ナパのエレガンスを詰めた上品ソーヴィニヨン・ブラン。

ナパのエレガンスを詰めた上品ソーヴィニヨン・ブラン。

Mr.TERASHITAの「推しワイン!」

2023.08.09

文:寺下光彦 / 画像提供:アルカン

カリフォルニア州サンフランシスコの北西に位置する、世界的に有名なカリフォルニア・ワインの生産地、ナパ・ヴァレーを訪れたワインジャーナリストの寺下光彦さん。そこで見つけたこれから注目したいブドウ品種、そしておすすめのソーヴィニヨン・ブランをご紹介します。

目次

ブドウ品種のダイバーシティへ。 オーガニック栽培とサステイナブル農業の先駆。 イタリア品種、サンジョヴェーゼにも挑戦。 ワイン詳細

ナパ、およびカリフォルニアのワインの、2つの大きく重要な変化を、2023年4月にカリフォルニア・ワインの生産地として名高いナパ・ヴァレーでの取材で実感しました。一つは、すっかり“フルボディでなんぼ”だったように思えた時代が影を潜めていたこと。もう一つは、より多彩なブドウ品種にフォーカスする潮流になっているということです。
ナパ・ヴァレー・ワインの主流が、とにかくフルボディでパワフルで濃厚、高アルコールだった時代から、よりフィネスと繊細なテクスチャーあるワイン造りへ移行していますよ~、という話は「あまから手帖」8月号で4000字近くをかけてレポートさせていただいているので、よろしければ是非そちらをご笑覧ください。
このコラムでは、ブドウ品種のダイバーシティについて。そしてその代表格であり先駆的ワイナリーの一つである、「ロング・メドウ・ランチ」のソーヴィニヨン・ブランについてお話しします。

ブドウ品種のダイバーシティへ。

ナパ・ヴァレーでは長きにわたり基本、赤はカベルネ・ソーヴィニヨン、白はシャルドネが中心、というイメージでした(よね)。しかし、今回の現地取材で少なからず出合えた、傑出した輝きある白の中には、この生産者のソーヴィニヨン・ブラン以外にも、シュナン・ブラン(シャペレ)、ヴィオニエ(ダリオッシュ)などなど、シャルドネ以外の名作を、数多く発見することができたのです。
日本の数多くのワイン・プロフェッショナルと同行させていただいたこのツアーで、最終日に「今回のワイナリーツアーで最も印象的だったワイン」を何人かのプロに尋ねた際も、これら、かつての非主流派品種のワインを挙げたソムリエさんも、少なからずいらっしゃったほどです。

オーガニック栽培とサステイナブル農業の先駆。

私にとって印象的だったこのワイナリー、「ロング・メドウ・ランチ」は、1989年創業。ナパ・ヴァレーで最も早くオーガニック栽培、サステイナブル栽培に注力したワイナリーの一つです。
銘醸地ラザフォードを中心に、平地だけでなく標高400m近い急峻なマヤカマス山脈の斜面でも、その大きな寒暖差を活かしたアロマティックなワインを生んでいます。そして、所有する全60haの畑全てが、カリフォルニア州の有機認証機関”CCOF”の認定を取得しています。

この2021年のソーヴィニヨン・ブランも、いわゆる昔のナパワインの厚ぼったい印象は皆無。キリッと凛々しく背筋が通った美しい酸と、引き締まった果実味、伸びやかなグレープフルーツ、ライム、 アカシア花の香りが明るく活力たっぷりに広がる味わいは、やはり長年続けたオーガニック栽培による土の健全さの力と、造り手の美意識の高さゆえかと感じさせられました。

イタリア品種、サンジョヴェーゼの栽培にも挑戦。

ちなみにアメリカでは、オーガニック・ワインの基準はフランスよりさらに厳しいです。フランスではワイン1ℓあたり赤は100mg、白は150mgまで酸化防止剤(=亜硫酸塩)の添加がオーガニック・ワインにも容認されます(ナチュラル・ワインは30㎎以下)。しかし、アメリカではなんと完全無添加のものしかその表示ができないそう。これは、非常に厳しい基準です。
ゆえ、今回の取材でも各地のワインショップで、オーガニック・ワインの表示があるカリフォルニア・ワインを見つけることはできませんでした。

このワイナリーは、マヤカマス山脈の高標高の畑で現在、サンジョヴェーゼ品種(イタリア、トスカーナの代表的重要品種)の栽培にも情熱を傾けています。
ナパ、およびカリフォルニアでますます多様な品種が栽培されていけば、さらにこれからの私たちのワイン選びが、楽しくなりそうですね。そのワインがリリースされる日を、期待して待ちたいです。

LMRの醸造所

LMRのセールス・マネージャー、ブラッドレイ・グローパーさん「サンジョヴェーゼにもいい結果が出ている。ナパにはまだまだ多様なブドウ栽培の可能性がある」と、「ロング・メドウ・ランチ」のセールス・マネージャー、ブラッドレイ・グローパーさん。マヤカマス山麓、標高400m付近の畑にて。

ロング・メドウ・ランチ 2021 ラザフォード ソーヴィニヨン・ブラン、6000円。
カリフォルニア、ナパ・ヴァレーの中心に位置する、比較的温暖なラザフォード地区産。ワイナリーの周囲では、オリーヴや多彩なフルーツも栽培。牛や羊も肥育し、循環農法を実現。またナパ周辺で計152haもの土地を自然保護区とし、自然の生態系を尊重した持続可能な農業の実現に尽力する。アルコール13%。

●問合せ/アルカン【電話番号】03‐3664‐6591

掲載号
あまから手帖2023年8月号/とんかつ手帖(あなたの知らないカリフォルニアワイン 2023年ナパヴァレーの旅 より)

Writer ライター

寺下 光彦

寺下 光彦

Mituhiko Terashita

ワイン&フード・ジャーナリスト:約30年間ボルドー、ブルゴーニュのトップワインを経験後、現在は自然派ワイン一筋。ワイン専門誌の取材でフランス、イタリア、ジョージアなどのワイナリー計300社以上を現地取材。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」青山校、大阪校講師。

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