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初心者ハイカー、塩屋の『しろちゃん』で下山後の一杯に目覚める/六甲山編その1

「登山の後の一杯は、登頂にも勝る至福の瞬間!むしろそれ目的に山に登っているような」と、“酒飲みハイカー”のセンパイ・ミツルさんが言う。え、なに、そんなにカイカンなの??
「下山後すぐに酒が飲める店」を常に探しているらしい彼に、トレッキングを始めたばかりのアラフォー山ガール・おばやしが、初心者向けトレッキングと山歩きを楽しくする「下山後(go)酒場」をご指南いただきます!

初心者にはうってつけな旗振山

ミツル:
関西で山歩きを始めるなら、まずは六甲山から攻略するのに限る。ほとんどの登山口は公共交通機関でアクセスでき、繁華街にも近いからね。
おばやし:
…六甲山って1000m近い標高じゃなかったです?ワタシ超初心者なんですけど。
ミツル:
六甲山は931m。でも安心してください、今回は超初心者向け。六甲山系の西端に位置する旗振山から塩屋駅へ下山するコースです。旗振山の標高はわずか252m、往復しても約2時間。
おばやし:
もうすぐお昼ですけど、山登りするにはスタートが遅くないですか?
ミツル:
塩屋着を午後1時頃に設定しているからね。最終目的地の「しろちゃん」は人気店。少しでもピークタイムを外す大人の配慮ですよ。という話は置いといて、登りますよ!
六甲山ルート
本日のルート。須磨浦公園駅から旗振山、須磨浦山遊公園を経て、『しろちゃん』へ。
ミツル:
須磨浦公園駅の西にのびる遊歩道を案内板に従って進めば、ほぼ迷うことはないし、ほとんどが舗装されていて歩きやすい。歩き始めてすぐに道が分かれていますが、ここは「ちかみち」を選びましょうか。
六甲山
おばやし:
……近道はいいけど、この階段どこまで続くんですか。眺望も風もない!暑くて死にそう!メイクも落ちた!
ミツル:
文句が多いな。近道とは往々にしてそんなもんです。すべては下山後の一杯のため。下山後に消費以上のカロリーを摂取することも予想されるが…。

かつての国境から街と海の絶景

おばやし:
うう…傾斜がさっきよりキツくなってきた気がするんですけど。
ミツル:
九十九折り(つづらおり)の急登になってきたからね。とはいえスタートからまだ15分程度だからウォーミングアップ完了と言ったところ。この程度の急登に口数が減るようでは、初心者にしても鍛錬が足りぬ。疲れたようなら、海が見えるスポットで一息ついて水分補給をどうぞ。これもまた下山後の一杯を考えると悩むところだが、道義上こまめな水分補給は必須。
六甲山
おばやし:
おお、展望台!ふー。ひと休み。
ミツル:
スタートから30分、ロープウエイの鉢伏山上駅に到着です。この先にある分岐を左へ行けば標高248mの鉢伏山、右へと行けば旗振山。分岐からは舗装もなくなり、ようやく登山道らしくなってフラットで歩きやすい。10分ほど歩き、最後のアップダウンをこなせば旗振山山頂!
おばやし:
……ああ!旗がはためいている!ゴール?お店?がありますね。閉まってるけど。
ミツル:
山頂にある『旗振茶屋』は、基本的に土日と休日のみの営業。オーナーの森本さんは今ごろ須磨駅前で昼酒を楽しんでいるんじゃないかな。西に明石海峡、東に大阪湾が広がる山頂からの眺望は、標高が低いながらもなかなかのもの。六甲山系で明石海峡が一望できるのはここだけかと。
こんな場所にあるだけに、かつては摂津国と播磨国の国境だったそう。江戸から大正にかけて、その地理的条件を活かし、大阪の米相場の状況をここから旗を振って伝達したことが山名の由来らしい。と、山頂にある看板に書いてあるからよく読んでおくように。
六甲山

