのとコスト的にはトントンか、もしかしたらむしろ高くつくかも。その上に労力も要るし、体力も。タフでないとできないし、何より好きじゃないとできませんね」と有藤シェフ。
それでも、自ら釣ることにこだわるのは、もちろん、買った魚より美味しいから。

『ラ ローザネーラ』カルパッチョ取材後、釣った鯛を4日熟成させカルパッチョに仕立ててもらった。まったり甘くて美味でした。(画像:太田恭史)

“今”の「黒い薔薇」

『ラ ローザネーラ』個室クラシカルな豪華客船の船室風店内。カウンターと2つの個室で全14席のこぢんまりとした隠れ家だ。(画像:太田恭史)

先日訪れた際には、「福井県小浜へ行ってきました」と、レンコダイをコトレッタ(カツレツ)で。カリッとした衣の中にはほっこりプリンとした白身が。
さらにガスパチョには、「この頃なかなか水揚げのない明石蛸が釣れました」と、タコをトッピング。ブリブリの身の濃い味わいが、濃厚なフルーツトマトのスープの中で、存在をしっかり主張。

『ラ ローザネーラ』ガスパチョ「明石蛸とフルーツトマトのガスパチョ風」。トマトの甘みがイキイキ。とっても濃厚なのに爽やかな絶品ガスパチョ。

京都は冠島で釣った白イカは、ローストに。またそのイカスミのリゾットも登場。「白イカの墨袋はすごく小さいんですが、僕はたくさん釣ったので」と、ちょっと自慢気なシェフ。鮮度の良いイカスミは香り高く旨みもきれいだ。

『ラ ローザネーラ』白イカの料理京都府冠島で釣った白イカのロースト、カボチャのソース。器は信楽焼の陶芸家・小川記一氏のモダンな作品。

そして魚介の合間には、宮崎県で尾崎宗春さんが大切に育てた稀少な「尾崎牛」の料理も供される。
前菜の1つは、「尾崎牛」の自家製ハム。塩加減程良くて、ワインが進む。メインには「尾崎牛」のヒウチとハンバーグの炭火焼。

『ラ ローザネーラ』前菜「尾崎牛」の自家製ハムのサラダ仕立て。しっとりジューシーな肉厚ハムだ。

『ラ ローザネーラ』肉料理「尾崎牛」のヒウチとハンバーグの炭火焼き。肉の旨みが溢れる。

そして、コースの締めに出てくるパスタは温冷2種。夏の名物・カルボナーラは、この日はイタリア産サマートリュフをたっぷり散らして。お代わりしたくなるほど旨い!

『ラ ローザネーラ』パスタ料理イタリア産サマートリュフの冷たいカルボナーラ。上にはゴボウのチップ。

デザートまで、ひとりでこなすシェフだが、思うままに腕を振るって「ストレスフリーの毎日です」とご機嫌だ。

「この頃、ルアーでマグロも釣ってますよ。より釣りにのめり込んでますね」と笑う有藤シェフ。己の釣り上げた魚を、船上で活け締めにし、捌いて熟成させる。状態を誰よりよく知るシェフの料理に間違いはない。

『ラ ローザネーラ』店主・有藤さんあっぱれ、太公望シェフ・有藤さん。

■店名
『ラ ローザネーラ』
■詳細
【住所】大阪市北区堂島1-3-24 エスパス北新地20 4階
【電話番号】06-6342-9192
【Instagram】https://www.instagram.com/la_rosanera_osaka/

掲載号
『あまから手帖』2021年2月号/魚、ひと仕事。

Writer ライター

団田 芳子

団田 芳子

Yoshiko Danda

食・酒・大阪を愛するフリーライター。旅行ペンクラブ会員。小宿の会塾長。料理人には怖れと親しみを込め“姐(ねえ)さん”と呼ばれる。講演、TV・ラジオ出演も。著書に『私がホレた旨し店 大阪』(西日本出版社)、 『ポケット版大阪名物』(新潮文庫・共著)ほか。

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