音楽と料理、イタリアワインの「クロスオーバー」
カオリンの「シェフのBGM」
お好み焼きと鉄板焼と、イタリアワインの妙味を楽しませる『tanpopo(タンポポ)』。鉄板台で焼き上げる、創意あふれる品々を求めて通い続けるファンも多い。店主・神谷圭介さんによる、飲ませる味作りはもちろん、音楽を軸にしたセンスある場作りもリピートしたくなる理由の一つ。
イタリアワインとお好み焼き、鉄板焼きの妙味
大阪・北新地。ビル6Fにある『tanpopo』の赤い扉を開けるとそこには、ウォークインセラーを据えたシックな空間が広がる。イタリアの家具ブランド『MAGIS』の座り心地いいチェアを配し、グレーがかったつや消しの壁が、洗練されたムードを醸し出す。
24年前からワインとお好み焼き、鉄板焼の妙味を楽しませている店主・神谷圭介さん。曰く「僕自身が好きなイタリアワインに狙いを定めています」。
凛々しく厚みのある『お好み焼き(ブタ)』には「ネッビオーロなど少し濃いめの赤をどうぞ」。生地の凝縮感ある甘みや、隠し味に赤ワインを忍ばせたソースの軽やかな旨みが、果実味豊かな一杯と見事に調和する。
お好み焼き(ブタ)¥1100
鉄板台で調理するメニューには、「蕗の薹と明石ダコのさつま揚げ」など、旬素材の力強い味わいや香りを生かした一品ものも多数。
蕗の薹と明石タコのさつま揚げ ¥1500
日本のローカルな食文化と、イタリア土着の味。
一見して、相反するカルチャーを紡いでくれる存在が、神谷さんの技はもちろん、彼がセレクトするBGMだろう。
選曲は地域も年代もジャンルも超えて
神谷さんのルーツを辿ろう。
お兄さんの影響もあり、シティ・ポップ好きの小学生だった。アーティストの原点を探りのめり込んだのは、ボズ・スキャッグスに代表されるAORや、ジャズ・フュージョンなど都会的なサウンド。
今も洋楽の趣味は変わらないが「店では名曲や、ノリが良すぎる曲をあえて外して」英国製・ケンブリッジオーディオのスピーカーを用い、耳障りでない音量で。
店主の神谷圭介さん
「選曲の着想は、時間帯や、その時々の店内の雰囲気でしょうか」
ある日の18時台。食事の始まりにはビル・エヴァンス、キース・ジャレットなど、繊細で叙情的なビアノ・ソロが流れている。「お客様の会話の邪魔にならない、耳を持って行かれない程度の音量を大切にしています」。
ワインが入り始めた19時台には、「アップテンポなアシッド・ジャズが合いますよね。昔のめり込んだ、ジャイルス・ピーターソンは今、聴いてもかっこいい」。ジャイルス氏は、80年代のジャズ・ダンスのムーブメントから、90年代のアシッド・ジャズを経て、今なお世界で影響力を持つDJだ。
「学生時代は、MONDO GROSSOも好きでした。店でかけることはないけれど、夜の高速道路が似合っていたなぁ」と当時を懐かしむ。
「学生時代は、MONDO GROSSOも好きでした。店でかけることはないけれど、夜の高速道路が似合っていたなぁ」と当時を懐かしむ。
さて。話題を『tanpopo』に戻して。
ワインのボトルが空きはじめる、20時〜21時のピークタイムには、パナマ系アメリカ人のドラマー・「ビリー・コブハム」による、ジャズ、ヒーリング、グルーブなどが融合したグルーヴィーなサウンドを。
その流れから、ブラジルが世界に誇るミュージシャン「エヂ・モッタ」の「Perpetual Gateways」を。ジャズ色強め、エネルギーを感じながらも洗練された音色が、センスの塊のような店にしっくりと馴染んでいる。とはいえ、音量は控えめに。主張しすぎない按配が絶妙。
時にしっとりと、時に軽やかに。洗練された選曲で、さりげなく場のムードを指揮する神谷さん。 帰ろうと思っていたけれど、思わずワインをグラスでもう一杯…。そんな気分にさせてくれる。
■店名
『tanpopo』
■詳細
【住所】大阪市北区曽根崎新地1-10-16 永楽ビル6F
【電話番号】06-6344-2888
【営業時間】18:00〜22:00
【定休日】日曜
【お料理】お好み焼き(ブタ)¥1100。おまかせコース(全7品)¥8800。Gワイン¥900〜。
【公式サイト】https://tanpopo-kitashinchi.com/
あまから手帖2022年5月号/京都のリアル
(「Amakara Topics」内の「おいしい音楽」より)
Writer ライター
船井 香緒里
Kaori Funai