塩屋のランドマーク「しろちゃん」

ミツル:
下山は山頂から西へとのびる道を進む。すぐ下にある須磨浦山上遊園(公衆トイレあり)の園内を抜けて、森の中に続く道を辿って。須磨浦公園駅からの登山道に比べ、塩屋への道は、より自然が濃い。ただし距離は登りより若干長い。
おばやし:
確かに長く感じます。あ、電車の音が聞こえてきた!
ミツル:
JRと山陽の線路ですね。下山開始から約40分。今回の目指すべき食堂『しろちゃん』はすぐそこ。塩屋といえば、細い路地に洒落たショップが点在し、昨今「映える」スポットとして、若い女性に注目を集める町。昭和生まれでハイカー崩れの我々にとって、早く酒にありつければ「映え」などは本気でどうでもいい。重要なのは、営業開始時間も含め「早い」、そこそこ「旨い」、そして「安い」だ。
しろちゃん
ミツル:
念のため、店の歴史を簡単に紹介すれば、先代の松岡孝行・典子夫妻が、お好み焼き店として創業したのが57年前。典子さんの旧姓・藤代(ふじしろ)から「しろちゃん」と命名したそう。44年ほど前から息子で現在の店主・松岡泰司(たいし)さんが大衆食堂に改め、現在は奥さんの幸江さん、弟の太さんの家族で経営している。接客の程よい距離感もいいんだよね。
おばやし:
なんか和みますね。ん?生ビールが350円ですって!?
ミツル:
安いでしょ。私的下山後の一杯は380円の瓶ビール(中瓶)で決めたいところ。生ビールの安さにも惹かれるが、キリン、アサヒ、サッポロから瓶ビールを選択させてくれる、その心意気に応えるのが酒飲みとしての礼儀だろうと…。
おばやし:
ですね!(…この人いちいちうるさいな)。
ミツル:
アテは店の歴史を物語る看板の文字「お好み焼き」に敬意を表して、お好み焼き玉子入り(380円)はマストで。しかも、ものの数分で運ばれてくる驚くべきスピードは、同店最大の企業秘密だ。(ただし、カウンター席に座り厨房を眺めていると、その秘密は氷解する)。
六甲山
ミツル:
もう一品は唐揚げ(420円)。そのボリューム感、そして「サクッとジューシー」などという表現が軟弱に思える、ザクッとした歯ごたえとビールが進むしっかりした味が魅力だ。脇に添えられたカレー味の柔らかなナポリタンも、隠れた名品。
六甲山
おばやし:
手頃だし、運動した身体に欲しいメニューが揃ってる!
ミツル:
そう、下山後って身体が疲れているからガツンとしたメニューが嬉しいよね。その昔、塩屋にあった印章店の店主が左手で書いたというメニュー表の値段を見れば、そのコスパは説明不要。10種類ほど並ぶ小鉢のケースには、泰司さんの同級生が営む近所の鮮魚店から仕入れた魚介もあるのでぜひ。タコやイカはタウリン豊富だしね。
六甲山
ミツル:
地元漁師や登山客が入り混じり、楽しげに酌み交わす風景を見れば、ここが六甲山を代表する「下山後酒場」のひとつと言っても過言ではあるまい…。
おばやし:
(グビグビグビ)クーーーゥ!汗をかいた身体に染み渡るうぅ!ハムエッグと豚汁と…あと、白ご飯も食べてもいいですか!?
ミツル:
あぁ…消費カロリーが…。

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藤川満

藤川 満

神戸在住のフリーライター。全国各地の低山と酒場をフィールドに飛び回る。日本酒をこよなく愛し「日本酒では全く酔わない」が口癖。

おばやし零余子

おばやし零余子

兵庫県宝塚市在住の独身アラフォー編集者。酒と酒場好きで、年々大きくなる身体に危機感を覚え山登りに目覚めるが、一向に痩せる気配なし。最後の晩餐は雑煮。