大分『界 由布院』で時間を忘れる里山暮らし

日暮れゆく棚田や雄大な由布岳など、郷愁を誘う佳景が教えてくれるのは、何もしない時間の豊かさ。今回ご紹介するのは、大分県山間部にある『界 由布院』。「王道なのに、あたらしい。」をコンセプトに、その地域の伝統文化を生かしながらご当地の魅力を発信する星野リゾート発の温泉旅館ブランド「界」の中でも、鄙の風情が印象的なお宿です。

季(とき)を告げる棚田の景色

すくすくと稲が育つ青田を、薄紫から濃紺へと日暮れゆく空が、柔らかく染めていく。誰もがその美しさに言葉を奪われ、周囲に響くのはヒグラシやカエルの切なげな鳴き声だけ。自然に抱かれるまま何もしない時間の豊かさに、じっくりと心が満たされていきます。

由布院と言えば、大分随一の湯治場・別府の奥座敷として知る人ぞ知る山間の人気温泉地。その中でもここ『界 由布院』は、敷地内に棚田を擁するという、全国的にも稀なランドスケープ。‟棚田暦で憩う宿“をコンセプトにした日本の原風景に出合える宿として、海外からも高い評価を得ています。

『界 由布院』の棚田
大分県の名が「大いなる田」に由来することなどに因み、耕作放棄地になっていた棚田を再生し、温泉旅館のランドマークとして設計。春の田植え前なら空が映り込む水鏡、秋の収穫前なら黄金色に輝く稲穂の海を。四季折々の佳景を棚田テラスから一望できます。
『界 由布院』の大浴場
豊後富士の異名を持つ由布岳を眼前に望む大浴場。庭木のデザインは棚田をイメージしたもの。源泉かけ流しの「あつ湯」と「ぬる湯」を備えた内風呂(写真)と寝湯を備えた露天風呂があり、どちらからも見事な眺めを楽しめます。
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内装のテーマは‟上質な農家“

「ありのままの自然に癒されながら、大分の歴史や文化にも触れていただくご滞在になれば」と、総支配人の森川 環さん。由布院の農閑期の手仕事・わら綯(な)いを体験できるご当地楽に続き、1日1組限定で「本格焼酎ディスカバリー」なる大分の麦焼酎講座を新たに提案中。アプローチに竹林を配し、トラベルライブラリーを竹のフローリングにしているのは、大分が真竹の生産日本一なことが理由です。

『界 由布院』のわら綯(な)いイメージ
『界 由布院』が地元文化の学びの場として提案する「ご当地楽(がく)」のわら綯(な)い体験は当日予約可能で参加無料。稲わらを手の平でこより細縄に整え、可愛らしいお守りを作ります。
『界 由布院』の「本格焼酎ディスカバリー」焼酎イメージ
「本格焼酎ディスカバリー」は1日1組(最大4名)限定で料金は1名3500円。大分麦焼酎3種類の香りをストレートで飲み比べるところから始まり、計8種類の大分麦焼酎をテイスティングできます。
『界 由布院』の「本格焼酎ディスカバリー」のスイーツ
「本格焼酎ディスカバリー」には、お部屋でいただけるスイーツと大分を代表する麦焼酎「おこげ」のお湯割りセットも付いています。大分銘菓のビスマン、焼酎シロップを生地にたっぷり染み込ませたサバランなどスイーツは3種類も。
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しっとり落ち着いた内装のキーワードは‟上質な農家“。黒を基調としたフロントカウンターは、かまどを模した丸い形状に羽釜のオブジェを据えた遊び心ある意匠。館内随所に惜しげなく使う日田杉や国東(くにさき)半島の七島藺(しちとうい)、竹、ワラなどのご当地素材が、洗練されていながらも寛げる柔らかな空気感を生んでいます。

『界 由布院』のロビー
土間をイメージしたロビーは独特の上質感。フロントを通り過ぎてすぐ右側には、24時間無料でお茶やコーヒーをいただけるトラベルライブラリーが備えられています。
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鹿と猪の出合いを知る‟ももんじ鍋“

食事は朝夕共に、1階にある半個室風の食事処でいただきます。三百年以上の歴史を繋ぐ日田市の小鹿田(おんた)焼に盛られた先付は、猪と椎茸のパテを挟んだ温かい最中。続く温物は松茸ほか3種のキノコを使った土瓶蒸しで、八寸を飾るのは渋皮栗の白和えや鶏と干しブドウの松風など。豊かな山の恵みを巧みに魅せる会席は、コース終盤の‟山のももんじ鍋“が山場です。

聞き慣れない“ももんじ”とは由布院でジビエを指す言葉で、ショウガが浮かぶ琥珀色の鍋だしは、骨やスジでとった特製の鹿コンソメだそう。ワクワクしながら猪・鶏・豚3種の肉をくぐらせていただけば、程よい野趣に満ちた初めての口福な出合いが訪れます。

『界 由布院』の「ももんじ鍋会席」イメージ
「山のももんじ鍋会席」は、八寸、お造り、酢の物を盛り合わせた「宝楽盛り」のほか、先付、揚げ物など全10品。大分らしいスダチポン酢やスダチコショウでいただきます。
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旨みを増した鍋だしは、生蕎麦を直接投じて無駄なく堪能する流れ。締め括りの甘味は、大分の伝統食・やっこめ(炒り米)を忍ばせたミルクジェラート。大分の食文化を何気なく織り込んだ仕立てがほっこり和みます。

雑木林に囲まれたご当地部屋「くぬぎ離れ」専用の湯小屋で月明かりの湯浴みに興じ、翌朝は縁側に腰かけて温かいお茶を一服。旅行というよりも、気分はまるで里帰り。郷愁誘う穏やかな時間を過ごせる、心まで温かくなる温泉旅館です。

『界 由布院』のご当地部屋「蛍かごの間(くぬぎ離れ)」の寝室
ご当地部屋「蛍かごの間」の露天風呂付客室は全25室で、写真の「くぬぎ離れ」はそのうち3室。2名1室利用の場合1泊2食付55000円~。蛍が籠の中を舞うが如く点滅する「蛍かご照明」の幻想的な光も素敵です。
『界 由布院』のご当地部屋「蛍かごの間(くぬぎ離れ)」の縁側
1棟貸し切りスタイルの「くぬぎ離れ」はプライベート感抜群。森林浴を堪能できる縁側(写真手前)とラタンを編み込んだデッキチェア付きの湯小屋(写真奥)が特等席です。
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