多文化共生を描く純愛映画「フィリピンパブ嬢の社会学」白羽監督インタビュー

多文化共生を描く純愛映画「フィリピンパブ嬢の社会学」白羽監督インタビュー

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2024.04.12

文:椿屋 撮影:福本旭

現在公開中の映画「フィリピンパブ嬢の社会学」は、原作者である中島弘象氏の実体験を綴った「フィリピンパブ嬢の社会学」(新潮新書)を実写化した作品です。舞台は、氏が生まれ育った愛知県春日井市。大学院の研究のために訪れたパブで出会ったフィリピン人と恋に落ち、次々と襲いかかる障害に立ち向かっていく男女の姿が描かれています。本作が伝えるのは、フィリピンパブで働く女性たちが直面する社会問題を通した“多文化共生の在り方”。食の扱い方が魅力的な過去の白羽弥仁監督作品同様、食事シーンも作中で重要な役割を果たしています。「一直線のラブストーリーにしよう」という気持ちで臨んだという監督の言葉をお届けします。

目次

目指したのは、笑って泣ける純愛 白羽作品を彩る食事シーンのルーツ 「外に開いていること」を大切に 公開情報

目指したのは、笑って泣ける純愛

白羽監督の代表作のひとつ、台湾料理を通して家族の絆を描く日台合作映画「ママ、ごはんまだ?」が公開された2017年、中島氏の著書「フィリピンパブ嬢の社会学」が出版されました。翌年にその本を手に取った監督は、あまりの面白さに大興奮したといいます。SNSを使ってすぐさま中島氏にコンタクトを取るや否や、名古屋へと出向き、キョトンとするご本人(監督談)を前に思いの丈をぶつけました。

「思ったより若い、というのが第一印象でした。この若さで、よくこれだけ波瀾万丈なことを……と感心しましたし、危険を潜り抜けきたルポライターなどがもつアナーキーな印象からは程遠い雰囲気で、益々興味が涌いてきました。映画を撮るにあたって、人生初のフィリピンパブに連れて行ってもらったのですが、ホステスがいきなりタブレットで我が子の写真を見せてくるといった開けっ広げさにビックリすると同時に、日本人との感覚の違いに、『これは相当面白いぞ』と前のめりになりました」

白羽弥仁監督

真っ直ぐに愛を貫いた二人のために、作品もストレートに純愛を描こうと考えた白羽監督。「主人公・中島翔太(前田航基)とミカ(一宮レイゼル)の間に立ちはだかる障害は社会問題だ」と受け止め、日本人とフィリピン人だということにスポットライトを当てて、「他の国の人との50/50の関係を描くことにトライした」と言います。

フィリピンパブ嬢の社会学大学院生・中島翔太が、「フィリピンパブ」の論文を書くために店を訪れたことから始まるラブストーリー。(画像提供/2023 『フィリピンパブ嬢の社会学』製作委員会)

フィリピンパブ嬢の社会学近藤芳正を始め、田中美里、津田寛治など、脇を固める豪華俳優陣の出演も見どころ。(画像提供/2023 『フィリピンパブ嬢の社会学』製作委員会)

白羽作品を彩る食事シーンのルーツ

前述の「ママ、ごはんまだ?」に続き、自身の生まれ故郷である芦屋市の給食に対する取り組みをテーマとした「あしやのきゅうしょく」(2022年/アークエンタテインメント)でも「食」と対峙してきた白羽監督は、「国民性や文化など土地柄が出る料理は、それぞれの国の風土と強く結びついている」と考えます。だからこそ、決して疎かにせず、食事のシーンにおける料理の役割をおざなりにはしません。

「ホステスたちが仕事終わりに食事をするレストランのシーンでは、実際にそのレストランに料理を提供してもらいました。関西ではまだまだ少ないですが、名古屋にはフィリピン料理店が多いんですよ。また、料理監修は、著者である中島さんの奥様にお願いしました。ミカが親友と一緒に翔太のために料理するアドボ(豚の角煮)や、冒頭の教会のシーンに登場するシニガン(野菜スープ)は、奥様の手作りです」

フィリピンパブ嬢の社会学画像提供/2023 『フィリピンパブ嬢の社会学』製作委員会

フィリピンパブ嬢の社会学母方の実家は造り酒屋で、「酒の肴をつまみながら大きくなった」と振り返る監督は、かなりの辛党。「料理と同じで、酒も土地柄が出ます。アルコール度数が気温に関係しているのも興味深く、料理と酒の相性も奥深い。作るのも好きですよ。オーブンを使うような洒落たものは作りませんが、鉄板で何でも焼きます(笑)。大抵の家庭料理は作れますね。酒は料理に合わせて何でも呑みます」と白羽監督。

「外に開いていること」を大切に

映画を撮る上で、「他の国の人が見たらどう思うか、どう感じるか」を何よりも意識していると監督は言います。「実は、映画で使った中島さん一家の写真は、彼らにとって初めての家族写真なんです。あまりにいろんなことがありすぎて、家族揃って写真を撮る余裕もなかったと聞き、ぜひ写真館へ行きましょう!と提案しました。ただ、その写真を出すことに、当初奥様はあまり気乗りしない様子でした。が、出演してくれたフィリピン人キャストやその家族を招いた試写会で、多くの観客が感動して涙を流している姿を見て、気持ちが変わったとのこと。自分は恥ずかしいことをしたわけじゃないんだって思えたそうで、それまで一度もなかったような素敵な笑顔を見せてくれたときは、本当に嬉しかったです」

今回の映画化における最大の課題が、「日本人が外国人を描くにあたっての偏見や壁を取っ払ってつくるという姿勢だった」と話してくれました。「常々、差別的な表現や偏見に基づいた言動を見世物として描く映画やドラマに違和感を抱いてきました。多種多様な文化が交じり合う神戸で育ったことで、私自身は比較的フラットな感覚を持っていると思いますが……だからこそ、より意識して取り組みました」

監督は言います。「思いやりを心掛ければ、世界はもう少し平和になる」と。その思いやりの心を忘れないためにも、遠く離れた異国の地で家族のために懸命に働くフィリピン人女性たちの生き方を、まずは知るところから始めませんか。

フィリピンパブ嬢の社会学


フィリピンパブ嬢の社会学登壇付き上映を行なった「MOVIX京都」スタッフの力作。左から、原作者・中島弘象氏、白羽監督、出演者から仁科貴さん。


白羽弥仁さん

映画監督。1964年生まれ、芦屋市出身、神戸市在住。日本大学藝術学部演劇学科演出コース卒。在学中に自主制作映画「セピア・タウン」(1984)の脚本・監督を務め、制作会社でのプロットライターを経て、大阪北摂から神戸に至る阪急沿線を舞台にした「She’s Rain」(1993/東映アストロ)で映画監督デビュー。2017年、日本台湾合作映画「ママ、ごはんまだ?」(アイエス・フィールド)がサンセバスチャン国際映画祭・ヴィリニュス国際映画祭に正式出品された。日本映画監督協会会員。讀賣テレビ番組審議会委員。大手前大学建築&芸術学部非常勤講師。


■映画名
フィリピンパブ嬢の社会学
■詳細
【関西の上映館】
神戸・三宮『kinocinema神戸国際』3月29日~4月11日
京都・河原町『MOVIX京都』4月5日~18日
【公式サイト】https://mabuhay.jp/
【公式X】@movie_Phili_pub

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