
深川麻衣さん×冨永昌敬監督【後編】人生初ぶぶ漬けの衝撃。撮休日は食巡り計画!?
アドリブで小鳥居がお守りに?
――冨永監督はその場の状況を踏まえて思わぬ演出をされるというお話でしたが、記憶に残っているシーンはどこですか。
- 深川麻衣さん(以下、深川):
- 立ち小便防止用の小鳥居を外して持って帰りましょうっていうのも、台本にはなくて。
- 冨永監督(以下、冨永):
- あれは、深川さんを見て決めたんですよ(笑)。
- 深川:
- みんなが、えぇ?!って。で、持って帰ることになったんですが、あのシーンは順撮りだったので、ずっと持ったままで。なんだか、悪霊退散!みたいなかんじになっています。
- 冨永:
-
あれは、鳥居を外してバッグに入れて持って帰るだけで面白かったんです。だから、その後のシーンでも持っている状況は想定していなかったので、室井さんと言い合いしてる間も持ったままで、「鳥居、いつまで持ってるんだろう……?」って思いながら見てました(苦笑)。
ラストカットで、ぶぶ漬けを食べ終わったお茶碗をテーブルの上に置く場面でも、ちゃんと映るように鳥居を添えてくれて。外して持って帰ろうって言ったのは僕ですけど、それをずっと使いこなしてくれたのは深川さんです。その後の生活は映画では描かれないですが、まどかは毎日鳥居を持って生活するんだろうなって思わせてくれる。
- 深川:
- 御守りのように。
- 冨永:
- それによって、他の人が何と言おうが私はこれを信じてるっていう意味合いが生まれました。深川さんはその場の思いつきを驚いたように言うけど、その直前の深川さんを見て提案しているので、こういったアドリブはキャッチボールだと思っています。俳優やスタッフたちに面白がってもらうのが一番ですから。
ざらり、その余韻も映画の醍醐味
――監督の思いつき以外にも、台本が変わることはあったのでしょうか。
- 深川:
- ラストシーンの室井さんのセリフも、本当は違ったんですよね。
- 冨永:
- あれは、その場で台本を書き直しました。室井さんから、「このシーンに私はいない方がいい」って言われて。けっこうビックリしたんですけど、話を聞いていると、室井さんが言ってることの方が正しいんですよ。そのホンの書き直し作業が、実は一番楽しかった。
――書き直して、いかがでしたか。
- 冨永:
- よかったです。もっとホンがよくなりました。ただ、全くいないのは勘弁してくださいって室井さんに頼んで、そこ(仏壇前)で会話には参加せずに、お線香を上げてもらいました。
- 深川:
- 最後、「お義母さ~ん、ぶぶ漬け食べますか~?」って訊くけど、返事がない。あの、ちょっとどうなっちゃうんだろう……っていう、ざらっとした感触が残る終わり方が、個人的には好きです。きれいにまとまるよりも、めでたし……なの、か? みたいな。あえて監督がエンドロールをつくらずに「おわり」って締めているのも含めて、帰り道、なんだったんだろう?って、ざわざわするような余韻さえも面白がってもらえたらうれしいです。
初めて食べた赤飯のぶぶ漬け
――食事シーンの多い作品ですが、劇中、おいしかったのは何でしょう。
- 深川:
- え~、それこそ……。
- 冨永:
- (小声で)鮨、鮨、鮨。
- 深川:
- 鮨?
- 冨永:
- お義父さんと一緒に食べた鮨じゃないの。
- 深川:
-
たしかに! あれは間違いなくおいしかったですね。
お惣菜はもちろん、本当に全部おいしかったですね。一番印象的だったのは、最後に食べたお赤飯としば漬けのぶぶ漬けかな。お茶漬けといえば、海苔をまぶしたところに梅干しのせてお茶をかけるイメージだったので、ちょっと衝撃でした。
人生で初めてでしたが、しば漬けのポリポリ感がアクセントになって新鮮でした。
- 冨永:
- お赤飯にお茶をかけるって、僕もこれまでやったことなかった。
――台所に並んだ野菜も瑞々しくて美しかったです。監督は食事シーンにどんな思い入れがありますか?
- 冨永:
- 昔は食事シーンに全然興味がなかったから、食事をしている場面でも食べている物が映ってなかったり、印象に残せなかったんですよね。どうやったら食べ物がおいしそうに見えるのかなって思ってました。最近になって、自分の撮っている作品の中で食べ物が大事になってきたのかもしれません。
――本作の食事はどれもこれもおいしそうな画で、思わず見入ってしまいました。
- 冨永:
- まどかは取材する気満々で京都へ来ているので、全部見ようと思ってたはずなんです。ライターという職業柄、扇子屋さんの仕事の話も聞こうとするし、室井さんが支度する横で写真何枚も撮ったりする。なので、ごはんもいろいろと用意しました。京都=和食というのは僕たちの偏見だろうとも思ったので、クリームシチューをぐわ~って混ぜてる様子も撮りました。
台本にこっそり書いた食べたいものリスト
ーー撮休日や撮影が早く終わった日はみなさんそれぞれ自由行動で、いろんなところに行かれていたと思いますけど。深川さんはどこか行きました?
- 深川:
- 私は、松尾さんから教えていただいた『スパイスチャンバー』がとてもおいしくて、ハマってしまいました。撮影中は全力をかけてごはんを楽しみたい!と思っていたので、台本の最後のページに〇日カレー、〇日ラーメン、行けるかな~って「?」つけたりして、スケジュールをメモしていたくらいです(笑)。
- 冨永:
- 僕は、映像作家の由良泰人さんに案内してもらって、五条モールのカウンターだけの居酒屋『えでん』(※現在は祇園で『喫茶 エデン』として営業)と、その近くにある『酒と肴 土と日』に行きました。そこで、この時季はこういうものをよく食べるよとか、京都のふつうのおうちで出てくる食材やレシピなどを聞きました。物語が11月くらいの設定だと伝えると、里芋の炊いたんや、小かぶの漬物が食卓に上ると教えてくれて、作品づくりの参考にさせてもらいました。
- 深川:
- ああ、それで。律くんが里芋をいくつも頬張ってたのを思い出しました。
――料理や着物をはじめとする和文化だけでなく、商いやものづくりの伝統、上級なコミュニケーション術でもある“いけず”に見る気質といった価値観をも描く本作には、監督を筆頭とする“よそさん”ならではの愛やアイデアが満載です。リアルでどこか可笑しみを湛えた京都という迷宮に、みなさん、どうぞおこしやす。
【作品名】ぶぶ漬けどうどす
6月6日(金) 全国公開
【公式サイト】https://bubuduke.jp
【X】@bubuduke_movie
制作・配給:東京テアトル
profile

