ワイン産地のステレオタイプを破る、オーストラリア・ナチュラルワイン。
Mr.TERASHITAの「推しワイン!」
新世界のナチュラルワインは、歴史がごく浅く、ヨーロッパ産のようなフィネスとエレガンスがない。そんな2つの大きな偏見を一気に粉砕してくれるのが「ホッフキルシュ 2021 リースリング・トゥワーズ・レイドローズ」。一石二鳥ならぬ 、“一瓶二鳥”です。
新世界、ナチュラルワインの歴史はごく浅い(?)
冒頭、リード文の“一瓶二鳥”、を少し噛み砕きます。
新世界(オーストラリア、アメリカ、南アフリカなど)のナチュラルワイン、特にその先駆とされるオーストラリアでシビアなナチュラルワイン造りが始まったのは、2000年代前半、ルーシー・マルゴーやヤウマの登場あたり、というのが一般的なイメージでした。そしてその辺り(とカリフォルニアのコトゥーリ)が、広く新世界のナチュラルワインのルーツとも考えられていました。
ところがこのホッフキルシュ、1999年からバイオダイナミック農法を取り入れ、酸化防止剤添加も大胆に低減したワインをすでに造り始めていたのです。
1999年といえばブルゴーニュ最高級(最高額)白ワインの代名詞、ドメーヌ・ルフレーヴさえバイオダイナミック農法に完全転換して間もない頃で、ご近所さんに「変な宗教農法」と揶揄されたという時代。もちろんその時代は、ナチュラルワインという言葉さえありません。オーナーのジョン・ナゴルカさんは、 そのルフレーヴやドメーヌ・ルロワのワインに感銘を受け、バイオダイナミック農法に転換したそうです。
オーナーのジョン・ナゴルカさん
ブドウ畑の様子
畑から除草剤や化学肥料を退け、自然の生物と微生物を土壌の中に育んで1/4世紀以上。昨日や今日、ナチュラルワインブームに便乗したワイナリーとは、畑の土壌自体の活力と生命力が全く異なることは自明です。そしてその差は当然、ワインの滋味の多層性と、深遠な奥行きに、素直すぎるくらい素直に映っているのです。
新世界ワインはフィネスとエレガンスがない(?)
もう何年、何十年も前からこの偏見を覆すワインはいくらでもあるのですが、やはり未だに“フランスワイン至上主義”は多いようです。つい最近も、ブラインドで出されたワインを「フランス産」と答えるも、 正解(オーストラリア産や南アフリカ産)を聞くと、「やっぱりどっか厚ぼったいと思っていた」と手のひらを返す人々を多々目にしました。
新世界ワイン=濃くて厚ぼったい、ヨーロッパ産ワイン=酸が綺麗でエレガントでフィネスがある、というステレオタイプの反証例は既に無数です。それどころか、近年の気候変動で、その逆転現象さえ起きているとさえ感じられるほど。すなわち、フランスやイタリアの夏の気候がアフリカのようになって、鈍重な、昔の新世界ワインのようなワインが生まれつつある、という現象です。
見える、ワイン選びの「新しい景色」
ともあれ、このホッフキルシュのリースリング。シルキーで官能的な舌触りの酸の多元性、明るい曼荼羅絵画のように変化しながらのび広がる余韻の陰影の豊かさ、傑出した活力がありつつ優美で気品あふれるライム、アカシア蜂蜜、ライチの内果皮などの香りに、ぜひ触れてみてください。
ブラインド試飲でオーストラリア産と想像することは困難かもしれませんが、一度飲めば、産地のブランドネームにあぐらをかいたヨーロッパの生産者のワインよりも、はるかにヨーロッパに期待するようなワインだと感じられるはず。
産地のブランドネームに頼るのか、一部の新世界ワインは一般的なヨーロッパ産ワインを超えるフィネスやエレガンスがあると悟るのか。どちらか賢明なのか。このワインを飲みつつ考えれば、きっと今年のワイン選びの「新しい景色」が見えてくるでしょう。
ワイン詳細
「ホッフキルシュ 2021 リースリング・トゥワーズ・レイドローズ」5720円。ホッフキルシュは、オーストラリア屈指の冷涼産地であるヴィクトリア州南西部・ヘンティに1990年に設立されたワイナリー。1999年からバイオダイナミック農法と野生酵母のみの発酵を一貫。ワインはすべて、醸造時酸化防止剤無添加。完全無添加のシラーを使ったワインも生産。
●お問合せ先/KPオーチャード【電話番号】058-268-6068【公式サイト】https://www.kp-orchard.com/【Instagram】https://www.instagram.com/kp_orchard/
Writer ライター
寺下 光彦
Mituhiko Terashita