滋賀『浪乃音酒造』の新ブランド、20代の「Te to Te(てとて)」

滋賀『浪乃音酒造』の新ブランド、20代の「Te to Te(てとて)」

地酒党・中本の「今月のイッポン!」

2022.12.02

文:中本由美子 / 撮影:東谷幸一

「浪乃音」を醸す滋賀・堅田(かたた)の『浪乃音酒造』に待望の跡継ぎが戻って来ました! 福島流のきれいな酒造りを学んだ28歳の中井充也さんが醸すのは、日本酒初心者に捧ぐライトな純米吟醸。まずは生酒から本格リリースです。

目次

待望の跡継ぎのデビュー作 20代の感性で、日本酒初心者向けに ライトで優美な純米吟醸

滋賀『浪乃音酒造』

待望の跡継ぎのデビュー作

滋賀の「浪乃音」といえば、やわらかい旨みの中にどっしり感もあって、ほろ苦さが酒の輪郭を作る男酒。お燗をすると、ふくよかさが増して、食中にもってこいの飲み飽きしない酒質だ。

その同じ蔵から、こうも違う性格の酒が生まれてくるのだから、地酒って面白い。 待望の跡継ぎが蔵に戻り、処女作として醸した「Te to Te」は、銘柄名も、ラベルデザインも今どきで、ジャケットの印象そのままの“難しくない”味わいだ。

スーッと身体に馴染むような口当たり。優しく美しい含み香。フルーティーでキュートな味わい。親しみやすい酒質で、どこか初々しさも感じる。

「浪乃音」は造り手の名を「3兄弟」とラベルに記して、長男で蔵元の中井 孝さん、杜氏の次男・均さん、麹(こうじ)担当の三男・快(やすし)さんが主となり醸してきた。 そこに、孝さんの息子である充也さんが加わったのは、2021年。蔵の誰もが、跡継ぎの帰りを待ちわびていた。

滋賀『浪乃音酒造』の製麹風景中井三兄弟と充也さんによる、製麹(せいぎく)作業。手前左から時計回りに、杜氏の均さん、充也さん、蔵元の孝さん、快さん。中井三兄弟は体型も顔もウリ三つ!

20代の感性で、日本酒初心者向けに

中井充也さんは1994年生まれの、28歳。「酒蔵の長男だから、蔵を継ぐのは当然」と幼い頃から信じて疑わなかったという素直な人だ。笑い顔のいい好青年だが、実はその裡(うち)に酒造りの情熱をしかと秘めている。

以前、本誌連載「地酒の星」の取材に伺った際、こんなことを話してくれた。 「僕は酒が弱くて…。ちょっと飲んだだけですぐ顔に出るし、日本酒はあまり得意じゃなかったんです。『浪乃音』はどっしり系なんで、正直、僕には重たくて。僕ら20代も馴染めるような、ライトで飲みやすい酒を造ってみたいんです」。

この跡継ぎの想いは、すぐさま叶えられた。蔵入りした2021年、中井三兄弟の全面サポートの下に0号が醸されたのだから、アットホームな蔵だ。 酒質を設計したのは、もちろん充也さん。福島の「天明」醸造元『曙(あけぼの)酒造』で4年かけて学んだ“きれいな酒造り”をベースに、日本酒初心者に向けて、アルコール度数を15度台にし、果実味のある、軽やかな純米吟醸が誕生した。

中井家全員とパートのおばちゃんも巻き込んだ蔵を上げての銘柄プレゼンで選ばれたのは、「Te to Te」。充也さんの奥様の命名だという。コロナ禍を皆が手と手を取り合って乗り越えていこうという想いが込められているそうだ。

滋賀『浪乃音酒造』の杜氏蒸し米に種麹(もやし)を振る「種切り」作業。杜氏の均さんの仕事を充也さんが見て学ぶ。

ライトで優美な純米吟醸

先日、孝さん夫婦が「Te to Te」を飲もうと、地元の寿司屋を予約してくれ、一年ぶりに充也さんとお会いした。
「僕、酒が強くなったんですよ! 『浪乃音』の美味しさも分かってきました」。突き抜けるような笑顔で開口一番。その顔つきは格段に精悍(せいかん)になっていた。

「Te to Te」は、滋賀県産の酒米にこだわり、グリーンラベルの生酒には玉栄、ピンクラベルの火入れには渡船を使っているという。どちらも純米吟醸だ。

生酒は特有の華やかさはあるものの、派手さはなく、落ち着いた吟醸香。火入れの方は、さらに香りに抑制が利いていて、光物もドンと来いの万能選手だった。寿司には純米の燗派の私もあっさり宗旨替え。いいやん、吟醸。とりわけ赤酢のシャリとは好相性で、軽快さのある今どきの寿司には、ライトで優美な純吟の方がいいかもしれない、とさえ思った。

デビュー作の0号は評判も上々で、今秋からは本格的にリリースされる。第1弾は、玉栄の生で、11月23日に発売されたばかり。年明けには渡船の火入れ、吟吹雪でも醸す予定だ。純米吟醸だけでなく、純米酒にも今期はチャレンジするという。

手作業で醸した酒を、お客様の手へ。日本酒はちょっと苦手…という方に充也さんの想いが届くといいなと願っているが、実は私のような濃醇旨口好きの飲兵衛にもオススメだ。「Te to Te」で、今どきの20代の感性にぜひ触れていただきたい。

滋賀『浪乃音酒造』の「Te to Te(てとて)」純米吟醸 玉栄 生&渡船火入れTe to Te(てとて) 純米吟醸 玉栄 生 720㎖1760円、1.8ℓ3520円。 「浪乃音」醸造元の11代目となる中井充也さんが手掛ける新銘柄。20代の若い感性で醸すのは、渡船や吟吹雪など滋賀県の酒米を定番にした純米吟醸と純米酒。全国約30軒の特約店で、グリーンラベルの「玉栄 生」のリリースが始まったばかりだ。甘やかな果実味と優しい吟醸香が親しみやすい一本。

●浪乃音酒造 【電話番号】077-573-0002【公式サイト】https://naminooto.com/

あまから手帖/2022年12月号
少人数でしっとり酔う、バツグン酒場
今、飲みに行きたい、個性あり和洋の酒場の大特集。「Te to Te」の記事は、後半連載「今月の飲み頃」にて。

Writer ライター

中本 由美子

中本 由美子

Yumiko Nakamoto

和食専門ウェブ・マガジン「和食の扉~WA・TO・BI」編集長。「あまから手帖」編集部に1997年に在籍し、2010年から12年間、四代目編集長を務める。お酒は何でも来いの左党だが、とりわけ関西の地酒を熱烈に偏愛。産経新聞夕刊にて「地ノ酒礼賛」連載中。

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