名物店主が音とアテで飲ませるスタンド酒場。大阪『ヒロカワテーラー』

名物店主が音とアテで飲ませるスタンド酒場。大阪『ヒロカワテーラー』

カオリンの「シェフのBGM」

2023.07.11

文・撮影:船井香緒里

大阪・本町にあるスタンド酒場『ヒロカワテーラー』には、いつも気持ちいい音と空気が流れている。気の利いた料理と酒、音に至るまで店主の愛がギュッと。「酒場としてのBGMを追求したかった」とは、“ケンケン”こと店主のヒロカワ・ケンさん。多くの人たちの心を惹きつけるワケとは。

目次

子連れ客にも愛される“街の集会所” 「酒場BGM」を追求した機材セレクト シティポップにスカ、レゲエ…。シーンを見据えた飲ませる選曲 店舗情報

子連れ客にも愛される“街の集会所”

『ヒロカワテーラー』外観

オフィス街、大阪・本町の端っこにある憩いのスタンド酒場『ヒロカワテーラー』。
開けっ広げのドアから心地よい風が流れ込み、店の外には「ケンケン〜!」と店主のヒロカワ・ケンさんに手を振りながら過ぎゆく通行人も。クスの木を用いたコの字カウンターは、16時の開店とともに客が訪れ、黄昏時には満員御礼ということもしばしば。
子連れ客から長老まで世代を問わず、“街の集会所”ともいえるこの酒場へやってくるワケは、ヒロカワさんの愛とセンスが詰まった空間だから。

「飲み屋だけど、できるだけ身体に負担の少ないものを」
あえて謳われていないが、極力作り手の顔が見える素材を使うアテは、春菊とピータンの白和えや、レンコンきんぴらなど約40種。酒は「赤生(あかなま)」という名のレッドアイから、季節の日本酒やスパイスが香る「カルダモン焼酎」まで、今日は何を飲んで食べようか…嬉しい悩みは尽きない。

『ヒロカワテーラー』春菊とピータンの白和え春菊とピータンの白和え480円。ひとり客にはポーションを調整するなど、酒飲みのツボをつく配慮が嬉しい。赤生480円。

『ヒロカワテーラー』メニュー

「酒場BGM」を追求した機材セレクト

『ヒロカワテーラー』店主のヒロカワ・ケンさん店主のヒロカワさん。北浜の名酒場『ひらやま』で10年過ごした後、2018年に本町で独立。2020年に同エリアで移転。

ふとBGMに耳を傾けると、聴き慣れたシティポップの軽快なサウンドが流れている。会話の邪魔をしないボリュームと、落ち着いた音像が印象的。
ヒロカワさん曰く「酒場としてのBGMを追求したくて。機材セレクトはその道のプロに任せつつ、音の質にはこだわりました」。

『スタンド ニューサンカク』という名で、同じ本町エリアで立ち飲み屋を営んでいたヒロカワさん。建物の老朽化に伴い、店名を変え移転リニューアルしたのは2020年11月のこと。「どうせなら店舗設計の段階から、音の質にも注力したい」と、オーディオの構築を、知人の馬場さんに依頼。
馬場さん曰く「オーセンティックな居酒屋に合う音はどういうものか、を考えました」。
スピーカーは「Sunsui SP-65」をキャビネットだけ使用し、『JBL』のスピーカーパーツ・ユニットに入れ替えてカスタムメイドしたもの。20cmのウーファー・ユニットを備えたスピーカーをチューニングすることで、低音が心地よく響く落ち着いた音像に。

『ヒロカワテーラー』スピーカー

また、配線にも工夫が。建築デザイナーであるヒロカワさんの奥様バックアップのもと、音声用ケーブルなどはコの字カウンターと床を通って繋げている。
「不定期でDJイベントを開くこともあるのですが、わざわざ配線しなくてもいいのでラクですね」
その配線の先。カウンター内の、台下冷蔵庫上にある極狭スペースには、DJミキサーも置かれている。
「営業中は、調理やサーブをこなしながら、お客さんの入り具合に応じて、音質や音量を瞬時にコントロールできるのが超便利」と話すヒロカワさんに続き、「ピュアオーディオの雰囲気を纏いながら、気難しくないBGMとしての心地よさを、酒場で楽しめるという感じになっています」と、馬場さんは話してくれた。

シティポップにスカ、レゲエ…。シーンを見据えた飲ませる選曲

「やかましい音ではないから、僕自身も仕事していてめちゃ気持ちいいですよ」とカウンター内の定位置に立つヒロカワさんはご満悦。
「常に意識しているのは、ふと会話が止まったときに耳に入ってくる程よい音量でしょうか。選曲は80年代の邦楽や、個人的に好きなスカやレゲエ、時にはジャズも。なんでもかけます」

16時の開店時は、同業者やクリエーター、界隈で暮らす男性ひとり客の姿も多く、山下達郎や竹内まりや、杏里などのシティポップのヒットパレード。
「僕ら世代のお客さんには100%刺さるし、若い子たちは、新しいジャンルの音楽として捉えているのがいい感じですよね」

界隈のオフィスが終業を迎え、会社員や女性客が入り混じる時間帯には、「人の声で紛れすぎないスカやレゲエなんかよくかけます」。
大阪に拠点を置くレゲエ~ラテン・ジャズ・バンド「pug27(パグ27)」や、女性ヴォーカルのレゲエバンド「バグダッド・カフェ・ザ・トレンチ・タウン」など、陽気でグルーヴィーなサウンドもこの店ではお馴染み。ちょっとしたライヴハウスのごとく、店全体に一体感が生まれることもしばしば。
後半の時間帯には、上田正樹や河島英五といった、心に染み入る大阪ソウルバラードを。
「ある曲をかけようと思ったら、その間にちょっとマイナーな2、3曲をかませて印象に残るようにする。そうやって、お客さんに楽しんでいただけたら嬉しいですよね」

しみじみと昔のことを思い出したり、居合わせた客と盛り上がることも。いい音と気の利いたアテとお酒の三重奏に、さらに高揚感が増していく――。

■店名
『ヒロカワテーラー』
■詳細
【住所】大阪市中央区平野町4-5-10
【電話番号】なし
【営業時間】16:00~23:00(土曜〜22:00)
【定休日】日曜、木曜、不定休
【お料理】レンコンきんぴら430円、馬頭鯛(マトウダイ)味醂干し630円。生ビール中480円、カルダモン焼酎580円。
【Instgram】https://www.instagram.com/hirokawa.tailor/

Writer ライター

船井 香緒里

船井 香緒里

Kaori Funai

「Kaorin@フードライターのヘベレケ日記」でお馴染み。酒と酒場と音楽をこよなく愛し、「Led Zeppelin」、「The Who」はじめ60〜70年代の洋楽ロック好き。愛用するスピーカーは「Tannoy ⅢLZ」66年製。アウトドア好きでもあり、ジョギングとロードバイクにて健康維持。https://kaorin15.exblog.jp/

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