兵庫「播州一献」の夏酒は、ライト&ドライで潔い!
地酒党・中本の「今月のイッポン!」
夏酒真っ盛り。売り場にも酒場の冷蔵庫にも涼し気なボトルが並ぶ中、兵庫「播州一献」の純米「夏辛」はこの潔さ。ライト&ドライで暑中の美味に寄り添います。今年は酒米の王様・山田錦で醸し、旨みが一層ふくよかに!
“スーパードライ”な夏酒
口に含んだ瞬間、フレッシュ感が駆けぬける。舌の上にのっかる旨みは濃度感があって、ベルベットのような滑らかさ。気持ちいいくらい鮮やかにキレる辛口だ。
夏酒の主流とされる、酸の利いたスッキリ系、フレッシュな生酒。そのどちらとも違う、ライト&ドライな酒質。兵庫・宍粟(しそう)の『山陽盃酒造』が醸す「播州一献」の夏酒は、その名も「夏辛」。
「超辛」は「播州一献」のフラッグシップだ。日本酒度+10の辛口で、旨みはふくよかなれど、後味スッキリ。キレの良さが出色だ。その夏版は、醪(もろみ)に加水してアルコール度数を14度にし、軽快さも備えている。
『山陽盃酒造』は、兵庫県の中西部にある宍粟市に天保8(1837)年創業。日本一の酒米生産地・播磨(はりま)にあって、揖保(いぼ)川水系の豊かな水にも恵まれている。
ピンチをチャンスに変えて
「夏辛」の誕生は2015年。「播州一献」の販路を東京に広げ、知名度も全国区になりつつある頃だった。ところがその3年後、蔵元杜氏の壺阪雄一さんは突然の不幸に見舞われる。
2018年、火災によって蔵の一部が焼失。造りの真っ最中の出来事だった。幸いにも麹室(こうじむろ)の手前で炎が止まり、「酒の神様が、造りを続けなさいと言っているような気がしたんです」と、壺阪さんはその日も仕込みの手を止めなかったという。
左/「播州一献 超辛」を手に、蔵元杜氏の壺阪雄一さんはこの笑顔。右/「あまから手帖」の連載「地酒の星」で取材に行ったのは2019年5月。蔵の一部はビニールシートに覆われたままだった。
造りを続けながら再建の計画を立て、新蔵が誕生したのは2021年の春。「徹底した衛生管理ができて、導線も理想的になりました。これで雑味のないクリアな酒が造れます!」。数カ月後、蔵を訪ねた時の壺阪さんの晴れやかな笑顔が脳裏に焼き付いている。
新蔵の進化は止まらない!
壺阪さんは、焼失した蔵を単に元に戻したワケではない。むしろ、酒質をブラッシュアップする好機と捉えた。いつも笑顔で、ポジティブで。明朗さの中に、揺るぎない、強靭な信念を秘めた人だ。
衛生的な環境を得て、酒質はぐっとクリアになった。数年前からは、酒米の心白に合わせて扁平に削る「真吟精米」を採用し、軽快さも増した。
麹室はステンレスを用いて一新。麹箱もアルミ製にし、オフフレーバーと雑菌汚染を徹底して防いている。「夏辛」には、通常より製麹(せいぎく)時間を長くして、酵素力価を高めた麹を使用。「アルコール度数を下げるために加水しても、麹の力で醪の味が薄くならないんですよ」。
クリーンさが一目で分かる麹室。蒸し米を広げ、種麹を振りかけるのに使う「床(とこ)」と呼ばれる台もステンレス製だ。
「夏辛」には例年、兵庫北錦を使っていたが、今年は山田錦で醸したという。 米の旨みのふくよかさが増したことで濃度感もアップ。私がベルベットのような質感だと感じたのはそのせいだ。
「フレッシュで、クリアで、キレがいい」。「播州一献」の目指すべき酒質を壺阪さんは、こう表現する。今期はさらに-5℃の冷蔵庫を新設。「できたてのフレッシュ感がより保てるようになります!」。
ピンチをチャンスに変えて邁進し続ける壺阪さんは、約10カ月に及ぶ今期の長い造りを終えて、ホッと一息、穏やかな夏を過ごしている。けれどきっと、クリーンになった蔵の、次はどこを改良するか、新たな計画を練っているに違いない。
フレッシュ感と雑味のないクリアな酒質を守るため、グラビティシステムを採用し、搾った酒をそのまま桶に取り、クリーンルームで瓶詰め。アルコール度数14度のライト感とキレ味のよさが際立つ辛口。「播州一献 純米 夏辛」720㎖1540円、1.8ℓ2860円。
●山陽盃酒造 ☎ 0790-62-1010
【公式HP】http://www.sanyouhai.com/
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Writer ライター
中本 由美子
Yumiko Nakamoto