俳優
深川麻衣
1991年生まれ、静岡県出身。2017年、初となる主演映画「パンとバスと2度目のハツコイ」で第10回TAMA映画賞最優秀新進女優賞を受賞。以後、数々の作品に出演し、「おもいで写眞」(2021年/イオンエンターテイメント)、「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」(2023年/日活、KDDI)、「嗤う蟲」(2025年/ショウゲート)で主演を務める。その他、「特捜9」シリーズ(2022年~/テレビ朝日)、「彼女たちの犯罪」(2023年/読売テレビ)などのドラマ、舞台や朗読劇など多くの場で活躍している。

映画監督
冨永昌敬
1975年生まれ、愛媛県出身。日本大学藝術学部映画学科卒業。「パビリオン山椒魚」(2006年/東京テアトル)にて長編商業映画デビュー。主な映画作品に、「コンナオトナノオンナノコ」(2007年/アムモ)、「パンドラの匣」(2009年/東京テアトル)、「乱暴と待機」(2010年/メディアファクトリー、ショウゲート)、「南瓜とマヨネーズ」(2017年/スターダストピクチャーズ)など。前作「白鍵と黒鍵の間に」(2023年/東京テアトル)は、フランスのKinotayo映画祭コンペティションにて審査員賞を受賞したほか、Japan Cuts(ニューヨーク)、台北金馬映画祭、香港国際映画祭などに正式出品され、高い注目を集めた。

recommend