
洋菓子のようなクリームパン / 京都・烏丸『fiveran(ファイブラン)』
小林明子の「偏愛パン」
前を通ると、磁石に吸い付けられるように店内に入り、必ず買ってしまうパンがある。 軽い力が加わっただけでも形が崩れるふわふわパンを、まずは歩きながらパクパク。2個目も平らげたいところをグッと我慢しながら、大切に大切に持ち帰る時間も愛おしいパンとは?
詰めるクリームは輝く銅鍋で!
都道府県別パンの消費量ランキング上位の常連である京都には、パン屋激戦区がいくつもある。そのひとつ、烏丸御池界隈のなかでもひときわスタイリッシュな佇まいを見せるのが、2015年にオープンした『fiveran(ファイブラン)』だ。
カフェも併設する広々とした店舗の中ほどに位置する厨房で、シェフの東原寛幸さんは黙々とパンを焼く。人気パン店『フリップアップ!』を始め、フレンチレストランでの料理人経験も持つベーカーである。
開業に当たって、東原さんは全国の人気ベーカリーを行脚した。やがて、翌日も小麦の香りがする美味しいパンを焼く福岡の店に出合った。オーナーシェフに直接交渉し、スタッフも帯同して製パン技術に磨きをかけた。
シェフの東原寛幸さん
店の顔ともいうべき存在は、貝殻型のクリームパン「パティシエール」だ。店内に足を踏み入れるとまず目につく、いわば“一等地”に焼きたてが並ぶ。
ピカピカの銅鍋で炊く、卵の風味豊かなトロトロカスタードをたっぷり詰めた、やや小ぶりの菓子パン。弾力性のあるパン生地と相まって口福を呼ぶ。
その美味しさは、ある意味破壊的。激怒する人の口に押し込めば、たちどころに笑顔になるに違いないと常々思っているが、欠点もある。食べすぎてしまうことと、競争率が高いことだ。
大人気の「パティシエール」は、1人5個までの購入制限が設けられている。一日に何度も焼かれているが、売り切れになることもめずらしくない。そんな時は次の焼き上がりまで辺りを散歩でもしてほしい。それだけの価値はある。
クリームパン「パティシエール」205円。
しっかり感じられる小麦の風味
東原シェフが目指すのは、翌日でも小麦の風味が感じられるパン。小麦は国産限定、北海道産と九州産を主に使用している。ハード系に分類されるものでも、外皮は香ばしく、内装はふっくらみずみずしいパンが多いのも特徴だ。
なかでもうっとりさせるのが、岩のような見た目を持つイチジクとマスカットのルヴァン。香りも豊かな全粒粉生地に、ドライイチジク、ドライマスカットをびっくりするぐらいたっぷり混ぜて焼き上げている。
イチジクとマスカットのルヴァン、大702円。
スライスしてそのまま齧(かじ)り、ドライフルーツの甘酸っぱさとやわらかな食感、小麦の素朴な味わいに浸るも良し。軽くトーストするも良し。個人的には、カレーにも抜群に合うと思っている。
フレンチレストランでの経験から、店内で作ったカレーやベーコン、ソースなどを使用した惣菜パンも並んでいる。
■店名
『fiveran(ファイブラン)』
■詳細
【住所】京都市中京区室町通三条上ル役行者町377 1F
【電話番号】075-212-5696
【営業時間】9:00~19:00(カフェは18:30LO)
【定休日】火曜
https://pandeone.jp/
https://www.instagram.com/boulangerie.et.cafe.fiveran/
Writer ライター

小林 明子
Akiko Kobayashi