上田 誠さん【前編】京都・思い出のカフェでSFの名手が語る新作『リライト』。驚愕のプロットも公開!

今回のゲストは、6月13日に全国公開を控えた映画『リライト』で脚本を担当した「ヨーロッパ企画」(京都を拠点とする劇団)代表・上田誠さんです。
2020年に公開された映画「ドロステのはてで僕ら」のロケ地となった二条駅近くの『Café Phalam(カフェ パラン)』でお話を伺いました。 ここは実家の焼き菓子工場を改装した事務所兼稽古場(通称・ヨーロッパハウス)のすぐ近くということで、颯爽と自転車で現れた上田さん。
通い慣れたカフェで穏やかにインタビューは始まりました。

『リライト』は、名作「時をかける少女」を再構築した衝撃のタイムリープ×青春ミステリ作品。タイムリープ映画の聖地ともいえる尾道で撮影された本作は、たった20日間だけの恋人との出逢いが巻き起こす“史上最悪のパラドックス”を描いています。
複雑な構造をいかにして快作へと仕上げていったのか、“時間もの”の名手と言われる上田さんの“脳内”も、特別にのぞき見させていただきました。

邪道をつくるつもりが王道に

「リライト」シーン
高校3年の夏、美雪(池田エライザ)は転校生の保彦(阿達慶)と恋に落ちる。彼はある小説を読んでこの時代に憧れ、300年後からタイムリープしてきた未来人だった。1冊の小説をめぐる〈タイムリープ×青春ミステリ〉映画『リライト』は、“SF史上最悪のパラドックス”として評判を呼んだ同名小説「リライト」(法条遥著/ハヤカワ文庫)を原作とし、脚本を担当した上田さんが緻密な時間パズルとして再構築した衝撃の“時間もの”映画。 ⓒ2025『リライト』製作委員会

――本作は、師弟関係として知られる松居大悟監督との初タッグでも注目を集めていますね。

上田誠(以下、上田):
「えげつないタイムパラドックスな小説があるよ!」と、原作が界隈で話題になっていて。僕自身は10年前くらいに知ったのかな。松居君と一緒にやるならこれだな、と思って提案しました。

――上田さんにとって、本作は超得意ジャンルでは?

原作はかなり複雑な時間トリックが使われています。悪意的な要素のある、文芸にしか出来ない鮮烈なラストで。当初は原作のダークな部分を残したまま、突き放すようなラストにできれば……と、「エモい」より「ホラー」なところを狙っていたんですが、思ったより公開規模が大きくなると判った段階で、「王道の青春ものを目指すか!」と路線変更しました。原作の要素はできるだけ生かしながら、自分なりの時間ルールを当てはめて複雑なギミックが構築できたので、得意技に持ち込めたと思います。

上田誠さん

――“時間もの”をつくる上で、一番大事にしているルールは何ですか?

上田:
矛盾がないことですね。整合性を意識しながら、破綻なく小気味よく、物語をパズルのように組み上げていく。常々、映像と“時間もの”は相性がいいと思っているんですが、本作はとくに映像だからこそ遺憾なく気持ちよさが発揮できる構造を練り上げました。

緻密なプロット。脳内のすべてを可視化

――原作「リライト」はバッドエンド版「時をかける少女」(1967年/筒井康隆・著)とも評されています。その「時かけ」をはじめとするこれまでの有名な“時間もの”作品に比べると、冒頭で早くも「え?!」って展開になりますよね

上田:
そうなんです。青春タイムトラベルものの王道を冒頭でやってしまって、それだけで2時間分のドラマがつくれるような内容を見せてからタイトルが出てくる。そこからの延長戦が本筋、みたいな構成です。理系畑ではあるので、元々パズルを解いたりギミックを考えたりするのは得意な方だと思いますが、今回はめちゃくちゃ苦労しました。もの凄く難解なクロスワードを解いていく作業に似ているというか、高次の方程式をひたすら解き続けている感じでした。

――それは気が遠くなりそうな作業ですね……。上田作品はどれも俯瞰でその世界を広く見ているような印象を受けますが、どのようにして物語を組み立てていくのですか?

