気候変動で注目を集める、スロヴァキアのワイン

気候変動で注目を集める、スロヴァキアのワイン

Mr.TERASHITAの「推しワイン!」

2022.10.26

文:寺下光彦 / 画像提供:『ラヴニール』

毎月、旬の珠玉の自然派ワインをご紹介するMr.terashitaの「推しワイン!」。第3弾は、気候変動をきっかけに注目を集めるスロヴァキアのワイン「スロボドネ 2020 レベッラ・ロザ」です。

目次

見えてきた、北のワイナリーの重要性と品質 スロヴァキアでカベルネ・ソーヴィニヨンが完熟 ライト・オレンジワイン「デヴィン」も中欧の秘宝 ワイン詳細

見えてきた、北のワイナリーの重要性と品質

ワインの二大名産地、フランスのボルドーとブルゴーニュも2022年の夏は気温40℃越え。また、ヨーロッパ森林火災の焼失面積は、計約40万ha(ボルドーの栽培面積の4倍近く)。

しかし。この気候は”異常”ではなく新たな日常、というのが気候学者たちの見解です。

2015、18、19、20年のヨーロッパの夏の気温も、ほぼ今年に近いようなもので、いよいよ地球気候崩壊が、炎とともに身近になった時代。フランス中部や、北イタリアなど「冷涼気候が高品質の理由」 と教わった10年前のワインセオリーも、同時崩壊かと感じられます。

そんな中、高まるのが北の国のワイナリーの重要性と品質。

近年は、とうとうオランダやスウェーデンなどでも、ワイン生産が始まったとのニュースもあります。しかしまず注目したいのは、スロヴァキア、チェコ、ハンガリーなど、ワイン造りの長い伝統、つまり十分に高樹齢の樹を持つ国々の生産者。

そんな中央ヨーロッパの国々のテロワール(ブドウ畑を取り巻く自然環境要因)の潜在力に、現在の気候変動が追い風となり、ワインの魅力を瞬時に脳裏に焼き付けてくれるのが、スロヴァキアのこの生産者、スロボドネです。

スロヴァキアのワイナリー

スロヴァキアのワイン生産者・スロボドネ

スロヴァキアでカベルネ・ソーヴィニヨンが完熟

スロボドネの産地は、オーストリアのさらに北、スロヴァキア・ゼミアンスケ・サディ村。1912年からの歴史を誇る大農園が、不遇な共産主義時代を乗り越え、1995年に農園を再興。2010年から自社瓶詰を開始したワイナリーです。

基本的に醸造段階では酸化防止剤を添加しないワイン造りで、既に日本の多くのナチュラルワイン・ショップやバーでも、不動の人気を獲得した生産者です。 エントリーレベルのこのワインでも、熱波で酸とミネラル、そしてフィネス(繊細さ)が往々にして押し潰されたフランス、イタリアワインにない、クリスピーな酸と、のどかで心温まるような果実味がなんとも魅力的。果実の奥に時折顔をのぞかせる、素朴な土の香りと、おだやかなチェリーの香りも、しみじみと滋味深く心に響きます。

スロヴァキアのワイン「スロボドネ 2020 レベッラ・ロザ」スロヴァキアのワイン「スロボドネ 2020 レベッラ・ロザ」

ちなみにこのワイン、使用されているブドウの品種はカベルネ・ソーヴィニヨンと、ブラウフレンキッシュのブレンド。ワインの定説として、寒冷地のカベルネ・ソーヴィニヨンは、熟度不足でピーマンの香りと言われますが…、このワインのアロマには、ピーマンのピの字もない(つまり、しっかりカベルネが完熟している)のも、気候変動の小さな恩恵、でしょうか。

スロヴァキアのワイン「スロボドネ 2020 レベッラ・ロザ」に使用されているブドウ。

ライト・オレンジワイン「デヴィン」も中欧の秘宝

あともう一点、お伝えしておきたいのは、このワイナリーが造る「デヴィン」という土着品種を使用したライト・オレンジワインの卓越性。

この品種の、がっしりと芯の太い果実味と、黄色い花とハーブの、跳ねるような躍動感ある香り、多層性ある深遠な後味は…中欧の秘宝であり知られざる自然の驚異の域。そんな未知の名品との出会いは、ますますワイン探求を楽しくしてくれるものですね。

ともあれ。そんな中欧ワインの味に、気候変動、気候危機以前の、失われつつあるフランス田舎酒の名残りを感じたら…。ぜひ一人一人が地球気候保全のために、今すぐ具体的行動を、今日から。明日からでは、もしかすると、手遅れかもしれません。

ワイン詳細

スロヴァキアのワイン「スロボドネ 2020 レベッラ・ロザ」スロボドネ 2020 レベッラ・ロザ 3740円。
スロヴァキアで20世紀初頭からの歴史ある栽培農家の当主、スロヴォドネ・ヴィナルストヴォが、2010年自社瓶詰めをスタート。 化学肥料不使用。醸造時、酸化防止剤無添加のナチュラルワイン。品種はブラウフレンキッシュとカベルネ・ソーヴィニヨン。アンフォラ発酵、卵型セメントタンク熟成で、フレッシュな酒質と、わずかな発泡も心地いい。

●ラヴニール【電話番号】03-6457-5982 https://lavenir-wine.com/

あまから手帖 / 2022年11月
これからの旅は、ローカルへ
シェフが持つ現代の感覚で地のものを昇華させたような、美食との出会いが待つ「ローカルな旅」をご提案。

Writer ライター

寺下 光彦

寺下 光彦

Mituhiko Terashita

ワイン&フード・ジャーナリスト:約30年間ボルドー、ブルゴーニュのトップワインを経験後、現在は自然派ワイン一筋。ワイン専門誌の取材でフランス、イタリア、ジョージアなどのワイナリー計300社以上を現地取材。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」青山校、大阪校講師。

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