
瀬尾まいこさん【後編】「おいしいものと、人がいること。どちらも幸せの象徴です」
瀬尾さん作品には、子どもや家族をテーマに書かれたものが数多くあります。そして、食卓を囲むシーンも多々。そこで後編では、家族と食、子どもと食をテーマにお話を伺います。併せて、お好きな食べ物も教えていただきました。大阪出身、奈良在住の瀬尾さんらしい好物とは。
瀬尾まいこさん【前編】誰もが、煌めくものを必ず持っている。小説『掬えば手には』
contents
日常生活を大事にしたい
――瀬尾さん作品には、食をテーマにしていないにもかかわらず、おいしそうな描写が本当にたくさん出てくるので、食べることがとてもお好きなんだなと感じました。
- 瀬尾さん(以下、瀬尾):
- そうかもしれない。いま書いている原稿にも、ずっと食べ物が出てくるので、めっちゃ好きなんやなと思いました(笑)。でも自分で毎日作るのは嫌だし飽きるので、人に作ってもらいたくなる。おいしいものを食べたい欲って、常にありますね。
――毎日お料理されてるんですね。
- 瀬尾:
- しますよ。夫と小学6年生の娘がいるので。
――瀬尾さんの作品には家族や思春期の子どもが出てくるものが数多くあり、食卓を囲む温かいシーンも多いですよね。
- 瀬尾:
- そうですね、好きなのかな…食べるのが好き。そこに人がいたら尚いいですよね。 今は夫帰りが遅いので、普段は娘と二人で食事した後、夫が帰宅したらもう一回ごはんを用意するんですが、やっぱり休日とか、家族みんなで食べるとよりおいしく感じます。
――そんなときの会話が、作品にいかされたりも?
- 瀬尾:
-
自分たちの生活を書いているわけではないですが、日常生活はちゃんとおくりたいとは思っています。
日常と離れた作品も書きたいですが、医療ものとかは知識がないから書けないし(笑)
思春期の子どもは愛おしい
――思春期ならではの繊細な気持ちを書かれた作品は、やっぱり中学校の先生をされていたご経験があるからこそですよね。
- 瀬尾:
-
子どもは小中高、全部大好きなんですけど。だから10代も大好きなんです。
10代って、自意識過剰でありながら人の目ばかり気にしていて、いじらしくて愛おしいですよね。どんなに私たち大人が「誰も見てへん」って言っても伝わらないじゃないですか。でも、自分の中で折り合いをつけつつ、めっちゃ人を見ているからこそ、全然仲良くない子のために必死で動けたりするんです。たまらないですね。
あの気持ちを、私はどこで置いてきたんでしょうか(笑)。
歳を重ねると生きやすくはなりますけどね、シンプルに。でも必死で生きている子たちはすごく可愛いです。
――デビュー作である『卵の緒』や、代表作のひとつ『そして、バトンは渡された』など、思春期の主人公にとって家族が安全基地になっているのを感じます。
- 瀬尾:
-
血の繋がりがあろうとなかろうと、誰にも支えられてない人ってほんまにいなくて。完全な孤独になるって難しいと思うんです。
だから、いい人を書こうとしてるわけじゃなくて、普通に書いていたら誰かが助けてくれる人が出てきてしまう…悪人書きたいんですけど(笑)。
食卓のシーンは、特に意識して入れているわけではないのですが、おなか減ってると絶対イライラするけど、ごはん食べたらほっとしません?
チョコひとつ食べてもほっとするし。誰かといることでもほっとするし。なんか、ほっとする瞬間が重なり合っているというか。
どちらも幸せの象徴ですよね。おいしいものと、人がいること。
何か食べ物を用意するときって、その人のことを考えるじゃないですか。私は食べるの大好きですが、一緒に誰かと話しながら食事するのはすごく好きな時間なので。
みっちり話だけするのってしんどいじゃないですか(笑)。
家族で食べたいお菓子
――その通りですね。瀬尾さんがご家族で食べるのが好きなものってありますか。
- 瀬尾:
- 奈良に住んでるから言うみたいですけど、わらび餅です(笑) 奈良のわらび餅は、本物のわらび粉が入っているから、ちょっとグレーががった、黒っぽい色をしているんです。ほんまにおいしくて。娘は甘いものが苦手なんですが、きな粉は大好きなんです。だから、わらび餅は、家族全員が食べられるお菓子なんです。
――特にお好きなお店のものはありますか?
- 瀬尾:
-
『菓匠 千壽庵吉宗』さんのが好きですね。普通のわらび餅にも、当然わらび粉は入ってるんですが、わらび粉だけの真っ黒なわらび餅もあるんです。
普通のでも充分おいしいんですけど、その真っ黒なわらび餅がめっちゃおいしいです。
あと、いま探しているのは、本当に“くさくさ(草草)”したヨモギ餅。いかに濃い草かってことを極めたいと思てて。よく買っていた近所の和菓子屋さんが閉店してしまったので、春になったら探す旅に出ようと思ってます(笑)
――それは面白そうです。
ご出身は大阪ですよね。大阪でお好きな食べ物とかありますか。
- 瀬尾:
-
そうですね、大阪はみたらし団子もおいしいですよね。って、餅ばっかり(笑)
大阪名物ではないですが、シュークリームとかチョコレートも好きですよ。
――お好きなものが作品にも?
- 瀬尾:
- 確かに、シュークリームとチョコレートはよく出てきますね。おいしい。幸せなものとして出てきます。逆に苦手なものはあるけど、出てこないですね。マヨネーズとか。苦手な食べ物として出てくることはあるかもしれませんけど(笑)
――瀬尾作品の中で、登場人物たちはおいしいものを通して、人との繋がりを深めるシーンは数えきれません。
読めば心が温かくなり、一生懸命な登場人物たちを思わず応援したくなる瀬尾作品、ぜひご覧ください。
瀬尾まいこさん【前編】誰もが、煌めくものを必ず持っている。小説『掬えば手には』
profile

小説家
瀬尾まいこ
京都で中学校の国語教師をする傍ら、執筆活動をスタート。2001年、26歳のとき「卵の緒」で第7回坊ちゃん文学賞を受賞し、作家デビュー。2011年に教員を退職し、専業作家へ。多くの代表作を持ち、「幸福な食卓」(吉川英治文学新人賞)、「天国はまだ遠く」「僕らのごはんは明日で待ってる」、「そして、バトンは渡された」(本屋大賞)、「夜明けのすべて」など、映画化も多数。家族愛や人とのつながりを丁寧に描いた温かな作風に、年齢を問わず多くのファンを持つ。

この記事を読んだ人におすすめ!
大阪の街の本屋さん『正和堂書店』の選書コラム「ブックカバーはごちそう」でも、『掬えば手には』をご紹介しています。 併せてご覧ください。ほかにも心に効く本揃ってます!
recommend