畑作りから始まる、大分・湯布院のオーベルジュ『ENOWA YUFUIN』。 

畑作りから始まる、大分・湯布院のオーベルジュ『ENOWA YUFUIN』。 

門上武司の「今月の一軒!」

2024.06.28

文・撮影:門上武司

2023年に大分・湯布院にオープンしたオーベルジュ『ENOWA YUFUIN』。併設するレストラン『JIMGU』で料理長を務めるのは、あの『Blue Hill At Stone Barns』元副料理長のタシ・ジャムツォさんです。畑作りから始まるオーベルジュを体験してきました。

目次

『Blue Hill At Stone Barns』元副料理長、湯布院へ 前菜は温室で 自然を感じる料理の数々 店舗情報

『Blue Hill At Stone Barns』元副料理長、湯布院へ

「ファーム トゥ テーブル(Farm to Table)を標榜するレストランがニューヨークに登場したのが約10年ほど前のこと。『Blue Hill At Stone Barns』がその先駆者的役割を果たしていた。文字通り「農場から食卓」という、2010年代にアメリカで広まった食のコンセプトである。ニューヨークという大都会でこのコンセプトが成立するのかと思っていたが、オーナーのダン・バーバー氏は農場を作りそれを実現させた。

そのレストランで副料理長を務めたタシ・ジャムツォさんが料理長を務めるオーベルジュが、大分・湯布院に2023年夏に誕生した。
タシさんは数年前から大分で生活し、京都のカリスマ農家と呼ばれる『石割農園』の石割照久さんと共に畑作りから始めたのである。

そのオーベルジュの名は『ENOWA YUFUIN』。
湯布院を牽引してきた『玉の湯』『亀の井別荘』の方々とも、構想段階から綿密な交流を重ね湯布院にふさわしい宿作りを心がけてきた。やや高台にあり、由布岳と湯布院の街が一望できるロケーションも素晴らしい。

『ENOWA YUFUIN』客室部屋から外の風景を眺めているだけで気持ちが緩む。

前菜は温室で

ディナーが始まる20分ほど前にロビーに向かうと、レストランではなく「IN DOOR GARDEN」というエリアに案内された。そこには野菜や植物が植っており、なんと温室で前菜をいただくところから料理が始まる演出になっていたのだ。

『JIMGU』Dip Tarte

ラディッシュ、カブ、チンゲンサイ、レタスなどの野菜は柔らかなドレッシングで和えられ胃袋を軽く刺激する。続く、ニンジンのタルト、サツマイモのドーナツ、ビーツとサーモン。というようにシェフ・タシの世界にナチュラルな形で入っていく。
気持ちが整ったところでレストラン『JIMGU』へ。ここでも中央に木が植っていて、緑を意識しながら食事がスタートする。

レストラン『JIMGU』内観

自然を感じる料理の数々

いよいよである。
まずはグリーン、ホワイト、紫と3種のアスパラガスにヒオウギ貝の貝柱、アオリイカ。アスパラガスは噛むことで味わいの変化と魚介とのマリアージュが楽しめる。

『JIMGU』料理

続いてビーツにアオリイカ、キャビアに野菜。野菜と魚介の出合いに興奮を覚える。そしてアマダイにクレソン、デコポン、ニンジンのピュレ、サワークリームでは、かすかな甘みも魚介の味わいを引き立てるのだと実感する。

『IMGU』料理左/再び3種焼きアスパラガス。温泉卵とハーブの泡、椎茸のクリームを合わせる。大分という土地の恵を感じるのであった。右/サワラには空豆の青々しさが見事に寄り添っていた。ケール、ワラビ、ニンニクの芽、エシャロット、菜の花、葱坊主にビーツとヨーグルトのソース。ここで口中と胃袋をフラットにする。

『JIMGU』メイン

メインは『ふくどめ小牧場』の「サドルバック」という貴重な豚のロースとモモ。これはすっきりした脂と香りが特徴である。サツマイモ、エシャロットなど野菜と一緒に味わうことで、その個性がより明確になっている。

『JIMGU』デザート

デザートまで含め「ファーム トゥ テーブル(Farm to Table)」のコンセプトが貫かれ、このオーベルジュならびにシェフがどういった思いで料理を作っているかしっかり伝わってきた。
スタートして一年、これから現地の生産者やさまざまな人たちとの交流で次なるステージが生まれるはずだ。当分、このオーベルジュは見逃せない。

■店名
『JIMGU(ENOWA YUFUIN内)』
■詳細
【住所】大分県由布市湯布院町川上 丸尾544
【電話番号】0977-28-8310
【公式サイト】https://enowa-yufuin.jp/
【Instagram】https://www.instagram.com/enowa.yufuin/

Writer ライター

門上 武司

門上 武司

Takeshi Kadokami

あまから手帖・編集顧問。年間外食350日という生活を20年以上続け、食事と食事の合間にもおやつをボリボリ…。ゆえに食の知識の深さは言わずもがな。食に携わる生産者・流通・料理人・サービス・消費者を繋ぎ、発信すべく、日々奔走している。

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