
上田誠さん【後編】「僕たちは食べ物を通して、“物語”を食べているんでしょうね、きっと。」
「いつもの」ブッダボール&ソイラテ
――今回撮影にご協力くださった『Café Phalam(カフェ パラン)』は、2020年に公開された映画「ドロステのはてで僕ら」(2020年/トリウッド・ヨーロッパ企画)の舞台となった場所ですよね。
- 上田誠(以下、上田):
-
はい。雑居ビルにあるカフェで、テレビとテレビが「時間的ハウリング」を引き起こすSFめいた物語で、そのカフェのロケ地として使わせてもらいました。店長さんが映画や文化的なことがお好きで、そんなつながりで出合ったお店で、最初はビーガン系の料理を提供されていることも知らなかったんです。普段、そういうのを全然気にしないタイプなので(苦笑)。
作中ではほとんど料理が出てこなくて、最後に登場人物たちがコーヒーを飲んでるくらい。もっと出せばよかった(笑)。
――ヨーロッパハウス(上田さんの実家の敷地内にある劇団の事務所兼稽古場)からも近いですし、よく来られますか?
- 上田:
- そうですね、京都にいるときは1、2か月に1度くらいの頻度で顔を出しています。自転車に乗ってゆるりと。
――いつも決まった席がある派ですか?
- 上田:
- 特にないですね。そのときの気分と状況で。
――お決まりのメニューはありますか?
- 上田:
-
ここはビーガンメニューといってもがっつりとした食事ができるのが嬉しいですね。
おいしいし、しっかりボリュームがあるので、最近はブッダボールばかり頼んでいると思います。メニューに関しては全然冒険しませんね。好き嫌いはないですが、「何でもいいんですね」って言われると腹が立つというか(苦笑)。
気に入ってるからずっと頼んでいるかんじです。
劇団結成当時からお世話になっている『喫茶チロル』なら、厚切りカツカレーばかり食べがち。僕、おそらく大食漢なんですよ(笑)。ここ『カフェ パラン』では、そんなわんぱく心も分かりつつ、僕の健康も気遣ってくださるので、本当にありがたいです。
- 上田:
- ドリンクは、ラテが多いかな(と話していると、オーダーする前に「いつもの」かんじでラテが運ばれてきました)。たぶん、「ラテって言いたいな、今日は」って気持ちで注文してる(笑)。
僕たちは「物語」を食べている
――「ラテって言いたい気分」、面白いですね。
- 上田:
- そう考えると、ブッダボールも料理そのものよりもその世界観を食べているというか……。
――なるほど、言葉のもつイメージみたいなものが影響するのかもしれないと。
- 上田:
- 実際、僕がジンジャーエールを好きになったのはくるりさんの曲(ドラマ「オレンジデイズ」の挿入歌となった「ばらの花」)を聴いたからだし。好物は何かって訊かれたら、チャーハンと焼きそばって答えると思いますけど、実家ではチャーハンがそんなに好きじゃなかったんです。それは、うちの母親がチャーハンのこと「焼きめし」って言ってたから。
――関西のオカンあるあるですね。「焼きめし」ではときめかなかった(笑)。
- 上田:
-
そしたら、あるとき「チャーハン」って言葉を聞いて、ふと「チャーハンかぁ」って思ったら、そこからめっちゃチャーハンが好きになったんですよ。食だけに限らず、好みが言葉に引っ張られるのかなぁ……。さっきの「ラテ」も同じことですよね(苦笑)。
- 上田:
- 考えてみれば、僕自身、子どもの頃から変わらず味の濃いものが好きで。それは、たぶん家業が肉体労働(焼菓子製造『上田製菓本舗』2016年閉業)だったので、濃い味の料理が食卓に並びやすかったからだと思うんですが。もちろん、その場の雰囲気に合わせて大人っぽいものも頼みますよ。おばんざいとか。
――上田さんの中で、おばんざいは大人っぽい食べ物なんですね(笑)。
- 上田:
-
え、違います?(笑)
京都でおばんざいを食べたい人が多いのも、「おばんざい」って言葉を食べているんだとしたら、僕たちは食べ物を通して、そのシチュエーションとか背景にあるものとか……要は、「物語」を食べているんでしょうね、きっと。って、いまさらですが、こんなに食に関する話をするのは初めてで、ちょっと新鮮です。
いろいろ考えてはいても言葉にする機会がこれまでなかったので。
仕事はタイミングとめぐり合わせ
――食について訊かれることないですか?
- 上田:
-
需要ないでしょ?(笑)。
初めてってことでいえば、これまで、自分でこの原作をやりたいと言って形になったことはなかったので、「リライト」はそういう意味では初めての作品ですね。 誘ってもらってご縁でやることが多いんで。お声がけいただく仕事は、「ああ、いま自分はこういうふうに見られているんだな」「こういうのが書けると思われてるんだな」といった具合に、己の立ち位置が分かるので、意外なオファーでも嬉しいものです。だから、スケジュール的に難しいとき以外は、比較的断らずやるタイプだと思います。仕事ってタイミングとめぐり合わせだな、とつくづく感じます。
自分ひとりだったらこの設定や展開や登場人物は出ないだろうなっていうところからスタートするのが原作ものの面白さですが、今回は映画用に改変してシナリオをつくることを原作者の先生が快諾してくださったこともあって、映画ならではのラストに落とし込めたのは面白かったです。そのラストについては、オープンエンドにしたい松居君とそうじゃない僕とでせめぎ合いがあったんですけど。全編にわたって、お互いが書き直すというやり取りを何度も繰り返して、クラスメイト全員が生き生きとしている物語を完成させることができて、とても満足しています。
――果たして、保彦の時間ループはどのような形で完結するのでしょうか。10年の時をかけて「リライト」されるあの夏のタイムリープの謎と運命の行方については、ぜひ劇場でお確かめください。
【作品名】リライト
6月13日(金) 全国公開
【公式サイト】https://rewrite-movie.jp
【X】@Rewrite_movie
【Instagram】@rewrite_movie
製作・配給:バンダイナムコフィルムワークス
profile

劇作家・演出家・脚本家
上田 誠
1979年生まれ、京都生まれ京都育ち。京都を拠点に活動する劇団「ヨーロッパ企画」代表。劇団本公演の脚本・演出を担当し、外部の舞台や映画・テレビドラマの脚本に加え、番組の企画構成も手掛ける。脚本を務めたテレビアニメ「四畳半神話大系」(2010年)が、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で大賞受賞。2017年、「来てけつかるべき新世界」で第61回岸田國士戯曲賞受賞。時間ものの脚本を数多く手がけ、映画「ドロステのはてで僕ら」(2020年/トリウッド・ヨーロッパ企画)は多数の海外映画祭で受賞を果たす。貴船の旅館を舞台にした「リバー、流れないでよ」(2023年/トリウッド・ヨーロッパ企画)では、第33回日本映画批評家大賞脚本賞を受賞。
writer

椿屋
tsubakiya
映画は「ひとり、劇場で!」がモットーの映画ライター。2024年鑑賞数は267本。人生の映画ハシゴ最高記録は1日7本。各媒体で、着物・グルメ・京都ロケ地といった切り口のレビューを担当する。超大作から自主映画まで、ノンジャンルな雑食。
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