元DJでシニアソムリエの店主が選ぶ音楽とワイン。居心地を追求する『(食)ましか』の今。

元DJでシニアソムリエの店主が選ぶ音楽とワイン。居心地を追求する『(食)ましか』の今。

カオリンの「シェフのBGM」

2023.11.09

文・撮影:船井香緒里

大阪・肥後橋にある『(食)ましか』。タバコ屋の店奥にあった極狭カウンター空間が、完全改装を遂げたのは2022年7月のこと。音響やBGMには、テクノやハウスのDJでもある店主・今尾真佐一さんらしい、遊び心を感じる仕掛けがありました。もちろん、料理の新たな試みにも注目です!

目次

全面改装を経て“居心地のよい”空間へ 7つのスピーカーを駆使した音づくり 自然派ワインを軸に、酒場とレストランが融合 店舗情報

全面改装を経て“居心地のよい”空間へ

『(食)ましか』店内店奥のカウンターでは、キッチンを間近に臨むことができる。中央にもカウンターがあり、こちらはバースペースになっている。窓際のテラス席のほか立ち飲みスペースもあり。

店主・今尾さんが、実家であるタバコ屋の奥に『(食)ましか』を開いたのは2011年のこと。極狭カウンターで楽しむ“居酒屋風イタリアン”がテーマの料理と、自然派ワインの妙味。ここでしか体感できない独創的なスタイルが評判を呼んだ。

その後、ワインショップを併設し、店舗2Fにはセントラルキッチンを構えるなど「食のプラットフォーム」を目指した店づくりが話題に。昨年7月、今尾さんは「開店10年目を機に新しいステップアップを」と、全面改装に踏み切った。

かつて40あった席数を31席に減らし、ゆったりとした空間に変貌を遂げた。天井を走るアーチ型の間接照明や艶消しの壁がシックな雰囲気を醸す。「ゆっくり飲んで、食べていただきたいから、居心地を追求しました」と今尾さんは微笑む。

7つのスピーカーを駆使した音づくり

週末、早い時間に訪れると店内は満員御礼! 若い世代から年配の夫婦まで、幅広い層のお客さんで賑わいを見せている。

まずは、セルフ方式の自然派ワインの中から、フランス・ロワール地方の名醸造家 ピエール・オリヴィエ・ボノーム「ヴァンクゥール・ヴァンキュ・ブラン」をチョイス。透明感を感じながらも、口の中に広がるふくよかな味わいが印象的だ。

「(食)ましか」グラスワインはセルフサービスグラスワインはセルフサービス。自然派ワイン7種をはじめ、ワイン好きのための日本酒1種を揃える日もあり。

黒板メニューを物色しながら、ふとBGMに耳を傾けると……「YMO」のライディーンが、透き通ったサウンド流れている。ついメロディを口ずさみたくなるじゃない。天井を見上げると、「ECLIPSE(イクリプス)」のスピーカーがあちこちに。え?何台あるんですか今尾さん?

「全部で7台、設置しているんです。機材のセレクトは、音響の仕事に携わる、友人のばんちゃんに相談しました」
そこには、シニアソムリエでいてDJという肩書ももつ今尾さんらしい、居心地の良い“音質”への追求が窺える。

「(食)ましか」スピーカー

「学生の頃、電気グルーヴにどハマりして。その後はエレクトロニック・ミュージックの聖地・デトロイトのサウンドを聴き始め、ハウス・ミュージックにのめり込んだタイプ」とのこと。店で流すBGMもジャズ寄りのハウスや、「YMOなど耳障りのいいテクノ」が中心だ。
LPレコードなどアナログ盤が中心だった古い音楽とは対極のサウンド。だからこそ今尾さんは考えた。「デジタルの音源を最大限に活かしたい」と。

7台のスピーカーを鳴らすことにより、1台のスピーカーが担う音量が下がり、空間全体を通して聴こえ方が均一になる利点があるという。音響担当のばんちゃんによると「スピーカーから離れれば、音量が“減衰”します。そのバランスと音が交わるポイントをある程度、計算して設置。7つのスピーカーを鳴らすため、アンプはホームシアター等で使われているAVアンプです」とのこと。
「店内をぐるりと回ると、どの席からもバランスよく音楽が聴こえてくるんです」と今尾さんは嬉しそうだ。

しかし、スピーカーを多く配置すると一つあたりのスピーカーに対するエネルギー量が減るため、低域が不足する。さらに電子的なサウンドは低音域が弱い傾向があるとか。そこで、サブウーファーを繋いで、低音を程よく増強。「ばんちゃんのおかげで音に厚みが出ました」と今尾さんはやはり嬉しそうだ。

お客さんの入りが少なめの早い時間には、世界的DJジャイルス・ピーターソンによるブラジル音楽の軽やかなサウンドを。店が活気づき始めたところで「YMO」のテクノポリスやライディーンなど、テンポの早い馴染みのある曲へと続く。
お客さんが多いピークタイムには、シンセサウンドが特徴のスペース・ディスコなどノリのいい曲を流すけれど、「誰もが知っている曲ばかりじゃ面白くないけれど、置いてけぼりもちょっと…」と、「TM NETWORK」の名曲が流れ始めることも。

その日の客層や店内の雰囲気に合った曲を流しながら、「音量が大きすぎると、お客さんは大きな声で話さなければならない。それって疲れるから、微妙に音量を下げたりして調整しますね」。
抑揚の効いた選曲と、居心地の良い音量のバランスが絶妙なのだ。だから客は、疲れ知らず。リラックスして、ワインと料理の数々と向き合うことができる。

自然派ワインを軸に、酒場とレストランが融合

「(食)ましか」おまかせ盛り冷前菜と温菜を盛り合わせた新メニュー、おまかせ盛り(1600円) 。

今年11月には、新たな料理メニューも登場予定だ。昨年7月、今尾さんの先輩である『羽山料理店』や『土佐堀オリーブ』で活躍された羽山智基さんを料理長に迎え、新たに挑んでいる味づくりとは――。

「今までは、黒板メニューのアラカルトのみでした。今後は単品だけでなく、おまかせ盛り(1600円)やコース料理(3800円〜)、そしてペアリングにも力を入れます。カジュアルな酒場と、しっかり食事を楽しめる場を両立させたい」

“居酒屋以上、ハイエンドなレストラン未満”というここにしかない按配。“良き音と味”に相関関係ってあるもの。おのずと自然派ワインがスルスル進むに違いない。

「(食)ましか」店主・今尾真佐一さん

■店名
『(食)ましか』
■詳細
【住所】大阪市西区江戸堀1-19-15
【電話番号】06-6443-0148
【Instagram】https://www.instagram.com/hirokawa.tailor/

Writer ライター

船井 香緒里

船井 香緒里

Kaori Funai

「Kaorin@フードライターのヘベレケ日記」でお馴染み。酒と酒場と音楽をこよなく愛し、「Led Zeppelin」、「The Who」はじめ60〜70年代の洋楽ロック好き。愛用するスピーカーは「Tannoy ⅢLZ」66年製。アウトドア好きでもあり、ジョギングとロードバイクにて健康維持。https://kaorin15.exblog.jp/

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