有名産地の日陰者(?)葡萄。ピノ・ブランは、賢明な選択。
Mr.TERASHITAの「推しワイン!」
毎月、旬の珠玉の自然派ワインをご紹介するMr.terashitaの「推しワイン!」。今月は、スター品種の陰に隠れがち?な、ピノ・ブランを使った「ジェラール・シュレール2020ピノ・ブラン・アッシュ」です。
AOC法が二流の烙印を押したけど。
名産地で華やかに脚光を浴びるスター品種の陰に隠れた、格下扱い品種……。
どの産地もあるものですね。アルザス、今やフランス・ナチュラルワインの最重要産地の一つの地でも、ありますあります。スルーするのは勿体ない、と言うか損、と思える葡萄品種。その代表格がピノ・ブラン(と、シルヴァネール)でしょう。
なにせ、ピノ・ブランはグラン・クリュ(特級格付け畑)に植わっていてさえ、グラン・クリュを名乗ることが許されない、日陰を通り越して不憫な存在。
シルヴァネールも、唯一の例外であるゾッツェンべルグの畑以外では、同じくグラン・クリュを名乗れないとは……、もう AOC 法が公然と”二流品種の烙印”を押したような葡萄なのです。
ナチュラルワインの皇帝も、手塩にかける。
そんな不憫すぎる逆境を、一口で覆してくれるワインが今月の一本。ご存知、フランス・ナチュラルワインの皇帝的存在の生産者、ジェラール・シュレールのピノ・ブランです。
この生産者は、リースリングやゲウェルツなどの高貴品種も多く生産していますが、毎年彼のピノ・ブランは、それらスター品種に一歩も引けを取らない、目覚ましい完成度。
2020年も、グラスから鼻に突進してくるような勢いと躍動感のある菩提樹、アカシア、カモミール、白豪銀針(中国の白茶)、マンダリンオレンジの内果皮、すだちの皮の油、などなどの香りが、瞬時に飲むものの心を優しく鷲掴みに。 無限の多層性あるミネラルと、引き締まった果実味のレイヤーとともに伸びる後味と、酸化防止剤無添加ゆえの、体細胞に瞬時に溶け込むような味わいも、まるで天からの福音のような世界。まさに上質ナチュラルワインの真髄そのものなのです。
長期熟成で、さらに深遠に。
パンデミックの少し前に当主ブルーノ・シュレールが来日した際、約20年前後熟成したワインを20本以上一気に開けた際にも、並み居る高貴品種を押しのけ、2005年もののビノ・ブランが最も印象的だったと語ったソムリエは少なくありませんでした。私も全く同感でした。
そんな品種がなぜ長年、二流扱いなのか。理由を述べるとかなり長くなってしまうので、そこはまた別の機会に。
入手は年一回のみの、”赤い流しそうめん”?
それにしても最近、トップランクのナチュラルワインは新ヴィンテージが日本に入荷し、発売開始~完売の速度は年々激しさを増すばかり。まるで流しそうめんで一年に一本だけ流れてくる赤いそうめんで、それを捕まえ損ねると来年までサヨウナラ、のような世界なのです……(涙)。
極上のナチュラルワイン入手には、それぞれのワインの日本への入荷時期をある程度頭に入れていくことも必須になりつつあるようです。 良いナチュラルワインは素晴らしく身体と心をリラックスさせてくれるのですが……、その入手に必要な集中力と情熱量は、年々高まっているようです。
ジェラール・シュレール2020ピノ・ブラン・アッシュ。4,200円。
アルザスでアイヒベルグ、フェルシックベルグなどのグランクリュも所有。アルザスのみならず、全世界のナチュラルワインの王として、神格化されつつある存在。当主ブルーノの父、ジェラールの代から除草剤と化学肥料一切無縁のビオロジック栽培を一貫。1990年代末から酸化防止剤(亜硫酸塩)無添加ワインを手がけ、世界から畏敬されるナチュラルワインの偉大な先駆者。
●ラシーヌ【電話番号】03-6261-5125【公式サイト】http://racines.co.jp/ ※こちらではすでに完売。入手は楽天などのご利用を。
Writer ライター
寺下 光彦
Mituhiko Terashita