上田:
まずは緻密なプロットをつくって、シーンにまで分解してから、台本にしていきます。見てもらった方が早いと思うので、本作のブロットを持ってきました。
プロット写真
0.5ミリのフリクションを使用。びっしりと小さな文字で埋められたスケッチブックは、上田さんの頭の中そのもの。

――えぇ?! これ、細かすぎませんか!!

上田:
ね、パズルみたいでしょ(笑)。台本は手書きします。それをパソコンに打ち込むのはスタッフなどに頼むことが多いので、執筆の作業はアナログです。
手書きだと、字の強弱や濃淡によって後から見てもどこに力を入れて書いたのかも分かりますし、文字が崩れてきてるから疲れてるなと気づいて少し休みを取るきっかけにもなります。プロットは考えを可視化するための設計図なので、できるだけグラフィカルに描き出していきます。

「これが青春だ!」

――プロットを拝見しているだけでも、相当苦労されたということが伝わってきます。

上田:
構造が複雑なので、パズリックなだけの脚本にならないように、入り組んだプロットの中に、登場人物たちの感情をできるだけ盛り込もうと苦心しました。それでも、書き上げたときには割と観る人を選ぶかな? と思いましたが、仕上がりを見るとその心配は杞憂でした。

――キャラクターたちは、みんな、ちゃんと青春してましたね。

上田:
そこはもう自信をもって書くように心がけていました。
僕が40代だからといって、イマドキの高校生をモンスターみたいに見てしまうと書けなくなってしまうので、現在のリアルな青春を写し取るよりも、怖気づかず「これが青春だ!」と言い切ってしまおうという気持ちでした。まあ、好きなことをやってここまで来たので、自分自身が超大人になってるかと言われたらそういうわけでもないですし(笑)。

―そんな本作のお気に入りシーンを教えてください。

上田:
図書館のシーンかな。美雪と保彦の出逢いだけでなく、美雪と友恵(橋本愛)というクラスの中心からは少し外れている女子ふたりの友情が秘かに育まれる場所としても特別な感じが出せたと思います。
『リライト』シーン
左/元は理科準備室の設定だったという図書館のシーン。右/大林宣彦監督の「時をかける少女」へのオマージュを込めて、松居監督から「尾道で撮りたい」と言われた瞬間、「えっ、マジで?!」と思った上田さん。
ⓒ2025『リライト』製作委員会

尾道ならではの爽やかな風が吹く映画『リライト』は、ぜひ劇場で。 続く後編は、インタビューの場所にリクエストされた思い出の場所『Café Phalam』のおすすめメニューや、言葉を操る上田さんならではの視点が冴えた食の話をお届けします。

『リライト』台本、リーフレット

【作品名】リライト
6月13日(金) 全国公開
【公式サイト】https://rewrite-movie.jp
【X】@Rewrite_movie
【Instagram】@rewrite_movie
製作・配給:バンダイナムコフィルムワークス

profile

上田誠さん

劇作家・演出家・脚本家

上田 誠

1979年生まれ、京都生まれ京都育ち。京都を拠点に活動する劇団「ヨーロッパ企画」代表。劇団本公演の脚本・演出を担当し、外部の舞台や映画・テレビドラマの脚本に加え、番組の企画構成も手掛ける。脚本を務めたテレビアニメ「四畳半神話大系」(2010年)が、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で大賞受賞。2017年、「来てけつかるべき新世界」で第61回岸田國士戯曲賞受賞。時間ものの脚本を数多く手がけ、映画「ドロステのはてで僕ら」(2020年/トリウッド・ヨーロッパ企画)は多数の海外映画祭で受賞を果たす。貴船の旅館を舞台にした「リバー、流れないでよ」(2023年/トリウッド・ヨーロッパ企画)では、第33回日本映画批評家大賞脚本賞を受賞。

writer

椿屋

tsubakiya

映画は「ひとり、劇場で!」がモットーの映画ライター。2024年鑑賞数は267本。人生の映画ハシゴ最高記録は1日7本。各媒体で、着物・グルメ・京都ロケ地といった切り口のレビューを担当する。超大作から自主映画まで、ノンジャンルな雑食。